運転免許センターの「カスハラ」、目撃談多い背景は?「怒鳴って謝罪求める高齢者」「加工写真使えず泣きわめく女性」

運転免許センターを撮影した写真

自動車を運転する人なら避けて通れないのが、運転免許の更新だ。

手続きは全国の免許更新センターや警察署でおこないますが、どういうわけか高圧的な態度の利用者に遭遇するケースがある。

弁護士ドットコムニュース編集部の記者が更新に訪れると、高齢男性が職員に「立って謝罪させる」現場を目撃した。

そこで、さらに情報を集めてみると、カスハラ行為の目撃談が多数集まる結果に。

免許更新の現場では「カスハラ」が慢性的におこなわれているのだろうか。

一方で、態度に問題のある職員の目撃談も複数寄せられる結果となっている。

免許センターの取材を始めたきっかけは、記者自身の体験だ。

今年4月末、更新にやってきた府中免許試験場(東京都府中市)。

廊下の長椅子に並んで座った高齢男性が男性職員に問いただしていた。

ただならぬ雰囲気で声を荒げているため、周囲の人たちも注目している。

「いつも高齢者にそんな態度なんだろ!謝れ!立って謝れ」

それまでのやりとりの流れがわからず、どこまで職員側(施設側)に非があるかわからない。

だとしても、「立って謝罪しろ」はやり過ぎだと感じる。

実際に職員は立ち上がり、頭を下げて謝っていた。

この出来事を編集部内で話すと、江東運転免許試験場で数週間前に免許を更新した同僚も「ビデオ視聴の時に机に寝そべっていた50代ぐらいの男性が講師役の職員から注意され、『黙れ!どけ!』と怒鳴っていた」との目撃談を教えてくれた。

SNSなどを検索してみると、免許更新に訪れた施設で「怒鳴る人を見た」「クレーマーのせいで行列ができた」といった趣旨の投稿が数多く存在するのがわかった。

人が怒鳴られているのは、見ている側からしても不快だ。

免許試験場は各地の警察が運営している。

警察ではどんなカスハラ対策を講じているのだろうか。

福岡県では、全国の警察に先んじて、警察職員へのカスハラ対処マニュアルを1年前の2023年5月に策定した。

適切な対応をしている警察職員に対して「過剰なクレーム」「暴言・威嚇・脅迫行為」「過度な謝罪の要求」「長時間の居座り」「SNSへの誹謗中傷」などのいわゆる『カスタマーハラスメント行為』があった場合、対応の打ち切りや退去を求めるとしている。

東京都では現在、カスタマーハラスメント対策のための条例が作られようとしている。

府中試験場を運営する警視庁に「免許試験手続きにおけるカスハラ」の取材を申し込むと、「カスタマーハラスメントに関しては、これまでも個別具体的な状況に応じて適切に対応しているところですが、東京都におけるカスタマーハラスメントに関する条例化の動向を踏まえつつ、必要な検討を進めてまいります」と回答があった。

当事者である職員の声を直接聞かせてほしいとの要望も送ったが、今回は実現しなかった。

続いて弁護士ドットコムニュースでは独自に、免許関連施設におけるカスハラの情報を募集した。

職員へのカスハラにあたりうる言動の目撃談が複数寄せらた。いくつか紹介する。(メッセージは内容を損なわない範囲で編集している)

・女性職員に怒鳴る中年男性

「昨年冬に、愛知県の●●警察署で女性職員へのあからさまなカスハラを目撃しました。運転免許更新の際、必要な書類が揃っていなかったらしく、中年男性が女性職員に『そのくらい融通きかせてくれてもいいだろう!』と何度も怒鳴っていました。そのうちマッチョな男性職員が出てきたら、そのおじさんはすごすごと帰っていきました」(60代女性)

・アプリでピカピカに加工した写真を拒否されて泣きわめく女性

「数年前に中部地方の運転免許試験場で目撃しました。アプリで修正した写真を免許証に使いたいと泣きわめいてる女性がいて、職員さんはドン引きされてました。あまりに加工が過ぎると、証明書には使えないですよね。その後、女性はその顛末をSNSに投稿していました」(40代女性)

・「税金で暮らすデクノボー」暴言連発の男性が警察に連行されていった

「10年ほど前でしょうか。岡山県の運転免許試験場で更新手続きをしていたら、私の前にいた50代後半から60代前半に見える男性が、『何だよ!またかよ、そんなの払わなきゃいけないのか?オレらの払った税金でメシ食ってるクセに、エラそうに言うな!』と職員に激怒していました。任意である交通安全協会費の協力を頼まれて、気に入らなかった様子です。職員はお断りできる旨も丁寧に説明していたので、言い過ぎだと思いました。『お前らはドロボーだ』税金で暮らすデクノボー』ガソリン代が高いのもお前らのせいだ』などと難癖をつけ続け、他の警察官に連行されました。男性が数分間占領していたので、窓口の列が長くなっていました」(50代女性)

⚫︎「職員だって態度が悪い」こんな意見も

一方で、職員に対する不満も散見される。

「10年前くらい、●●の免許センター。警察官が並んでいる全ての人に、『お前はなんでこんなに遅いんだ』と1人1人に怒鳴りつけていた」(50代女性)

「数年前に免許の更新のための交通違反者講習の際に、スマホを見ていた受講者に対し、教習員が『貴様!出ていけ!』と、大声で怒鳴ったことがありました。静かな講堂での出来事だったので、非常に驚きました。(60代男性)

どうやら運転免許の試験場などでは、やはりカスハラにあたりうる言動を見聞きした人は少なからずいるようです。

⚫︎運転免許センターでカスハラが起こりやすいと言えるのか?

なぜこのような施設でカスハラは起こるのだろうか。

地方公共団体や行政機関などで不当要求対応やカスハラ対応について講師をつとめている河西邦剛弁護士に聞いた。

――運転免許試験場等における”カスハラ”を見聞きした人がいました。どのように受け止めますか。

メディアで高齢ドライバーの事故や免許返納が盛んに取り上げられる中で、不満を溜めている層があるかと思います。

そうした高齢者だけでなく、違反に納得できない運転手や試験に不安な人など、運転免許試験場は利用者にストレスを感じさせやすい施設と思われます。

「いつも高齢者にそんな態度ないだろう」
「税金でメシ食ってるクセに」  
「偉そうに言うな」

不満が重なって激昂したときに普段抑えている本音が飛び出してくることがあります。

自分たちの税金や交通違反の罰金で運営される施設だと思えば、なおさら怒りを目の前の職員にぶつけてしまうのではないでしょうか。

民間の施設であれば、「契約自由の原則」があり、迷惑行為に及ぶ客を入店拒否できますが、公共の施設では基本的にそうした措置を取れません。

刑法上の違法行為をされた場合に警察を呼ぶのが最終手段になります。

――全国に先駆けて公的施設におけるカスハラを防止するための都条例が制定される見込みです。免許試験場でもカスハラに対応する動きが出てくるでしょうか。

今回の都条例ではカスハラに該当するとしても罰則は設けられず実効性を疑問視する声があるのは事実です。

しかし、役所や都庁においては、カスハラに該当すると判断したので接客対応を打ち切るという手法を取りやすくなります。

さらに、それでも執拗に対応を迫られた場合には、現状の刑法にある強要罪・脅迫罪や威力業務妨害罪に該当しやすくはなるでしょう。

運転免許の手続きをする施設でも、威圧的な態度の利用者には公平でありながらも毅然とした対応を取るようになる可能性は考えられます。

参照元:Yahoo!ニュース