「送迎できない…」 共働き家庭の悩みに応え、保育園でできる”習い事”の導入広がる 進む少子化、人数集めたい業者の狙いも背景に
長野市の私立保育園などで、保護者の迎えを待つ夕方の時間帯に、幼児教育や音楽、運動といったいわゆる「習い事」を、希望した家庭向けに導入する事例が広がりつつある。
活動が園内のため、保護者は習い事のために送迎をせずに済む。
園にとっては特色の一つとなる一方、業者側はまとまった人数を指導しながら、卒園後も続けてもらう機会につながる。
共働きが増え、少子化が進む中でニーズが合致したともいえる現場の様子を、同市内の保育園で取材した。
「今日のお勉強を始めます」
昨年12月のある日、長野市の済生会長野保育園で午後4時半になると、遊戯室に年少から年長までの園児約20人が集まった。
あいさつしたのは、学習塾「学研教室」を市内で開いている松木美保さん。
子どもたちは机の教材のプリントに手を伸ばすと、それぞれ文字や線を書いたり、数や図形の問題を解いたり。
この日は松木さんとスタッフの計5人が近くで見守り、「先生、できたよ」と声を上げた子に花丸をあげた。
延長保育の時間を活用 同園は半年前から週1回、延長保育の時間帯に松木さんに場所を提供。
希望した家庭の子たちが45分間の教室に参加する。
じっと座っている子、歩き回る子とさまざまだが「それぞれの個性、集中力に合わせて学びの場を提供する」と学研教室長野事務局(長野市)の担当者は説明する。
月謝は個別の教室に通う場合と同額の約7千円で、自宅でも宿題に取り組む。
保護者から要望 若狭知子園長は、導入を決めた理由として「保護者側から『何か(習い事を)やらないのですか?』と聞かれる機会が増えた」と振り返る。
周辺の保育園で外部の教室・団体に場所を提供する動きがあり、学研の提案を受けて保護者へのアンケートを実施。
好意的な意見が多く、「送迎の手間を省けることと、お友達関係も環境も見知った中でできれば子どもたちの気持ちの負担も和らぐ」と感じている。
「送迎ある習い事はできない」 終了時に迎えに来た年長児の母親2人は「送迎のある習い事はなかなかできない」と口をそろえ、こうした学習の場が、小学校入学後の生活や授業への足掛かりになることを期待する。
学研の長野事務局によると、須坂市の幼稚園や佐久市の保育園でも課外教室を実施している。
一方、昨年1月からピアノ教室を希望者向けに始めたのは長野市の善光寺保育園。
週2回、保護者の迎えが始まる頃にピアノの音色が響くようになった。
県内で音楽教室を手がけるヒオキ楽器(長野市)の講師、石田秀子さんが訪問し、ピアノのある部屋で園児を1人ずつ指導する。
計8人の枠はすぐに埋まり、他にも数人が希望しているという。
働く保護者の負担を軽減 習い始めた年中児の30代の母親は「慣れた場所なので緊張しないでレッスンに入れる」と話した。
石田さんは「働く保護者の送迎の負担を軽減して、感性を育む音楽を学べる課外教室の存在は大きい」と話す。
園児に習い事の機会を提供することは園独自の特色にもなる。
同園主任保育士の牧野さゆりさんは「(保護者が入園を考える際に)いろいろな園を見学する中で選択肢の一つになればいい」と期待する。
ピアノが好評のため、昨秋さらに希望者向けの体操教室も導入した。
長野市内では延長保育中に習い事を試行・導入する事例が他にもある。
雷鳥保育園は芝の園庭でサッカー教室を企画。
フレンドこども園では英会話やリトミックに加え、近くのスイミングスクールが園までバスで迎えに来ている。
県内の他地域でも、夕方以降の体操教室などが伝統的に続いている保育園がある。
子育て支援に詳しい飯田短大(飯田市)准教授の隣谷正範(となりや まさのり)さんは「人口が多い都市圏で(延長保育時に習い事の機会を提供する動きが)顕著になっている」と指摘。
業者の選定などで公立園ではハードルが高いため、私立園での導入が進んでいるとみる。
一般的に幼い頃からの習い事への関心は高まっているとし、「新しい環境になじむまで時間を要する子もいるので、慣れた場所でいつも一緒の友達と世界を広げたり、主体性を身に付けたりするメリットがある」と説明する。
隣谷さんによると、東京や大阪では空手や茶道、クラシックバレエ、絵画教室など取り入れる習い事の幅が広がっているといい、少子化が進む中で「園の差別化を図る狙いもある」。
今後県内でも広がる可能性があるが、どういった習い事を取り入れるか、業者に場所を貸す形態での責任の所在をどうするか―など、考えるべき課題もあるとした。
参照元∶Yahoo!ニュース