CATL香港上場で米国投資家排除、他社追随は困難か

香港への重複上場に向けて、中国の車載電池大手、寧徳時代新能源科技(CATL)が計画している新規株式公開(IPO)は約40億ドルと、今年これまでで世界最大規模になる見通しだが、米国本土の投資家は募集対象から除外されている。
これによってCATLは、さまざまな地政学リスクを低減できるほか、米中関係が一層悪化した場合に起きる訴訟リスクも回避することが可能になる。
しかし創業者の曽毓群(ロビン・ゼン)会長が採用したこの方式は、他社が真似をしようとしてもそう簡単にはいかないだろう。
香港での株式資本取引において米国投資家を参加させないやり方は、2020年に中国オンラインゲーム大手の網易(ネットイース)が31億ドルの株式追加売り出しで、直近では今年3月に電気自動車(EV)の上海蔚来汽車(NIO)がやはり5億ドルの追加売り出しで、それぞれ取り入れた。
とはいえなお珍しいケースであることに変わりはない。
それでもCATLが米国から政治的に厳しい目を向けられる点を踏まえ、曽毓群氏は論理的な選択をしたと言える。
米政府は電池を戦略上重要な技術とみなし、1月にはCATLが中国軍に協力する組織のリストに追加された。
今回のIPOでJPモルガン・チェースとバンク・オブ・アメリカは引き受け金融機関9社になお含まれているが、米議会からは辞退すべきだとの意見も出ている。
こうした中ですぐ裁判を起こしがちな米国の投資家のIPO参加を認めれば、今後新たな問題が生じた際に、CATLの立場が弱まる恐れがある。
CATLとしては、最終的に中東との強い結びつきを生かすことができる。
産油国の政府系ファンドは、石油需要が根強いアジア地域への投資拡大を続けている。
クウェート投資庁はシノペック(中国石油化工集団)香港とともにCATLのIPOに5億ドルを投資すると約束。
20余りのコーナーストーン投資家が確約した投資額は26億ドルに上った。
事情に詳しい関係者の1人は、Breakingviewsに対して既にIPOの応募倍率は数倍に達していると明かす。
ペルシャ湾岸諸国と中国の関係は単なる投資だけではない。
アリックス・パートナーズによると、EVを含む中国製乗用車の中東向け輸出は昨年61%も増加し、世界で最も急成長した市場になった。
中東は、CATLのエネルギー貯蔵事業にとっても重要な市場になりつつあるし、同社は1月にアラブ首長国連邦(UAE)で60億ドルの太陽光・電池プロジェクトを始動させた。
米中の金融面での切断(デカップリング)が取り沙汰されている点からも、米国投資家を排除するCATLの案件は、香港の将来にとって強いメッセージを送っている形だ。
他の発行体も同じように行動したくなるかもしれない。
ただしCATLは強い需要のある製品を持つ例外的企業であり、米国の巨額資金の代役を見つけ出すのは難しい。
参照元:REUTERS(ロイター)