ユニクロもニトリも“しゃべって売る” なぜ「朝6時配信」のライブコマースが人気なのか

2025年が日本の「ライブコマース元年」になるかもしれない――。
コロナ禍をきっかけに市場規模は増加傾向にあり、6月にはTikTokを運営するバイトダンス(中国)が「TikTok Shop」を日本でも開始する予定だ。
月商2億円を超えるライブコマース事業者も登場しており、EC業界に新たな活気が生まれつつある。
ライブコマースとは、ライブ配信とEC(オンライン販売)を組み合わせたもので、動画で商品やサービスを紹介し、視聴者とコミュニケーションを取りながら購買を促す販売手法だ。
商品に対する疑問をリアルタイムで解消できる「双方向性」と、その場ですぐに購入できる「利便性」で、支持を集めている。
アリババ(中国)が発表したレポートによると、中国では2021年時点でライブコマース市場が約33兆円に達したという。
中国と比較すると規模はまだ小さいものの、日本も市場が着実に拡大しており、NTTコムリサーチの調査によると、2023年時点で3000億円弱と推定されている。
成長の背景として、5Gの普及で高画質動画を気軽に視聴できるようになったことや、SNS文化の浸透でネット購買への抵抗感が薄れたことが挙げられる。
日本のライブコマースの始まりは2017年頃からだ。
メルカリ(メルカリチャンネル)などがサービスを開始し、2019年には楽天(Rakuten LIVE)も続いた。
各企業がプラットフォームを相次ぎリリースする流れとなったが、ライブコマースが黎明期だったことから、メルカリと楽天はいずれも2年ほどでサービスを終了するなど、他社も含めて撤退を余儀なくされたサービスが多かった。
転機となったのは2020年。
コロナ禍の外出自粛をきっかけに、多くの企業が新たな販売チャネルとして導入し、アパレルや化粧品業界を中心に普及が進んだ。
近年では、大手企業も参入し、2020年12月にはユニクロが「UNIQLO LIVE STATION」を開始した。
店舗スタッフが商品の解説や着こなし提案を行いながら、視聴者と双方向コミュニケーションを図るスタイルが定着し、2024年には年間の視聴者数が2500万人を超えた。
2024年9月~2025年2月期連結業績によると、国内ユニクロ事業におけるEC売上高は前年同期比10.9%増の824億円に上り、ライブ配信の盛り上がりがうかがえる。
家具販売のニトリもライブコマースの視聴者数の拡大に伴いEC事業の売り上げが伸びている。
「ニトリLIVE」で、季節に合った商品紹介や、配信中のクーポン発行、アンケートなどを実施。
ライブ配信で収録した動画をECサイトにも掲載することで、売り上げ拡大につなげている。
2024年(4~12月)には視聴者数が642万人を突破したほか、EC化率は前年同期比1.1ポイント増加し、通販事業の売上高は同12.8%増となった。
大手企業が相次いでライブコマースを展開する背景として、消費者とのコミュニケーション強化が挙げられる。
自社ブランドの価値を直接伝えられる場として、ライブ配信を活用することで、従来の広告とは異なり、商品やサービスの魅力をより深く、双方向で伝えられる強みがある。
また、ECの課題とされてきた「商品を直接試せない」問題を解消する手段として、ライブコマースの重要性が認識されている。
大手企業が参入する中、大阪に拠点を置きライブコマース事業を拡大させている会社がある。
ライブコマース配信者(いわゆるライブコマーサー)のプロデュースやマネジメントを展開するCellest社(セレスト)だ。
2024年4月の売り上げは4000万円ほどだったが、この4月には2億円を突破するなど、成長を続けているようだ。
2017年に参入した同社は、商品知識や配信に関するノウハウを蓄積してきた。
専用スタジオを設けることで配信の品質向上を図るほか、視聴データの分析にも力を入れており、それらが成約率の高さにつながっているようだ。
ライブコマース専門事務所(Cellest社が運営)に所属する「ぞうねこちゃんねる」は、主にアパレル・コスメ・雑貨・食品などを扱っている。
2024年9月~2025年2月期の数字を見ると、配信1回当たりの平均視聴者数は1万3000人に達した。
また2024年10月には、月商が1億円を突破。
1回の配信で実店舗1カ月分の販売数を超えることもあるそうだ。
もう1つの主力チャンネル「アヒルのライブマーケット」も、L~3Lサイズのアパレルを専門的に販売するなど、体型に悩みを持つ顧客層から支持を集め、月商3000万円を突破している。
