「卑怯」「嘘つき」「地獄に行くべき」 亡くなった元兵庫県議に向けられた誹謗中傷 果たしてそこに「事実」はあったのか 混乱する兵庫県政のファクトチェック

自ら命を絶ったとみられる兵庫県の元県議・竹内英明さん。生前、竹内さんのもとには、誹謗中傷のメールや郵便が大量に届いていました。
「斎藤知事を貶めた主犯格」
「都合が悪くなり逃亡!卑怯そのもの」
「嘘つき竹内は地獄に行くべき」
誹謗中傷の原因となったのは、SNSで拡散された竹内さんの“ある情報”。
はたして、それは正しい情報だったのだろうか。
検証した。
(斎藤・兵庫県知事)「不快に思われた方がおられるなら心からお詫びしたい・・・」
(竹内氏)「知事!ここはパワハラを認めて反省するってことじゃないんですか、気持ちだけじゃなくて」
兵庫県の内部告発文書問題の真相を調査する百条委員会に名を連ねていた竹内英明元県議。
斎藤元彦知事に対し、疑惑を厳しく追及していた。
そんな最中、実施された去年秋の知事選挙。
選挙戦が過熱する中、斎藤知事を応援する2馬力選挙を展開していた「NHK党」の立花孝志党首がいわゆる文書問題について、「黒幕は竹内」などとするメモをYouTubeで公開した。
その直後から、竹内さんの妻が電話番をしていた事務所には無言電話やいたずら電話が増え、誹謗中傷のメールなどが送られてくるようになったという。
(竹内元県議の妻)「いろんな嫌疑をかけられて・・・これまで経験したことないような・・・人から向けられる敵意というか・・・そういったものを一斉に浴びせられる恐怖がありました」
知事選の投開票翌日、去年11月18日。
竹内さんは、議員を辞職した。
家族を巻き込むことがあったときは仕事は続けられない」と話していたという。
(竹内元県議の妻)「議員だから説明責任があるとか、反論できるはずだとかこれまでも言われてきましたけどそれはできなかった・・・その力もなく・・・」
議員を辞めた後もSNS上での誹謗中傷は続いた。
そして今年1月18日。
竹内さんは自宅で亡くなっているところを発見された。
会派の同僚だった迎山志保県議は竹内さんが亡くなる3日前まで連絡を取っていた。
(迎山志保県議)「知事選が始まった頃から急激にネット上で個人名を特定したような誹謗中傷、ネット上だけじゃなくて、ご自身の家族とかにまで危害が及ぶような嫌がらせのようなことをされるようになって、それはものすごく怖いと。全てを悪い方に考えてしまうというかそういう状況、どんどん深みに落ちていったというか」
また、議員を辞職する直前に会話したという県職員は・・・
(県職員)「竹内さんからは『県職員のためを思ってやってきたってことは絶対に忘れんといてほしい』って言われて別れました。会派の勢力を伸ばすとか、自分のアピールのためでは決してなかった。竹内さんは、そういう人だったんだと思います。」
■ファクトチェック①「播磨臨海地域道路」を巡る疑惑
竹内さんが攻撃される材料の1つとなったのが、SNS上で拡散された「播磨臨海地域道路」を巡る疑惑だ。
播磨地域と京阪神を結ぶ『国道2号バイパス』の慢性的な渋滞などから新たな“大動脈”として計画されている「播磨臨海地域道路」。
神戸市西区と太子町の全長約50kmを結ぶ道路で、2050年頃の全線開通を目標としている。
この計画に対し、SNS上では・・・
「斎藤知事が1兆円の費用を5000億円に圧縮」
「それに反発する議員が”斎藤下ろし”を画策した」
竹内さんは、超党派の議員連盟の副会長になっていたことから、利権に関わったなどとする主張が広がった。
何が「事実」なのだろうか。
県の担当課に聞いた。
(担当課)「約5000億円のルート帯は井戸前知事の時に決まっていた。斎藤知事になってから変更したものはない」
担当課によると、「播磨臨海地域道路」の計画は、いまから12年前の2013年に動き出したという。
そして7年後の2020年6月、複数のルート帯からコストが最も低く、地域住民への影響も少ない“内陸・加古川ルート”が選定された。
つまり、ルート選定が決まったのは、井戸前知事の時代だ。
「斎藤知事が1兆円の費用を5000億円に圧縮」「それに反発する議員が”斎藤下ろし”を画策した」のいずれも「事実」ではない、ということになる。
(担当課)「なぜこういった情報が出回っているのか、我々も理由がわからない。」
「播磨臨海地域道路」の計画を巡って拡散されている情報について斎藤知事は・・・
