6月末に「都内で大量閉店」の天下一品 久々に訪れると味は昔のまま…なのに、昨年にも多数の閉店が 一体なぜ「縮小」が続いているのか?

閉店をイメージした画像

見慣れたチェーン店が突然なくなるーー。

そんな経験をしたことはないだろうか。

チェーン店なんてじっくりは見ないけれど、視界のどこかに入ってくる。

それが、いつの間にか消えてしまう。

静かに。

そして、消えてから「ああ、なくなっちゃったんだな」と気付く。

そんな憂き目にあるのが、ラーメンチェーン「天下一品」だ。

「天一」という愛称で呼ばれるこの店が、6月末に大量閉店する。

閉まるのは主に東京を中心とした10店舗。

実は昨年にも天一は都内で多くの店舗を閉めており、2年連続での閉店ラッシュといったところだ。

このニュースは瞬く間に広がり、その閉店を惜しむ声が続出した。

その理由についてもさまざま指摘され、いわば「天一騒動」の様相を呈している。

どうしてこのようなことになったのか。

この「天一騒動」で重要なのが「フランチャイズ」という視点。

そのポイントから騒動を振り返り、それが意味するところを考えたい。

そもそも、閉店する店舗はどのような状況なのだろう。

私は閉店が予定されている「池袋西口店」を訪れることにした。

池袋の歓楽街のど真ん中にある。

中に入るとカウンター席へ案内される。

予定が合わず、昼食でも夕食でもない絶妙な時間に訪れたのだが、店には人がそこそこいる。

見ると全員が男性の1人客で、黙々と目の前の丼に向き合っている。

注文はスマホを使ったセルフオーダー。

ここでラーメンの種類や量、麺の硬さ、トッピングなどを選んでいく。

頼んだのは名物の「こってりラーメン」。税込940円。

昔よりは少し高くなったかな?と思いつつ、まあ今は「ラーメン1000円の壁」なんて言葉もあるし、このインフレ時代にありがたい存在であることには変わりないよな……などと、いじいじ思いながらラーメンがやってくるのを待つ。

周りを見渡すと「6月30日に閉店します」という張り紙が。

途中、店に入ってきたおじさんが「ここ、閉まるって聞いたけど、本当?」と店員さんに聞く。

アルバイトらしき店員さんは「ああ、そうです」と(自分だって深い事情はわからないんだよな……)とでもいう感じ。

おじさんはSNSを見てやってきたのかもしれない。

天下一品は根強いファンも多く、都内の大量閉店はショッキングな出来事だったのだろう。

ラーメンが到着。

鶏ガラや野菜をじっくり煮込んだ独特のスープに細麺が絡む。

とんこつラーメンとも家系ともまた違う、ペーストのようなスープがクセになる。久々に食べたが、またハマりそう(家の近くからはなくなるのに)。

ラーメンを食べ終えると、丼の内側には「明日もお待ちしてます」の文字。もう長い間使った丼なのだろうか、文字がすこしかすれていて、もう来ることのない明日の寂しさが響く。

少しの寂寥感を抱えながらレジに向かうと、「現金のみ」の文字が見える。

注文はデジタルオーダーだが、支払いはアナログである。

これもまた、一つの味というものか。

総じて、かつて行ったことのある天一と違いは見られない。

この時代にしては、そこまで高い、というわけではないし、味もおいしい。

ただ、支払いが現金のみの店が多かったり、より安いラーメンチェーンが進出したり……といったことが客足を遠ざけたのかもしれない。

「天下一品大量閉店」というニュースが出回ったあと、ネット上ではこうした天一自体の問題点を指摘するものが相次いだ。

しかし、今回の閉店はそのような「客足離れ」とは違う問題が影響している。

それが、「フランチャイズ」の問題だ。

チェーン店において「フランチャイズ」は素早く店舗を広げる一つの方法である。

これは、ある店舗の運営ノウハウやメニュー、店舗の外観・内装などをフランチャイズ本部が個人や企業に提供して店舗を広げていく方法だ。

このとき、ノウハウを提供してもらう側を「フランチャイジー」という。

通常、フランチャイズ本部はフランチャイジーから売り上げや利益のうち、いくらかを徴収する。

ノウハウの提供代金で、「ロイヤリティ」といわれる。

これ以外にもフランチャイズに加盟する際に払う「加盟金」を払う場合も多い。

この方式で店舗を広げている代表的なチェーンには、コンビニ各社やマクドナルド、CoCo壱番屋、コメダ珈琲店などがある。

大まかな仕組みは同じだが、それぞれのチェーンで微妙にロイヤリティの取り決めは異なっている。

コンビニ各社は、売り上げや粗利益に応じたロイヤリティを支払う場合が多い一方、コメダ珈琲店は売り上げで変動しない固定ロイヤリティである(その代わり、コメダは加盟金、および加盟時にかかる金銭負担が大きい)。

さらに、フランチャイジー側が1店舗だけでなく、複数店舗を運営することもある。

近いエリアで複数店舗を運営したほうが営業効率が上がるからである。

すると、フランチャイズを展開する会社というのが生まれてくる。

一度、西東京にあるマクドナルドを訪れたとき、「やけに店員さんの手作りのポスターが多く掲示してあるな」と思い、近くのマクドナルドも覗いてみると、そこも同じだった……という経験があった。

