クマノミは「猛暑がくると背が縮む」、前代未聞の発見、海洋熱波で個体の体長が変化

クマノミを撮影した画像

博士課程の学生であるメリッサ・フェルステーフ氏は、計測した値を見て、何か問題があるのではないかと心配になった。

その魚が縮んだようだったのだ。

「彼女は3回計測していました」と、共同研究者で英ニューカッスル大学の海洋生物学者テレサ・ルーガー氏は振り返る。

「彼女は数値に確信を持てるよう、複数の人に同じ計測を依頼していました」

しかし、値は正確だった。

フェルステーフ氏らは、海洋熱波中にクマノミの一種であるクラウンアネモネフィッシュの体長が短くなっていることを明らかにし、2025年5月21日付けで学術誌「Science Advances」に論文を発表した。

この研究結果は、環境ストレス要因により、サンゴ礁に暮らす魚の体が小さくなる現象を初めて観察したものだ。

研究チームは、体が小さくなることによって、熱波を乗り切る確率が上がるのではないかと考えている。

この驚くべき発見は偶然の産物だ。

「そもそも熱波を研究する予定すらありませんでした」とルーガー氏は明かす。

論文の筆頭著者であるフェルステーフ氏はパプアニューギニアのキンベ湾で、野生のクマノミのつがいに環境が与える影響を調べていた。

熱波が襲来し、長期平均水温が4℃も上回ったとき、「熱波が終わるまで、彼らを追跡することにしました」とルーガー氏は説明する。

研究チームは2023年2月から8月まで、定期モニタリングの一環として、数日おきに水温とクマノミの大きさを計測した。

ダイバーが水槽用の網でクマノミを捕まえて正確に計測した。

訓練を受けたダイバーであれば、1匹当たり30秒足らずで終わる。

「そして、何ごともなかったかのように、彼らはイソギンチャクに戻ります」とルーガー氏は話す。

結果は驚くべきものだった。研究期間中、支配的なメスの71%と繁殖オスの79%が少なくとも1回小さくなったのだ。

「縮んだ個体」の一部はその後、急成長して元に戻った。

さらに、縮んだ個体の41%は2回以上小さくなり、繁殖パートナーとともに小さくなった個体は生存率が高かった。

水温が上昇するとクマノミが小さくなる理由を解明するには、さらなる研究が必要だ。

クマノミはすでに、特定の状況下で成長をコントロールする驚くべき能力を持つことが知られている。

群れを支配する通常最も大きいメスが死ぬと、最も大きなオスがメスになり、次に大きなオスがその繁殖パートナーになる。

序列の上位が空席になると、下位の魚たちは競争に勝つため、成長を加速させる。

「その地位を確保した魚は、下位の魚たちの成長を阻止します」とルーガー氏は説明する。

このように成長を調整することは衝突の回避につながる。

支配的なつがいは、大きくなりすぎたと判断した下位の個体をイソギンチャクから追い出す。

「彼らは上位の魚を怒らせないよう、自ら成長を止めることができます」とルーガー氏は補足する。

衝突はエネルギーを消費するため、回避すれば、生存にリソースを集中させられる。

しかし、小さくなるというのは前代未聞だ。

クマノミは体の大きさをすみかのイソギンチャクに合わせることで知られている。

そのため、海洋熱波によってイソギンチャクの成長が止まった場合、クマノミがそこにすみ続けるため、体を小さくする必要が生じる可能性はある。

また、クマノミが酸素や餌の状況に対応している可能性もある。

「体が小さければ、当然ながら、必要な餌は少なくなり、多くの場合、採餌の効率も上がります」とルーガー氏は述べている。

クマノミに関する今回の研究成果は、温暖化する世界に適応するため、動物たちが小型化しているという発見の一つにすぎない。

ウミイグアナはエルニーニョの年に体長が短くなり、サケの稚魚の大きさは環境条件の影響を受ける。

「身体的特徴、この場合は大きさが変化しているという発見は、レジリエンス(回復力)の向上を示唆している可能性があります」と英プリマス海洋研究所の海洋生態学者エリザベス・タルボット氏は話す。

ただし、マイナス面もある。

「一般的に、体が小さい動物は子孫も少なくなります」。なお、タルボット氏は今回の研究に参加していない。

世界中で多くの動物が小型化していると米カリフォルニア大学サンタクルーズ校の定量生態学者アレクサ・フレッドストン氏は述べている。

顕著な例の一つが鳥類で、一部の研究者は温暖化との関連性を指摘している。

フレッドストン氏も今回の研究に参加していない。

しかし、一部の動物が平均的に以前より小さくなっている理由を解明するのは難しい。

フレッドストン氏は主な理由として、「私たちは通常、個体ごとの時間経過ではなく、漁場で捕獲されたすべての魚、1年間に観察したすべての渡り鳥など、群れの単位で体の大きさに関する情報を収集します」と説明している。

個々の魚を計測した「結果は、個々の動物が長期間の海洋熱波にどう反応するかについて、興味深く複雑な実態を描き出しています」とフレッドストン氏は述べている。

ルーガー氏にとって、この興味深い発見はほろ苦いものだ。

「私たちはもともと、これらの魚を研究するつもりでした。彼らの絶滅を記録するのではなく」

参照元:Yahoo!ニュース