「いつもの仕事手順が分からない」 働き盛りで発症する「若年性認知症」の恐怖と苦悩
65歳未満で発症し、記憶力の低下や気分の落ち込みなどがみられる「若年性認知症」。
働き盛りの人に症状があらわれるケースが多く、国内では3万5700人に上るとされる。
発症すれば離職を余儀なくされるなど、これまでの日常が一転しかねない。
当事者らは、社会全体の課題として若年性認知症への理解やサポートが進むよう訴えている。
大阪市東成区内の一室で5月下旬、若年性認知症を患う50~60代の男女6人が意見を交わしていた。
議題は紙芝居を子供に分かりやすく伝える方法。
その後、全員で紙芝居の練習に取り組んだ。
同市のNPO法人「認知症の人とみんなのサポートセンター」が定期的に開く、社会復帰に向けた活動の一場面だ。
この日の活動では、紙芝居の練習やくるみボタンづくりに熱中。
参加者からは笑みがこぼれるが、それぞれ抱える問題は根深い。
大阪府泉大津市の男性(64)も、同法人と出会うまで人生のどん底にいたという。
男性はもともとリフォーム業などを営み、多数の取引先を抱えるビジネスマンだった。
異変が起きたのは昨年の初夏。
いつもなら目をつむってもできる壁紙の張り替え作業の手順が分からなくなった。
疲れや老いのせいだとも考えたが、何度も同じような状況が続き、作業にも支障が出始めた。
苦渋の決断だったが、「突然仕事ができなくなってしまった」と取引先にも事情を説明。
異変が起きて間もなく、事業から身を引くことにした。
自宅に引きこもるようになり、それまではさほど興味のなかったネットゲームに明け暮れる日々が続いた。
約2カ月が過ぎたころ、体調を心配する妻から「表情が険しくて話もしない。おまけに物忘れも最近ひどくなっている」と告げられた。
すぐに病院で検査をすると、63歳で「アルツハイマー型認知症」と診断された。
「俺が認知症になるわけがない」。
最初は何を言われても信じられなかったが、大好きなギターを手にしても弾き方が思い出せずバンド活動も気乗りしない。
「何かがおかしい」と感じた。
同法人の杉原久仁子副代表(60)らによると、診断を受けて間もないころの男性は活動に参加しても口数が少なかった。
ただ、他の参加者たちの体験談を聞き、悩みや困りごとなどを話し合うことで自身の病気と向き合えるようになったという。
男性は現在、同法人で活動を続けながら、就労継続支援事業所で包装などの作業に週2回のペースで参加しており「居場所があることの大切さや、働くことの達成感をいま改めて実感している」と笑顔をみせる。
一方、認知症であることを打ち明けた際の相手の反応から、偏見を感じることもあるといい、「記憶力の低下や物忘れはあるけれど、日常の会話や簡単な作業などできることも多い。
自分たちのことを誤解しないでほしい」と訴える。
東京都健康長寿医療センターが令和2年に発表した調査結果によると、国内の若年性認知症者数は推計で3万5700人。
18〜64歳までの人口10万人当たりの有病率は50.9 人で、年代別でみると50~54歳は43.2人、55~59歳になると110.3人と急増し平均有病率の倍になる。
管理職や経営者らが発症後、離職や休職を余儀なくされるケースも多く、居場所の確保が大きな課題となっている。
認知症介護研究・研修大府センター(愛知県大府市)の鷲見幸彦センター長は「現役世代が離職すると家族も経済的に困窮し、最悪の場合は家庭崩壊などにつながる」と指摘。
症状との向き合い方や日常生活の変化に対応できず、本人や家族が社会から孤立するケースも目立つという。
鷲見氏は地域に認知症の人を支える環境があることが望ましいとし「適した場所さえあれば、活躍できる人もいる。
周囲も『能力がない人』と過小評価せず、先入観をなくして接することが理解への一歩になる」と強調した。
参照元∶Yahoo!ニュース