「どんどん苦しく…」給食現場はいま コメ・牛乳値上げでおかずの補助額わずか1円 10年間変更ない保護者負担 物価高の献立づくりは工夫の結晶 広島

食料品の値上げによって家計の負担が増している。
帝国データバンクの調査によると、ことし10月までに値上がりが決まっている飲料・食料品はすでに去年を上回る1万4000品目以上。
年間ではおよそ2万品目が値上げされるとも予想されている。
食料品の値上がりは、子どもたちの成長に欠かせない学校給食にも大きな影響を与えている。
物価高を乗り越えて、安全安心な給食を届けようと努力を続ける現場を取材した。
広島市西区の市立高須小学校。
午前8時すぎ、調理室の朝はミーティングから始まる。
栄養教諭・下沖真千子さん「(きょうは)鶏肉の解凍があるので、二次汚染に気をつけて動線をお願いします」
高須小学校は広島市内の多くの公立小学校と同じく、校内で給食を作る「自校調理方式」を採用している。
1日に作られる給食は約500食。
作りたての給食を安全に児童に届けるため、衛生管理は徹底している。
ミーティングでは食材と調理担当職員が通る動線に注意するよう確認し合った。
二次汚染や食中毒を防ぐためだ。
調理室の取材はガラスで隔てた場所から行った。
月に2回検便をしている人しか入れない決まりになっているためだ。
記者「学校の先生は入れる?」
下沖先生「入れません」
記者「校長先生も?」
下沖先生「はい、そうです」
調理室では、献立に合わせて職員が手早く準備を行う。
下沖先生「いまキャベツを機械で切っているんですけど、それを隣の釜で湯がいて、手前の水槽で冷まして…」
給食に求められるのは安全性だけではない。
汁ものは昆布と鰹節から出汁をとるなど、美味しさにもこだわる。
広島市では、給食の献立について大きく3つの方針が定められている。
▼栄養バランスがとれおいしく、▼食に関する教材となり、▼安全・安心な給食であること
この方針に則った献立にするため、各学校の栄養教諭は知恵を出し合う。
下沖先生「価格の面では高いんですけど、(天然だしを使うことで)こどもたちに本当の美味しさを分かってもらえるように」
この日は「こどもの日」にちなんだ献立だ。
「大きく育って欲しい」という思いを込めて、タケノコの炊き込みご飯が準備された。
コメやパンなど主食の価格高騰は給食の献立にも影響を与えている。
下沖先生「ご飯もすごく高いので、おかずにかけられるコストにしわ寄せがいく」
給食の献立はどのように作られているのだろうか。
この日、およそ70人の栄養教諭が集まり、献立の企画会議が行われた。
食べ物の値上がりは、一番の課題だ。
会議に参加した栄養教諭「ご飯など主食と牛乳は価格は確実に上がって、おかずに使える価格はどうしても狭まっていく。そこがどんどん苦しくなる。給食費(保護者負担金)は変わらないので」
広島市の公立小学校では保護者負担額は1食あたり250円。
これは過去10年間変わっていない。
市は、国の交付金を使って1食あたり49円を補助している。
去年に比べて補助は15円増やしたものの、そのうち14円はコメなどの主食と牛乳の値上がりに充てられている。
副食=おかずの予算はわずか1円しか増えていない。
会議に参加した栄養教諭「(児童の)楽しみであるデザートや季節が感じられる果物なども献立に入れたいのですが、そこから(献立の全体)予算を調整させてもらうことが多い。その点でも物価高はこどもたちの献立に直結する」
それでも栄養教諭は工夫をこらして物価高を乗り切ろうとしている。
昆布や鰹節は量を減らして出汁をとる時間を延ばしたり、栄養価が変わらない範囲で野菜の量を減らしたり…
会議に参加した栄養教諭「本当に微々たる金額かも知れないですけど、ちょっとずつ削って、こどもたちが喜ぶ献立につなげられたらなって考えています」
市立高須小学校では「こどもの日」の給食が完成に近づいていた。
児童にも人気の鶏の唐揚げは、柔らかさを重視し、ムネ肉ではなくモモ肉が使われている。
比較的安いムネ肉の出番は増えているということだが、できるだけ堅さが気にならない煮込み料理などで使うよう工夫しているという。
まずは校長が検食し、ついにこの日の給食が完成した。
こどもたちが喜ぶよう工夫を凝らした献立だ。
正午をまわると、各クラスから給食係の児童が集まってくる。
こぼさないよう注意を促す。
食べ盛りの6年生。
待ちに待った給食の時間だ。
児童「いただきます」
おかわりにも行列ができた。
Qきょうの献立何が1番好き?
児童「ぜんぶ。しいて言うなら全部」
Q給食のどんなところが好き?
児童「気持ちを込めて作ってくれたところが好き」
児童「大変なのに頑張ってくれているなと思う」
児童「給食の先生が一生懸命頑張って作っているのが伝わります」
児童「1年性から6年生まで全員が食べやすくて、地域の野菜も食べられてすごくおいしい」
高須小学校 戸田美鈴校長「給食室は、楽しく美味しく食べられるように工夫しているので、こどもたちもその気持ちをくんで、しっかり食べてもらいたいと思います」
多くの工夫と努力が詰まった給食はあっという間に完食となった。
食べ残しがほとんどないのはおいしさの証だ。
下沖先生「物価高の中でやりくりをしていかないといけないということもあるが、安い材料を使ったり減らすということばかりではなく、調理で工夫できるところを見つけながら、安全でおいしい給食を作っていきたいなと思っています」
給食は、行事食や地元の食品など食に関する知識や習慣を学ぶための、大切な教育活動だ。
物価高にこどもたちの成長が奪われないよう、きょうも一食に思いを込めて学校給食は作られている。
「きょうはなにがおいしかった?」など、家族で給食について会話するのもいいかもしれない。
参照元:Yahoo!ニュース