(ことし4月3日の斎藤知事)「SNS上で様々な情報が流れていることは承知しているが、1つ1つの投稿を確認する立場ではないので、コメントは差し控えたいと思います」
■ファクトチェック②「遺族のメール捏造」疑惑
拡散された竹内さんの情報は他にもある。
「遺族のメール捏造」疑惑です。
いわゆる”文書問題”と言われている、一連の問題のきっかけとなる告発文書を作成した元西播磨県民局長。
去年7月の百条委員会に証人として出頭予定だったが、その直前に自ら命を絶ったとみられる。
代わりに議会事務局に届いたのが元県民局長の妻が綴ったメールだ。
(元県民局長の妻が送ったメール)「主人がこの間、県職員の皆さんのためを思って取った行動は決して無駄にしてはいけないと思っています。主人が最後の言葉を残していました。一死をもって抗議をするという旨のメッセージとともに、百条委員会は最後までやり通してほしいことが記されていました」
しかし、このメールについてSNS上では・・・
「奥さんのメールの宛先が『議事課 組織』って違和感しかない」
なぜ議事課の具体的なアドレスを知っていたのかとする疑問の声。
さらに、竹内さんが捏造したのではないかという主張が拡散された。
その根拠とされたのが竹内さんのブログだ。
メールが送られる前日、竹内さんは「元県民局長がメッセージを残していたことが関係者への取材でわかった」とする新聞記事を引用していた。
この記事の配信日は2024年7月11日午前5時。
竹内さんがブログに引用したのが同じ日の午前7時だ。
そして元県民局長の妻から議会事務局にメールが届いたのは翌日の7月12日だった。
竹内さんのブログにメールに関する記載はなく、記事を引用しただけでしたが、「遺族がメールを送る前に竹内さんが知っているのは不自然だ」といった投稿が広がり、捏造したという陰謀論が拡散された。
何が「事実」なのだろうか。
妻からメールを受け取った議会事務局に聞いた。
(議会事務局)「直前まで奥様と直接やり取りをしていて、別人による捏造は考えられない」
事務局によると、メールの受け取りまでに元県民局長の妻と事務局との間で、複数回の電話のやり取りがあったという。
その際に送り先を伝え、事務局にメールが送られた。
(議会事務局)「奥様からのメールが送られてきたアドレスも、これまでやり取りしていたものと同じで、竹内さんの捏造は考えられない。」
このような“デマ”は、どのようにして広がっていったのでしょうか。
SNSのデータ分析に詳しい専門家は・・・
(鳥海不二夫・東京大学教授)「知事選挙が始まった直後の11月の頭くらいに、一度竹内さんに対する批判投稿のピークが来ています。その後、竹内さんが議員辞職された11月18日に約3万8000件の投稿があり、大きなピークが来ているという状態です」
鳥海教授によると議員辞職した後も竹内さんに対し、「長期」にそして「大量」の批判的な投稿が続いたことがわかるという。
去年12月25日にも約1万件を超える投稿があ。
その原因とみられるのが、竹内さんも委員を務めた百条委員会で出た、元維新の増山県議の発言だった。
(増山誠県議)「竹内元県議は姫路ゆかたまつりでパワハラの事実があったとして質問していましたが、デマであったことが判明しております」
増山県議は斎藤知事への質問の中で、すでに議員を辞めていた竹内さんへの批判を繰り広げた。
(増山県議)「誘導尋問、高圧的な尋問、デマに基づく尋問、関係者への脅し・強要、まさに百条委員会の信用を失墜させる行動のオンパレードでありますけれども、これ自体、委員会の公正性を大きく毀損する行為であり、非常に問題であるとは思いますけれども・・・」
痛烈に竹内さんを糾弾した発言は竹内さんが亡くなった3か月後、事実誤認であったと議事録が訂正される事態になった。
なぜ事実誤認をするに至ったのだろうか。
増山県議にいきさつを聞いたが、コメントはもらえなかった。
竹内さんが亡くなった直後も「警察に逮捕される予定だった」というデマが拡散されたが、兵庫県警本部長が議会の警察委員会で「事実無根」と明確に否定している。
竹内さんの妻は「誹謗中傷の先にいるのは生身の人間だということを忘れないでほしい」と訴える。
(竹内元県議の妻)「真偽不明の情報がチェックされることなく拡散されていく。自分の主張だったり意見だったり、それを表現することも大事なことではあるけれども・・・。憶測やなんかでいろいろ誹謗中傷を受けるっていうことがやっぱりあってはならないですし、相手にとってどういう意味を持つのか想像してほしい」
参照元:Yahoo!ニュース