「新たな人材待っていたが…」 引退撤回し村長選出馬へ 77歳、立候補の動きなく苦渋の決断 「選挙しても…」小村の住民から諦めの声も

村の生活をイメージした銅像

任期満了に伴う長野県下伊那郡下條村長選(7月2日告示、7日投開票)は告示まで1カ月を切った。

現職で2期目の金田憲治氏(77)=無所属、陽皐=は3月に引退意向を示したものの、5月29日に翻して出馬を表明。

現時点で他に立候補の動きは出ておらず、村民は論戦が深まりにくい状況を懸念している。

金田氏は3月定例会で「新たな時代に対応できる新進気鋭の皆さんに(村政の担い手として)来てもらいたい」と今期限りでの引退を表明。

前回選で対抗馬が現れないまま無投票再選した経緯もあって、自らの引退をきっかけに若い世代が村政をけん引していく将来を期待した。

ただ、引退表明から2カ月が経過しても立候補に向けた動きは低調だった。

金田氏の後援会は5月24日に役員会を開き、「もう1期頑張ってほしい」と引退の撤回を要請。

同29日にも各地区の支部長など25人ほどで拡大役員会を開き、金田氏が応じた形だ。

拡大役員会後の取材に、金田氏は「『私はこれをやりたい』とはっきり言える新たな候補を2カ月待っていたのだが…」と胸の内を明かした。

一度は金田氏の引退を受け入れた後援会の清水幹夫会長(80)は「村政は誰かに任せておけば良いと考える村民が増えているのでは」と複雑な心境を語った。

このタイミングでの出馬表明になった背景には、6月5日に控える村長選の立候補予定者説明会がある。

出席者が不在だった場合、村民に動揺が広がるのではないか―。

村政を停滞させられないとの思いも重なり、金田氏の陣営は苦渋の決断を迫られた。

下條村は人口3456人(5月現在)の小村。

かつて若者世代の移住に成功して2008年1月には4224人まで増えたが、以降は減少の一途をたどる。

村の将来を考えればこれまで以上に活発な論戦が必要だが、村民からは諦めにも似た声が漏れる。

60代男性は「ビジョン(展望)を持つ候補者に多く出てほしいが、村政の重責を自分の生活に優先させようと考える人は少ないのでは」。

飯田市の高校に通う男子生徒(18)は「村には大学も仕事もなく、卒業したら外に出るしかない。選挙で何か変わると思えない」とこぼした。

仕事で高齢者と関わりが多い子育て世代の女性は、1人暮らしのお年寄りなどを念頭に「行政や政治でないと支えられない人もいる」と指摘する。

しかし世代間の交流が疎遠になり、こうした村政の役割や重要性を若い人に伝える機会も失われたと振り返り、「それは私たち大人の責任だ」と自戒の言葉を口にした。

参照元∶Yahoo!ニュース