「それじゃ誰も乗せてくれんよ」 ヒッチハイク中の京大生をおばあちゃんが指南 結果的に〝神〟だった

ヒッチハイクをイメージした画像

京都大学吉田寮の寮祭名物企画「ヒッチレース」。

参加者は目隠しをされてドライバーから「国内のどこか」へ車で飛ばされ、ヒッチハイクを駆使して寮への帰還を目指す。

初参加の大学生を帰還まで導いたのは、神社で出会った「ヒッチレースの神」だった。

1913年に建てられ、現存する国内最古の学生寮といわれる京大「吉田寮」。

今年は5月24日~6月1日に寮祭が開かれた。

その名物企画がヒッチレースだ。

55人が参加。

寮生は一部で、寮や大学の外からも多くの人がやってきた。

5月24日0時。

多数のドライバーたちの車にくじで振り分けられ、参加者たちは分かれて乗車。

到着するまで、どこに降ろされるのかは見当がつかない。

さらに運営が推奨するのは手ぶらでの参加。

身一つで見知らぬ土地からスタートする。

「レース」といえど帰還の「早さ」を競うわけではない。

帰還の過程の「おもろさ」が注目され、参加者たちは後日寮で開かれる「お土産話会」で聴衆にエピソードを披露する。

初めて参加した京都大学総合人間学部の3回生・川副孝文さんは、全体の33番目に帰還した。

吉田寮生ではないが、ヒッチレースの存在は1回生のときに授業で教員から聞いて知った。

昨年も参加する気満々だったが、集合時間の「0時」をその日の「24時」だと勘違いするミスをしたそう。

X(旧ツイッター)でレース関連の投稿を目にし、自分が参加を逃したことに気づいた。

1年間待ち続けて念願の初参加。

「ヒッチハイクできなくても歩いて帰ってきてやる!」くらいの気概で臨んだ。

「ここは何県ですか?」

同じ車に乗せられた参加者は自分含めて4人。

目隠しをし続けての移動は、起きていてもずっと目を閉じていなければならず、「疲れました」と語る。

道中で1人ずつ降ろされていき、最後の1人に。

午後4時に着いたのは埼玉県秩父市の「三峯神社」だった。

佐賀県出身で関東には土地勘がない。

神社の売店で「ここは何県ですか?」と聞くと、「秩父です」。

「秩父ってどこですか?」「埼玉です」。

店の人は不思議そうな顔で教えてくれた。

三峯神社の駐車場のほうへ少し下って目的地を書いたボードを掲げていると、乗せてくれることになったのは「74歳のおばあちゃん」。

さいたま市の大宮駅まで運んでくれることになった。

持参したホワイトボードに「甲府・山梨(→京都)」と書いていましたが、おばあちゃんは車中で様々な助言をくれた。

「それじゃ誰も乗せてくれんよ。信用してもらえるように『京大』って書きなさい」

「みんな競争は好きだから『レース』も入れなさい。でも『ヒッチレース』じゃ何のことか分からないから『ヒッチハイクレース』って書いておきなさい」

「あなたは1人でいたから乗せたのよ。2人だったら乗せてない。いたずらされそうだから」「ただ立っているだけじゃだめよ、声をかけていかないと」

この助言がゆくゆくの運命を左右する。

おばあちゃんはアドバイスをくれただけでなく、交通費として1000円までくれたそう。

大宮駅で降ろしてもらい、ICカードにチャージして571円でJRで東京駅へ移動した。

着ていたパーカーを脱いで布団にして駅構内で就寝。

「同じように寝ている人たちがずらっといて、そこに紛れて寝ました。4時くらいに目が覚めたらみんないなくなっていました」

東京駅から東京インターチェンジのある世田谷区の用賀までJRと東急で428円。

カード残額はまさかの1円。

川副さんは「ばっちり足りたんですよ!!!」と目を輝かせる。

午前8時ごろ用賀へ着き、ヒッチハイクの名所として名高いマクドナルドあたりで車を探す。

すぐに30代くらいの男性が止まってくれて、海老名サービスエリア(神奈川県)まで。

次の3台目は「ヒッチハイクしている人がいたら乗せるようにしている。人として当たり前のことだから」と話す50代くらいの男性がドライバーだった。

足柄サービスエリア(静岡県)まで来られた。

毎度すいすいと乗せてくれる人が見つかり、「こんなにすんなりいくんや!」と感動したそうだ。

4台目を探していたら、ディズニーランド帰りに仮眠をとっていた40代くらいのカップルが声をかけてくれて、岡崎サービスエリア(愛知県)に到着した。

順調な展開にここで初めて暗雲が立ちこめる。

「岡崎まで来たら京都は見えている」と、ホワイトボードに「草津・大津・京都」と書きましたが、まったく反応がない。

「周囲から自分が見えていないみたいな感じでした。今日はここで寝ることになるのかな?とも思いました」

手応えがないまま2時間ほどが経ち、ホワイトボードを「尾張一宮・養老・刈谷」と近場に書き換えても反応はなく、さらに1時間経過。

そしてようやく光が差す。

目の前にとまった車の窓が開いて、「いいですよ」。

社会人のカップルが守山パーキングエリア(愛知県)まで連れて行ってくれた。

守山パーキングエリアでは20分ほどで「ドライブ中のスポーツカー乗りのおにいさん」が乗せてくれることになった。

続いて到着した養老サービスエリア(岐阜県)でまさかの出会いが。

ヒッチレース参加中の「同業者」が2人まとまって車を探していた。

「1人は不安だから本当だったら合流していたと思います。でもおばあちゃんの『1人だったから乗せた』って言葉を思い出して、1人で行動し続けました」

60代くらいの夫婦に声をかけると、京都から出かけてきていたそうで「吉田寮まで送る」と応じてくれた。

先に待っていた2人組を追い越してヒッチハイクに成功。

さらに車中で夫婦から「『京大ヒッチハイクレース』って書いてあったから信用していいかなって思った」と言われた。

伏線回収のごとく、1台目のおばあちゃんからもらった助言が最後の車を引き寄せてくれた。

「おばあちゃんは(ヒッチハイクのこつを)完璧に言い当てていました。三峯神社で出会えた『ヒッチレースの神』かもしれませんね」

こうして無事帰還できたが、来年の参加意向を聞くと「次また3時間待ち続けることがあるかもしれないと思うとちょっと…」と、苦い経験も思い返したようだった。

参照元:Yahoo!ニュース