海外からSNSで選挙介入?疑惑のアカウントに取材 ロシア関与の指摘、返ってきた答えは

SNSの情報をチェックしている人

2025年7月20日の投開票を間近に控えた参院選の終盤、小泉進次郎農林水産相らが相次いで、SNSでの情報操作など「外国勢力による選挙介入」に言及した。

同じ時期には、あるウェブサイトやX(旧ツイッター)のアカウントを名指ししてロシアによる介入を指摘する投稿が現れ、名指しされたアカウントはほどなくXに「凍結」された。

名指しされたサイトの管理者に取材を申し込むと、「疑惑」を否定する回答が返ってきた。

果たして外国勢力の介入はあったのか。

これまでに分かっていることをまとめた。

小泉農水相は7月15日、SNSなどインターネット上での過激な主張について、「外国勢力が利用、拡散して自民党をおとしめよう、日本の政治を不安定化させよう(としている)」と街頭演説で発言した。

同じ日には平将明デジタル相も閣議後の記者会見で、「外国においては、他国から介入される事例なども見て取れる。今回の参議院選挙も一部そういう報告もある」と述べ、注意深く見守る姿勢を示した。

政府高官の発言は続いた。

青木一彦官房副長官は16日、一般論として、ある国が他の国の世論などに影響を及ぼすため、偽情報の拡散といった影響工作を行うことがある、とした上で、「我が国もこのような影響工作の対象になっている」との認識を示した。

こうした中、情報法制に関する研究機関の幹部が書いたインターネット上のある投稿が注目を集めた。

「ロシアがXやTikTokなどのSNSで、大量のアカウントを使って日本政府・与党に対するフェイクニュースや印象操作を行った投稿を拡散させている」などと主張し、特定のXアカウントやウェブサイトが「中心的な役割を果たしている」と名指しで批判。

このウェブサイトはロシアの政府系通信社「スプートニク」の記事を多く引用、拡散し、多くのアクセスを集めていると訴えた。

幹部は投稿で「調査手法に関するお問い合わせにはお答えできません」と明記しており、主張の根拠や裏付けは不透明だ。

ただこの投稿は、自民党の小野寺五典政調会長や国民民主党の玉木雄一郎代表、日本維新の会の前原誠司共同代表らがX上で引用して問題視するなど、大きな注目を集めた。

名指しされたウェブサイトは「Japan News Navi(JNN)」。

報道機関のニュースやそれに対するSNS上の反応などを収集した「まとめサイト」だ。

閲覧する限り、石破茂首相や岩屋毅外相を辛らつに批判する論調が目立つ。

また、愛知県の起業家支援事業について「外国人支援に使われた」と投稿し、同県が「明らかに間違っている」と反論。

投稿が取り消されたこともあった。

一方、情報を拡散していると指摘された複数のXアカウントは、10万~25万程度のフォロワーを有する「インフルエンサー」的なアカウントだった。

JNNの投稿について、デジタル情報空間の分析に詳しい「ジャパン・ネクサス・インテリジェンス」が2~3月に調べていた。

高森雅和代表によると「情報の拡散のされ方に不自然な点があった」という。

JNNの投稿に対して返信やリポスト(引用投稿)をしているXアカウントを分析したところ、全体の35%が短時間に数百以上の返信やリポストを繰り返すといった動きを見せていた。

「ボット」と呼ばれる特定の行動を自動で繰り返すプログラムが使われた可能性もあるという。

高森さんは「人間っぽくない機械的な動きで、35%は多いと言える」。

Xはたくさんの返信やリポストをされた投稿を「人気がある」と判断し、より多くの人に表示されるようにすると指摘。

「多くの人に見てもらうために、グループ内で拡散しているのではないか」

ただ、こういった操作を誰がやっているのかは明らかにならなかった。

「このウェブサイトが不正な拡散活動をやっているのかは分からないし、外国勢力の活動かどうかも断定はできない」とも述べた。

JNNは最近、複数のインフルエンサーを「関連アカウント」として扱うようになっていた。

この中には、「情報の拡散に中心的な役割」を果たしていると名指しされたインフルエンサーもある。

米シンクタンク「大西洋評議会」で偽情報などの分析や研究を行う「デジタルフォレンジック研究所(DFRLab)」が2024年12月に公表したレポートは、このうち2つのインフルエンサーを「親ロシア的」とし、うち1つは「親ロシア派コミュニティでは最も人気がある」とみなしていた。

