グローバルサウスの時代は間近、金融資本フローに構造的変化

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国の「例外主義」が幕切れを迎えるとともに、過去50年にわたって同国が世界の経済・金融秩序を主導してきた時代も終わろうとしているのかもしれない。

そこで投資家の頭に浮かぶ大きな疑問は、ではこうした変化によって金融資本の流れがどのように再構築されるのかという点になる。

最も明確な代わりの行き先地は、世界2位の経済規模と準備通貨を持つ欧州だ。欧州市場は厚みと流動性を備え、法の支配も徹底されている。

それに比べて新興・途上国「グローバルサウス」は魅力が薄いように見える。

100カ国以上に達するこれらの国は、政治的な不安定さや法制度を巡る懸念、政策決定の信頼性といったさまざまなリスクを抱えている。

しかし世界の経済・投資環境は急速かつ恐らく不可逆的に変わりつつあり、投資家はまた1つの地域に資金を集中させることに怖さを感じているかもしれない。

だから長期的視点を持ち、リスク許容度の高い投資家なら、グローバルサウスへの資金配分拡大を検討したい気持ちが増すのではないか。

これまでグローバルサウス諸国は、金融市場におけるウエートほど存在感を発揮できていなかった。

ただ今後、国際的な資金配分再編の流れで恩恵を受けられるのだろうか。

ドイツ銀行のストラテジストチームは先週発表したリポート「グローバルサウス:世界第4位の経済圏への戦略的アプローチ」で、グローバルサウスの時代が到来していると指摘した。

このリポートが定義したグローバルサウスの対象は、中国、ロシア、シンガポールなどを除いたG77グループに属する134カ国にメキシコ、トルコと一部中央アジア諸国を加えた地域だ。

それらのデータの一部は注目に値する。

このグループは労働生産人口が世界のおよそ3分の2、世界のエネルギー・重要金属生産の4割、世界貿易の25%を占め、過去10年で外国直接投資(FDI)総額の4分の1近くを呼び込んでいる。

実際ボストン・コンサルティング・グループによると、グローバルサウスに対する2023年のFDIは5250億ドルと、先進国向けの4640億ドルを上回った。

これらの国が今後どのように政治的、経済的あるいは軍事的に足並みをそろえていくかを予想するのはあまりにも早過ぎるものの、既に中国からグローバルサウスへの資金移動が起きている兆しがある。

ドイツ銀のリポートは、近年グローバルサウスへの外国からの投資は比較的安定している半面、中国への投資フローはゼロ近くに沈んでいると記している。

直近数十年における中国の経済的台頭は、人類史で最も驚嘆される事象の1つに数えられる。

1990年に中国の国内総生産(GDP)は、先進各国の2%程度だったのに、2021年には33%と、当時のグローバルサウスの比率と同じになった。

しかし中国の成長率は、特にコロナ禍以降に停滞。

国際通貨基金(IMF)は、2030年時点で中国GDPは先進各国の約35%にとどまる一方、グローバルサウスは40%と過去最高に達すると見込んでいる。

ドイツ銀は「米国の貿易戦争の標的がなお中国に集中する中で、グローバルサウスは投資家にとって資金分散と価値創造の源泉として進化し得る」と主張する。

株式投資資金配分の観点からは、グローバルサウスには大きな飛躍の余地がある。

昨年末時点で世界の株式時価総額におけるグローバルサウスの比率はわずか11%で、インドとサウジアラビアがその半分を占めた。

もしも世界の時価総額の7割超という米国株の優位性が弱まり、多少の資金がグローバルサウスに流れるだけでも、これらの諸国の株式のバリュエーションに大きな影響を及ぼしてもおかしくない。

ただリスクは多面的で、それらの多くはトランプ米大統領が打ち出した関税措置に起因する市場の混乱であぶり出された。

国際金融協会(IIF)が先週発表したデータからは、4月に新興国市場への証券投資の流れが止まったことが分かる。

トランプ政権はグローバルサウス諸国に対する当初の高関税を撤回しつつあるとはいえ、投資家は、まだ米国の標的にされる恐れが残る国に過大な資金を投入することに不安を感じるかもしれない。

IIFは「現在の環境は以前とは根本的に異なる。

これは外生的ショックではなく、構造的な目的を伴う意図的な政策行動だ。

その結果、急速に事態が正常化する余地は限られる」と分析した。

しかし本当に重要なのは「急速な」動きではなく、トランプ政権の非伝統的政策をきっかけに起きた世界経済の構造的変化の方と言える。

2018年にトランプ氏が最初の貿易戦争を仕掛けて以来、中国からグローバルサウスの「指導経済諸国」向け輸出は2倍に膨らんだことを思い起こすのは有益だ。

足元で米国に信頼が置けなくなっていることから、中国と欧州はいずれも一層の輸出市場多様化を目指すと想定するのが理にかなっている。

だから恐らく、グローバルサウスの時代は今すぐとはいかずとも、近いうちにやってくる可能性がある。

参照元:REUTERS(ロイター)