どうやらそれらのマクドナルドは同じ会社が運営しているらしく、フランチャイジーごとで同じチェーンであっても絶妙な違いが出たりするのである。

さて、天下一品である。

実は、今回の6月末の大量閉店はこの「フランチャイジー」側の事情によるものが大きいとされている。

ちなみに、先ほど私が訪れた池袋西口店について調べてみたところ、天下一品を運営する「天一食品商事」とは違う会社が運営していた。

なぜそうだとわかるのか。インボイス制度が始まってからは、レシートに記載されている登録番号から運営会社を調べることができるようになったからだ。

調べると、ティーフーズという会社である。

実際、今回閉店が発表された他の店舗も(筆者の確認ではほとんどが)このティーフーズという会社が運営していた。

昨年と今年の大量閉店は、このフランチャイジー側の問題が大きく関わっていると思われるのだ。

なお、より詳細にその裏側を見ると、ティーフーズ社はつけ麺チェーンとして知られる「三田製麺所」を運営する会社の関連企業でもあり、同社は「三田製麺所」のフランチャイズ本部も兼ねている。

その結果、閉店した天下一品が三田製麺所になる例もあるようだ。

ちなみに、一部ネットの反応では「天下一品のフランチャイズロイヤリティが厳しいのでは?」という声もある。

ただ、天下一品のホームページ等見ていると、月々の本部への支払いは、FC加盟料として2万円、広告宣伝料として2.5万円程度で合わせて5万円ほど。

店の売り上げ等にもよるが、他社と比べて厳しすぎる、というわけではない。

つまり、今回の大量閉店は「天下一品そのもの」の問題とは切り分けて考える必要があるということだ。

事実、天下一品の公式ホームページによれば、6月には五反田に新店舗がオープンすることが発表されていて、既存の五反田店閉店とほぼ同じタイミングで新しい天一店舗が誕生する。

新・五反田店は、今回閉店を決めたフランチャイジーとは異なる会社による経営か、あるいは本部が直接店舗を運営する直営店のどちらかなのだろう。

このように、フランチャイズという仕組みにより、フランチャイズ本部の経営が苦しくなくても、一気に店が閉まる場合がある。

他社の事例だと、TSUTAYAを運営するCCC(カルチュア・コンビニエンス・クラブ)と、そのフランチャイジーであるトップカルチャーの話が記憶に新しい。

TSUTAYAといえばレンタルビデオショップとして全国に店舗を広げていた。

余談だが、仕事で高知県の南部・四万十市に行ったとき、そこにもTSUTAYAがあって驚いたことがある。

すぐ行けば四万十川の大自然が広がる場所だ。

一時期、TSUTAYAが全国各地に進出していたのも、このフランチャイズの仕組みによるものだ。

そんなTSUTAYAや蔦屋書店フランチャイズの中でも、多くの店舗を展開していたのがトップカルチャーだった。

しかし、トップカルチャーは2021年にレンタル事業からの撤退を決定。

配信サービスに押され、レンタルの需要がなくなっていったからだ。

その時点で関東甲信越を中心に約70店舗ほどでTSUTAYAおよび蔦屋書店を運営していたのだが、徐々にレンタル対応店を減らしていった。

面白いのは、トップカルチャーがレンタル撤退を発表したとき、今回の天一騒動と同様の事態が起きたことだ。

要するに「TSUTAYAの全店が不調で、CCCがレンタル事業から撤退」という誤解が生まれたのである。

あくまでも、この撤退はトップカルチャー内部の話であって、CCC全体の話ではない。

しかし、CCCの決算が好調ではなかったことも相まって、真実味を持ってこの話が広がってしまった。

ちなみに、トップカルチャーは現在でも蔦屋書店の経営などを行っている。

レンタル事業からの撤退も一気に行っているわけではなく、じわじわと進めてきた。

ただ、月次の売り上げなどを見ていると「好調」とまではいえず、最終的にはTSUTAYAや蔦屋書店自体から撤退……となることも可能性としてはある。

その際に「CCCが蔦屋書店から撤退!」という誤解が起こらないといいのだが……。

一般消費者から見ると、店舗の閉店は店舗の閉店である。

本部がどうとか、フランチャイズがどうとか、関係ない。

見知った風景が、見えないシステムによって変わっていく。

ところでふと思ったのだが、今回の「天一騒動」でわかったのは、ある層にとっては天下一品が「インフラ」のような、なくてはならないもののように捉えられていたという事実である。

そうでなければ、この閉店がここまで話題を呼ぶこともなかった。

先ほど例に出したTSUTAYAもまた、地方・郊外部においては、紛れもなく「カルチュア・インフラ」だった(ちなみにCCCの企業理念は「カルチュア・インフラを作ること」である)。

配信サービスがない時代、私たちはTSUTAYAで映画を知ったし、音楽を知った。

5枚1000円のCDレンタルからカルチャーを染み込ませた人は多いはずである。

天一にしてもTSUTAYAにしても、それが「インフラ」たり得たのは、間違いなく「フランチャイズ」の力が大きい。

各地に散らばった「この店をやりたい!」という人々が、それを広め、全国区になった。

ただ、今回の騒動からもわかるように、それは水道やガスと比べたら、きわめて弱いインフラである。

一般消費者からは見えないシステムで失われるインフラである。

むろん、フランチャイジーが撤退するのは、そもそも消費者からの需要がなくなったからだといえば、遠回しに消費者の意向が反映されていないわけではない。

ただ、今回の天一騒動を見ていると、やはり消費者があずかりしらぬところで店舗がなくなることもあるな……と思えてくる。

全国に広がるチェーン店が日本で「インフラ」のような風景を成しているのは、異論がないところだろう。

しかし、それは消費者からは見えない部分でなくなってしまうかもしれないインフラでもある。

「天下一品」のように、昔と変わらず美味しいラーメンを提供してくれている店も例外ではない。

そんなことを、今回の「天一騒動」から考えたのである。

参照元:Yahoo!ニュース