また、東京大学の鳥海不二夫教授が行った分析によると、JNNやインフルエンサーのアカウントのフォロワーのうち、38.3~87.5%がロシア政府系通信社スプートニクの投稿を拡散したことがあったという。

新聞社や雑誌社のアカウントのフォロワーは10%前後だったのと比較すると、際立って多いといえる。

このように、ロシアの主張を拡散するような存在とみなされるJNN関連のインフルエンサーだが、DFRLabの分析ではアカウントの運営に外国政府が関与していた証拠は見つかっていない。

鳥海教授も「否定はできないが、それ以上は踏み込めない」と分析結果に記している。

ネット上で騒ぎが広がり始めた16日になって、JNNと複数のインフルエンサーのXアカウントが突如、「凍結」された。

凍結とはXの運営会社により活動を一時差し止められた状態で、同社のルールによれば、暴力行為やヘイト行為に関わった場合のほか、「選挙やその他の市民活動の操作や妨害」を目的とした利用があった場合にも適用される。

ただ、明確な理由の説明はなく、なぜ凍結されたのかは不明だ。

SNSを使った外国勢力の介入は、2024年にあったアメリカやルーマニアの大統領選などでも指摘されている。

ただネット上のやりとりは容易に削除され、アクセス記録を調べられないなどの理由で裏付けを取るのが難しく、誰が何の目的でこうした活動をしていたのかは、なかなか明らかにならないのが実情だ。

取材班がJNNにメールを送ったところ、「個人運営のただのまとめサイトで、常識的に考えて一般人がやってるサイトとロシアの政府につながりとか、狂っているのではないか」と外国勢力の関与を否定する回答が返ってきた。

インフルエンサーが関われば、投稿が急速に拡散するのは「当たり前だ」と反論。

インフルエンサーを関連アカウントにしたのは、これらのアカウントが凍結されるリスクを回避するためや表示率を上げるためだったとした上で、「議員によるデマ拡散で、とんでもない言論弾圧をされて迷惑をかけてしまった」と説明した。

「親ロシア的」と指摘されている複数のインフルエンサーについては「たまたま声を掛けただけで、親ロシアとか正直、海外にあまり興味ないので、知ったこっちゃないです」と述べた。

「政府か議員か、誰が動いたか知らないが許せない。何年もかけてフォロワーを集めて頑張ったのがパーだ」とアカウントの凍結に怒りをにじませ、「訳のわからない投稿を議員が示し合わせたかのように拡散して凍結に追い込むとか、本当に日本なのか」と主張した。

外国勢力の介入の可能性も指摘される中、私たちはSNSの情報にどのように向き合っていくべきなのか。

ジャパン・ネクサス・インテリジェンスの高森さんは「盛り上がっていたり、声が大きくなっていたりと思うものが実は水増しされていて、多くの人の声ではないことがあるので、そこは割り引いて考える必要がある」と指摘する。

また、SNS上ではアルゴリズム(計算手法)によって、「おすすめ」「人気急上昇」といった形でバズっている投稿が優先して表示されるようになっており、「見たい投稿を自主的に選択するのはなかなか難しい」とも分析。

「SNSやインターネットから情報を得る時は、反対の意見も見るのはすごく大事だ」。

偽情報の中には、全く根拠のないもののほかに、「発言自体は事実だが、全く異なる文脈で取り上げられる」パターンもあると指摘。

元々の発言内容を確認するといった「一次情報を見ることも重要だ」と強調した。

XがJNNとインフルエンサーのアカウントを凍結したことについては、「アカウントを批判する機会もなくなってしまったので、良い手ではなかった。選挙期間という微妙な時期なので、凍結するなら根拠を示さないといけないと思う」と指摘。

「プラットフォーマーは透明性が非常に求められるし、それが社会的に果たすべき責任だと思う」と話した。

参院選後の7月22日、平デジタル相は「インターネットや生成AIの発達によって、外国から民主主義の根幹である選挙に介入される素地ができあがってきた」と懸念を表明。

「政府の体制もまだまだ十分ではないし、新しい法律が必要かもしれない」として、法整備の検討に前向きな姿勢を示した。

参照元:Yahoo!ニュース