国宝を修理するため重要文化財を売る!?本堂の修繕に寺は4000万円負担か 多額の維持管理費に住職「もう売却しか手がない」

神社仏閣をイメージした画像

国宝や重要文化財の維持管理をめぐって、檀家のいない寺の住職らが苦悩している。

修理の際に多額の費用がかかり、数千万円を負担しなければならないケースもあるようだ。

最終的に、維持が難しいとなった場合は、貴重な文化財を“売る”という選択肢も…。

苦渋の決断を迫られている。

約1000年前に1本の木から作られたという『木造如意輪観音坐像』や、日本で初めて精工な地図を完成させた伊能忠敬の日本地図『伊能忠敬測量図』など、京都文化博物館には、今年新たに国宝や重要文化財に指定される予定の約50件が展示されている(『令和7年 新指定 国宝・重要文化財』展 5月11日まで)。

京都でのこの展覧会の開催は、おととし京都に文化庁が移転したことを受けたもので、今回が初めてだ。

(来場者)「初めて京都で見る機会があったので訪ねてみました。どれもすばらしかったので、少しでも長く保持していってほしいと思います」

国指定の文化財の数は計1万3000件以上。しかし今、こうした国宝や重要文化財の維持が難しいという声が上がっている。

奈良県大和高田市の「弥勒寺」。

住職の伊藤教純さん(82)は 、こちらの寺で“あるもの”を守っている。

それが、お堂に座っている穏やかな表情をした本尊の『弥勒如来坐像』だ。

1本の木から削り出され、平安時代に作られたとされる仏像で、その貴重さから2012年、国の重要文化財に指定された。

(弥勒寺 住職・伊藤教純さん)「手の表情とかも、すばらしい彫刻。お顔の表情も(すばらしい)。それからお像全体のつり合いがすばらしい。重要文化財にしていただいたのでありがたいと思ってます」

価値が認められ喜んだという住職。

しかし同時に、ある責任を負うことになった。

重要文化財や国宝に指定された場合、所有者には適切な管理をし、傷んだ場合は修理を行う義務が生じる。

所有者の経済事情に応じて修理費などの50%~85%を国が補助することになっているが、残りの費用の多くは所有者が負担することになる。

弥勒寺の仏像は重要文化財へ指定された際、白毫(びゃくごう)いう眉間の装飾が取れているなどの損傷があったため、修理されることになった。

その費用はというと…

(住職・伊藤教純さん)「仏像さん(の修理)には1000万円かかりました。

(Q自己負担はどれぐらい?)100万円か200万円ぐらいはかかっています」

国のほか自治体から補助は出たものの、修理費用の約1割は自己負担に。

住職によると、寺に檀家はおらず、収入は住職ら夫婦の年金のみ。

仏像を寺で守り続けたいものの、今後も修理が必要となると自信が持てない。
 
(住職・伊藤教純さん)「維持費は蓄えていかないといけないなとは思っていますけど、なかなかできないものですね。不安はあります、収入面ではね」

もし文化財を経済的に維持できなくなった場合、所有者は文化庁が指定した地方公共団体などに修理や管理を委託したり、文化庁に買い取ってもらったりすることがある。

住職も維持が難しいと判断したときには国に買い取ってもらうことも考えているという。

(住職・伊藤教純さん)「最悪というか一番ではないが、国(文化庁)が買い取っていただいて、適正な管理をしていただけたら」

経済的な不安を抱える寺がある中、実際に重要文化財を文化庁に売却したという寺がある。

滋賀県湖南市にある「常楽寺」。

約1300年の歴史があり、国宝の三重塔など境内にはさまざまな文化財がある。

そのうちの1つ、国宝に指定されている本堂は、檜皮葺(ひわだぶき)と呼ばれる檜の樹皮を重ねて作られた屋根があるが…

(常楽寺 住職・若林孝暢さん)「一部が突風であおられてめくれてしまった。いつ全体的に被害が起きてもおかしくない」

50年以上前にふき替えたという屋根は去年秋の突風で一部が剥がれ、今はトタンで応急処置をしている。

屋根全体にびっしりと苔が生え、ところどころが剥がれかけている。

放置すると雨漏りが起こるおそれがあり、すぐにでも修理が必要だというが…

(住職・若林孝暢さん)「見積もりでは(修理費は)4億円は超えるんじゃないかと。1割ほどが常楽寺の負担金となるようで、4000万円ほどはいるんじゃないかと思っております」

国や県などから補助は出るものの、寺に檀家はおらず、観光収入も十分ではない。

そこで住職は多額の修理費を工面するため、苦肉の策に出た。

所有していた重要文化財『絹本著色浄土曼荼羅図』を文化庁に約2億円で売却することにし、その代金で本堂を修繕することを決めた。

(住職・若林孝暢さん)「他に案があれば売却するという考えはなかったんですが、もうそれ(売却)しか手がないというのが現状でございます」

所有者の維持管理が負担となっている国指定の文化財。

文化庁によると、現在、所在がわからなくなっている重要文化財が約130件あるという。

国指定の文化財を手放す場合は文化庁に届け出る必要があるが、それを知らずに第三者に売却してしまっているケースもあるという。

文化財を所有者のもとで残し続けるためには、どうすればいいのか。

奈良大学の大河内智之教授は、国が所有者との関係を密にするとともに、所有者だけの負担とならないような環境づくりが重要だという。

(奈良大学 大河内智之教授)「文化財の現状がどうなっているのかという把握が行き届かなくなってくると、どうしてもそうした流出ということが起こりうる状況になってしまいます。この(維持に関する)費用の捻出が難しいという現状が実際にあるので、例えばクラウドファンディングとか、さまざまな手法を用いて、その費用の分担をいろんな人から図っていく。そういうことも現実的に進めていく必要があるかと思います」

日本の宝である文化財。

歴史をつむぐため1つも取り残さず、未来に引き継ぎたいものだ。

参照元:Yahoo!ニュース