ファミマはなぜパンを「白く」したのか? 累計500万食の「白生」シリーズが挑む主役の座

コンビニをイメージした画像

商品名に使われる「生」という言葉も、戦略的に重要だったといえる。

生チョコや生ドーナツのように、「生」には、特別な口どけやフレッシュさ、さらにはちょっとした高級感を連想させる効果がある。

もともとは生地に生クリームを加えていたことから「生」パンとして発売したが、鈴木氏は「商品名と食感のイメージが一致したことも、人気の要因」と分析している。

この「生」食感を支えるために、同社は「多加水(たかすい)」という製法を採用した。

水分をたくさん含ませる方法で、町のパン屋では一般的だが機械製造では難しい。

水分が多いと生地がドロドロになり、機械では扱いづらくなるが、同社は発酵や製造工程を工夫することで対応した。

食感にこだわった結果、パン生地自体に高い評価が寄せられている。

もともとコンビニパンでは、具材やトッピングが注目されることが多かったが、生パンシリーズの発売以降は、生地そのものの味わいや食感に対する関心が高まっている様子がうかがえる。

また、購入者の反応として特徴的なのが、白生パンシリーズの全品を食べ比べている点だ。

通常は特定の商品に人気が集中しがちだが、同シリーズではそれぞれの商品に支持層がいるという。

白生パンシリーズの開発は、「スイーツのファミマになる」という全社的なテーマとつながっている。

ファミマは近年、デザート、パン、アイス、お菓子などを横断したスイーツ強化戦略を展開しており、同シリーズもその一環と位置付けている。

パンは食事をしながら甘いものも楽しみたいという需要に応えられるため、同社は菓子パンを開発するときには、スイーツとしての側面を特に意識しているという。

ファミマは、商品開発にあたり、年に数回のマーケティングリサーチを実施している。

調査では、同社の商品企画担当者だけでなく、製造に関わる関連企業も参加し、目標とする品質の基準をすり合わせる。

チームごとにパンを集め、試食や撮影を行いながら具体的な目標を設定していく。

今回でいえば、白生パンの食感の特徴である「もちもち」といった感覚は人によって異なるため、実際のパンを持ち寄り、食感に対する認識をすり合わせた。

コンビニパン市場では、各社がさまざまな戦略を展開しており、セブン-イレブンは店内での「できたて・焼きたて」に注力する。

2026年2月までに、パンや焼き菓子などを焼成する「セブンカフェ ベーカリー」の焼成機を約1万2500台導入する予定だ。

できたてパンの展開を拡大し、専門店のような香りや食感を訴求する。

ローソンは2025年に5年ぶりにプライベートブランドを刷新し、「3つ星ローソン」に統一。

「圧倒的なおいしさ」と「コスパ・タイパ」を重視した商品開発を進め、「ローソンでしか買えない」独自性を強化している。

こうした競争環境の中、ファミマは「定番がおいしいチェーン」を目指す戦略を展開していく方針だ。

定番商品に付加価値を持たせた独自商品を開発し、他社との差別化を進める。

「定番の食べ物をアップデートして、昔のままではなく、さらにおいしいものにしたい」(鈴木氏)

「白生パン」シリーズも引き続きバリエーションを増やしていく。

ただし、パン売り場全体を「白生化」するわけではない。

白い生地を好む層と、従来の焼き色が付いたパンを好む層の双方に対応できるよう、商品構成のバランスに配慮する。

一方で、原材料高騰などの影響で、パンの商品価格が上がっていることを課題と捉えている。

そこで、低価格・中価格・高価格と幅広い価格帯の商品を提供し、価格重視の消費者にも対応できる品ぞろえを目指す。

コンビニ各社がしのぎを削るパン市場において、ファミマは視覚的なインパクトと新たな食感を武器に、日常のパン選びに新たな価値を提供した。

今後も「定番がおいしいコンビニ」を掲げ、白生パンに続くヒット商品の創出に挑み続ける構えだ。

参照元:Yahoo!ニュース