引きこもりの自立支援をうたう“引き出し屋”強引に連れ出し施設に閉じ込める悪質業者も 人権侵害を受けた当事者と悩む母親の葛藤

横浜地方裁判所の外観を撮影した画像

「引きこもりの自立支援」をうたう業者により、自宅から無理やり連れ出され、監禁などの精神的苦痛を与えられたとして元入居者7人が起こした集団訴訟をめぐり、横浜地裁が業者側に1人当たり88万円の支払いを命じた

支援の名のもと、自由を奪う業者は「引き出し屋」と呼ばれる。

集団訴訟の原告の1人、渡邉豪介さん(37)は、7年前にその被害にあった。

勤めていた会社を精神疾患により退職し、治療を受けながらアルバイト生活を送っていた矢先、「福祉の人間」を名乗る人物がやってきた。

そのまま車に乗ると、施設へ連れられ、一切の自由がない、ほぼ監禁状態に置かれた。

4カ月後ようやく脱走に成功し、今回の裁判を起こした。

こうした引き出し屋による被害に、助けを求める声が増えているという。

しかしながら、子どもの引きこもりに悩み、引き出し屋に相談する親は後を絶たない。

『ABEMA Prime』では、被害を受けた当事者から実態を聞き、どうすれば被害をなくすことができるのか考えた。

「引き出し屋」とは何なのか。

ジャーナリストの加藤順子氏によると、「家族から依頼を受けて社会復帰・自立支援対象とみなした人を宿泊施設に連行し、そこでの生活を強いる業者」を指す。

引き出し屋が定義する対象者は、「引きこもり状態・不登校・無職・精神疾患・家庭内暴力するなどの人」だ。

被害にあった渡邉さんは、大手企業に就職したが、過労・パワハラで双極性障害になり退職。

精神科医に通い治療を受けながらアルバイト生活をしていた。

2018年3月、業者3人に「福祉の人間」と称し施設に連れ出されるも「拒否権なし」。

着替えや携帯・財布・身分証の所持も不可だった。

同年7月に施設仲間8人で脱走し、福祉施設へ避難。

現在は障害年金・生活保護で一人暮らしを再開している。

引き出し屋の施設では、約50人が生活していた。

携帯・お金・身分証を所持できない状態で、計算ドリルや軽い運動などと最低限の生活のみ。

外出は1日1時間で、外部との通信を制限(電話禁止/SNS・メールを制限/手紙を検閲)され、脱出者の部屋は出るとブザーが鳴る仕様にされる。

中には、おむつだけ渡されトイレすら行かせてもらえない人もいたそうだ。

連行された当時を「チャイムが鳴り、居留守を使っていたが、ドアが開いた。『家賃の話』と言われ、『家賃なら今払う。本当にそういう人なのか』と聞くと、『福祉の人間だ。話を聞いてもらうだけだ』と連れ出されて、車に乗せられた」と振り返る。

引き出し屋が動いたのは、「私と親の主治医が一緒で、母に主治医があっせんした」と聞いたという。

そして、施設仲間と脱走した。

「ほとんどの人は不満を持って生活していた。脱走は日常茶飯事だったが、連れ戻されてケガをしている人も珍しくなかった。私の場合は4カ月使って、逃げた後の暮らしのベースを確保してから出ていった」。

加藤氏は「人権侵害行為が、支援の名のもとに行われている。拉致や誘拐で自由を奪われ、望まない生活を押しつけられる」と指摘する。

「今までに聞いた最高被害額は、3000万円近い。貧困ビジネスだと思われがちだが、反対にお金に余裕がある人の方が狙われやすい」。

依頼の多くは「子どもの将来を心配して、『プロの支援者に任せた方がいい』と信じてしまう」ことにあるとし、「ギリギリでやっている家族への介入は、どこかで必要になる。しかし、そこで引き出し屋のような、人権を守れない集団が『支援』をするのはどうなのか」と批判する。

リディラバ代表の安部敏樹氏は、「引きこもり状態の人は、一般と同じ“週5ペース”で働かせることが正解とは限らない。1日1〜2時間、ネットで仕事をするところから、段階的に社会復帰してもいい。親は『引きこもりだ』と思っていても、子どもがネットを通して世界を持っていることもある」と語る。

一方で「親としては、心配で仕方なく、解決できるのなら500万円でも払いたい」といったニーズがある。

「まともな企業が参入できればいいが、難易度が高いゆえに、健全な事業者が入ってこない」。

加藤氏は「家族と本人の溝を、いかに埋めるかが問題だが、互いに一方通行になってしまう。お金を持っている家族と、生きづらさを抱えている本人の力の差が大きい。親は遺産や家を売ってまで、子どもの自立を期待してお金をかける」と、親子間の価値観の違いを説明する。

最終的には引き出し屋の実態を知って、後悔する親は多いが、「そこまでの境地に至るのには、時間がかかる。本人が『今すぐ脱走して、親と和解したい』と思っても、業者を信じている親は『なぜ途中で逃げるんだ』となり、わかり合えるまでに長い時間がかかる」そうだ。

安部氏は解決策として、「再生した地域コミュニティーによる介入」「ソーシャルワーカーなど、公的なプレーヤーによる介入」「まともな民間事業者による介入」の3つを示す。

「即効性があり現実的なのは、公的な介入だ。この予算づくりや、うまく介入できる人を育成できるかという話になるだろう」。

参照元:Yahoo!ニュース