これらのチャンネルは、視聴から購買に至るコンバージョン率が高く、約16%に達する。
通常のECは平均が約1~3%とされており、それを大きく上回っている。
同社の佐々木宏志社長はこの高い成約率について「配信を通じて、商品への理解と信頼が深まるため」と分析する。
コスメやアパレルなど、実演できるものはライブコマースとの相性が良く、逆にサービスなどの無形商品は簡単ではないという。
しかし、あるフィットネスサービスの配信では、1時間で200人の入会を獲得したことから、成約率の高さがうかがえる。
また、視聴者の多くは女性で、特に35歳以上が中心だという。
「若い世代はSNSで自ら情報収集するのに対し、30代以上は効率よく情報を得たいと考えており、信頼できる説明を求める傾向がある」(佐々木氏)
配信で特に重視するのが、エンターテインメント性と販売要素のバランスだ。
セールスに寄りすぎると配信が単調になり、視聴者が離れていく。
一方で、エンタメに偏ると、楽しいだけで購買につながりにくい。
同社の取締役で、「ぞうねこちゃんねる」のライブコマーサーを務める熊田佳奈氏も「見ている人を巻き込む工夫をしている」と語る。
視聴者が参加できるクイズやゲーム、配信スタッフ同士の掛け合いを取り入れることで、「見ていて楽しい」と「買いたくなる」を両立させている。
また、アフィリエイトやインフルエンサーマーケティングとは違い、ライブコマースでは高いアドリブ力が求められるという。
台本を用意せず、コメントや質問などのリアルな反応に対応しながら進行していく点が大きな特徴だ。
事前に編集した完成コンテンツを一方的に発信するのではなく、ライブコマースでは視聴者の反応に応じて、その場で疑問に答えることで信頼関係を築き、購買につなげることができる。
2024年10月には朝6時からのライブ配信を開始し、売上増につなげた。
「ぞうねこちゃんねる」は、2万人を超える大規模配信を複数回実施。
平均総視聴者数は、朝配信前の6581人から、配信開始後には1万294人へと増加した。
アヒルのライブマーケットは、100日連続で朝配信を行う企画を実施。
前月比で新規顧客数が約5.5倍に増加した。
「朝配信での商品購入は単価も高く、売上増の大きな要因」と佐々木氏は手応えを語る。
一方で、成長分野であるからこその課題もある。
特に、業界が新しいことから経験者が少なく、配信者の育成に時間がかかるという。
また、配信プラットフォームの仕様変更への対応も挙げられる。
SNSのアルゴリズムや規約変更が頻繁に行われるため、リスク分散から複数のプラットフォームを活用する戦略が求められる。
Cellestは4月25日、ライブコマース専用のECモールアプリ「WABE」をローンチした。
「日本にはライブコマースに特化したアプリはほとんどなかった。
新しいプラットフォームが登場しても定着せず、撤退を繰り返していた」と佐々木氏は市場の現状を説明する。
WABEは「見て(Watch)、きいて(Ask)、買って(Buy)、たのしい(Enjoy)」をコンセプトに、映像配信・決済・顧客管理を一体化した。
従来のECサイトにライブ配信機能を後付けしたプラットフォームでは、在庫管理やチェックアウト操作が煩雑になりやすく、購入者側もデジタルリテラシーの違いによって、操作に戸惑うケースがあった。
WABEはこれらの課題の解決を目指す。
同社は、ライブコマース文化を日本に根付かせる「インフラ化」を目標に掲げる。
「ライブコマースは、実店舗での買い物が難しい人や、ECにハードルを感じる人に新たな購買体験を提供する手段であり、エンタメ性によって、買い物の楽しさが増す」(佐々木氏)
商品を販売する事業者にとって、ライブコマースは販路拡大の好機となる。
視聴者に35歳以上の女性層が多いことから、購買力が相対的に高い層へアプローチできるため、新たな顧客を獲得するチャンスといえる。
また、商品特性をリアルタイムで伝えられることで、従来のECでは難しかった商品への納得感を提供できるほか、説明が必要な商品や地方の特産品など、これまで対面販売が主流だった商材にも可能性が広がる。
TikTok Shopの日本展開も控え、2025年はライブコマース市場の拡大が本格化する年になりそうだ。
この販売チャネルを戦略的に活用することは、今後の競争優位性を確保する鍵となるかもしれない。
参照元:Yahoo!ニュース