ECB、利下げを今夏に一時停止か

金利をイメージした写真

欧州中央銀行(ECB)は6月の次回理事会でも主要政策金利の追加引き下げを決める見通しだ。

しかし、経済が懸念されるよりも持ちこたえていることや、インフレ率の拡大が忍び寄り始めているため、さらなる追加利下げは見送られるとの見方が強まっている。

ECBはここ1年、消費者物価指数(CPI)の高騰をほぼ収束させ、トランプ米大統領が輸入品への関税を引き上げたことを受けた世界的な貿易戦争、トランプ政権の不安定な政策、欧州連合(EU)加盟国に深く根付いた非効率性によって低迷した経済成長の押し上げに焦点を移し、金融緩和を急速に進めてきた。

ECBは過去8回の理事会のうち7回にわたって利下げを決定し、経済に息抜きの余地を与えた。

しかし、今になって経済の短期的な見通しと長期的な見通しの乖離の調整を迫られている。

欧州のインフレ率は今後数カ月間にわたってさらに縮小し、ECB目標の2%を下回る可能性もある。

一方、より長期的には政府支出の急増、グローバル化、貿易障壁、生産年齢人口の減少による労働市場のストレスなどが全て物価の押し上げ要因となる公算が大きい。

ECBが次回理事会で利上げを決定することは予想に十分織り込まれているため、理事会メンバーはより長期的なリスクを考慮したその後の数カ月についてのシグナルを発している。

ECBのタカ派のシュナーベル専務理事は「関税は短期的にはディスインフレをもたらすかもしれないが、中期的には上昇リスクをもたらす」とし、ECBが利下げを一時停止すべきとの見解を明確に示した。

その上で「仮にEUが(トランプ関税への)報復措置を取らなかったとしても、世界のバリューチェーンを通じて生産コストが上昇すれば外需の減少によるディスインフレ圧力が相殺され、関税は全体としてインフレにつながる可能性がある」と訴えた。

ECB理事会メンバーとしての在任期間が最長のクノット・オランダ中銀総裁も「需要減は即時的なショックをもたらすため、短期的にはインフレ率の鈍化につながるだろう」としつつ、「しかし供給ショックは中長期的にインフレ率拡大につながる可能性がある」と警鐘を鳴らした。

これは貿易障壁があらゆる人にとって価格上昇をもたらし、本質的にコストのかかる生産の細分化につながるという指摘だ。

特に米国と中国が極めて高い関税を互いに停止する合意に達した後のこの数週間で、長期的な期待インフレ率がじりじりと上昇している。

これはECBにとってはコミュニケーション上の問題を引き起こす。

エネルギー価格の下落、経済の低成長、為替相場でのユーロ高、米国での関税引き上げに直面する製造業者によるダンピングにより、2026年にさしかかってインフレ率が2%を下回るようなことがあれば、ECBが金融緩和策を講じることを期待する向きも出てくるだろう。

この背景には金融政策が物価に影響を与えるのは1年―1年半先になるため、目先のことについてはほとんど無力と考えられているからだ。

ソシエテ・ジェネラルは顧客向けのメモで「問題はECBがこのアンダーシュート期をあえて『見通す』のか、それともインフレ率がさらに縮小するのに伴って期待インフレ率の固定化に対する懸念が高まるかだ」とした上で、「貿易戦争の緊張が緩和し、経済指標が堅調なため(ECBは)7月に利下げする必要性に確信が持てず、より多くの情報を収集するために6月の(理事会)後は(利下げを)一時停止する可能性が高まっている」との見方を示した。

投資家らもECBが6月の理事会で利下げを決定後は一時休止し、2025年末までに主要政策金利である預金金利をさらに25ベーシスポイント(bp)引き下げて1.75%にすると予想している。

理事会メンバーは金融政策の明確なシグナルを出したがらないが、フランソワ・ビルロワドガロー・フランス中銀総裁、オッリ・レーン・フィンランド中銀総裁、ピエール・ウンシュ・ベルギー中銀総裁ら複数のメンバーがハト派的なシグナルを発信しており、6月の次回理事会で利下げを決めるとの観測が強まっている。

また、オフレコで話す他のメンバーらは、6月の利下げ決定は大方決まっており、本当の焦点は7月以降のことだと訴える。

彼らは今こそ利下げを一時停止するのが必要であることを明らかにしようとしている陣営が既に目につくと指摘している。

仮に7月の理事会で利下げを見送っても、貿易戦争が既に打撃を与えているため、理事会メンバーは今年後半に金融緩和をさらに進めるバイアスを維持する公算が大きい。

TSロンバードは「ECBの金融緩和バイアスは健在だ」との見解を示している。

参照元:REUTERS(ロイター)