「詐欺が不安」「セールスばかり」で進む「固定電話じまい」 若い世代の所有は1割以下

固定電話を撮影した画像

シニア世代の「固定電話じまい」が加速している。

スマートフォンの普及に伴って必要性が薄れていることに加え、親族などを装い金銭をだまし取る特殊詐欺への不安も背景にあるようだ。

ただ、使い慣れた通信手段を手放すことへの躊躇もうかがえる。

「万が一、何かトラブルが起きたとき、連絡がくるくらい。以前は命綱のように感じていたのに…」

自宅の固定電話についてこう話すのは、茨城県境町に住む歯科衛生士の女性(59)だ。

10年ほど前に中高生になった2人の娘がスマホを持つようになり、家庭内の連絡は交流サイト(SNS)が中心となった。

固定電話の使用頻度は激減し、歯科医の夫(61)がまれに仕事の連絡に使うくらいだ。

女性は「友人らを含め、必要な連絡はほとんどスマホになった。たまに固定電話にかかってくると『重苦しい話かな』と思ってしまう」という。

最近、固定電話にかかってくるのは、もっぱら「テレホンカード余ってませんか」「壊れたバッグ買い取ります」などというセールスだ。

詐欺を疑わせる不審な電話もあるといい、女性は不安を感じている。

夫が仕事を引退するタイミングでの解約を検討しているが、長年使ってきた上、災害時などの通信手段の一つを失うことにもなり、「解約後に固定電話の良さに気付くかもしれない」と若干、ためらっている。

東京都世田谷区の村関不三夫(ふみお)さん(69)も自宅の固定電話へのセールスに悩まされている。

「電話には出ず、着信履歴で確認し、再生せずに消してしまう」と話す。

村関さんは、高齢者の人材派遣を手がける「高齢社」を経営する。

今年4月に派遣登録しているシニア811人を対象に調査したところ、約17%に当たる134人が固定電話を解約していた。

「固定電話は役割を終えつつあるのかもしれない」と考えている。

村関さんは固定電話の解約を考えているが、解約手続きが煩雑なため半年近く行動に移せていない。

自宅に備えているのは「IP電話」と呼ばれる、インターネット回線を使った固定電話だ。

村関さんの契約では電話を解約すると、ネット回線も設置し直さなければならず、「不安や面倒臭さを感じる」からだ。

シニア世代の固定電話じまいについて、情報通信に詳しい中央大総合政策学部の実積寿也(じつづみ・としや)教授は「スマホの普及で、音声ではなくメッセージによる連絡手段がシニアにも浸透してきたことなども背景にある。今後も固定電話の保有率は下がっていくだろう」と説明する。

解約には注意も必要だ。

親しい人に固定電話じまいを知らせないまま急に不通になると、心配させたり、人間関係に影響が出たりする恐れがある。

FAXも固定電話がないと使えない。

全面的にスマホに移行すると通話料金が高くなるケースもある。

実積教授は「電話各社もシニア向けの周知を徹底してもらいたい」と話している。

スマートフォンやインターネットなどの普及状況をまとめた総務省の通信利用動向調査によると、シニア世帯(65歳以上が世帯主)の固定電話を使っている割合は、令和5年に82%となっている。

高いように見えるが、平成21年の保有率が99.2%だったことを踏まえると、約15年間で大きく下がったことが分かる。

世帯主が30代の世帯の保有率は9.1%、20代では5.4%にとどまる。

スマートフォンやタブレットが身近な環境で生まれ育った「デジタルネーティブ」と呼ばれる、さらに若い世代では、固定電話の存在感は一層薄いとみられる。

全国の固定電話の契約件数も減少傾向が目立っている。

NTT東日本の調査によると、ピーク時の平成9年11月には約6322万件の契約があった。

その後、ネット回線を使ったIP電話も登場したが、総務省の資料では、令和6年3月の固定電話契約数(IP電話を含む)は約4963万件にまで減っている。

参照元:Yahoo!ニュース