JR西日本株を自治体が「1億円分購入」その狙いは? 岡山県真庭市の太田市長に直撃インタビュー

JR西日本が赤字30線区として公表した姫新線沿線にある岡山県真庭市が、昨年7月にJR西日本の株式約1億円分を取得した。
その狙いについて真庭市の太田昇市長にオンラインでインタビューを行った。
――岡山県真庭市では昨年7月にJR西日本の株式を約1億円分取得しました。なぜ、株式の取得をしようと考えたのでしょうか。
まず、JR九州の日南線沿線にある宮崎県の日南市と串間市で約1000万円分の株式取得の前例があることを聞き、これはいい方法だと思ったことがきっかけでした。
また、大阪市や京都市が関西電力の有力株主となっていることが記憶にあったことも背景にあります。
自治体が、企業の株式を取得することについては、地方自治法を読んでも否定はしていません。
今回のJR西日本の株式取得については、割合としては低いもののJRの経営も意識しながら本気で発言をすることができるのではないかと考えました。
姫新線の存続については、第三者的に要望するだけではなく、真庭市としても一所懸命取り組みを行うので、JRの方にも誠実に対応してほしいと思っています。
また、JR西日本の株式の保有については、真庭市の資産運用の点からもよいですし、公金で株式を取得することによって、市民の方々に姫新線に関心を持ってもらいたいという思いもあります。
――真庭市にとっての姫新線の価値をどのように考えているのでしょうか。
姫新線の津山―中国勝山間が鉄道省作備線として開業してから2025年3月15日で100周年を迎えました。
3月16日には真庭市内の中国勝山駅で祝賀イベントを行っています。
開業当時は、旅客輸送と貨物輸送の両方で大きな役割があり、人と物流の大動脈という役割がありました。
真庭市は2005年3月31日に9町村が新設合併して誕生しましたが、この地域ではもともとは木炭や製材に加えて牛の生産が盛んでした。
プロパンガスが普及するまでは木炭の需要が、農業用の機械が普及するまでは農耕用の牛の需要も旺盛で、現在、真庭市役所のある場所には、江戸時代からの牛市があり、こうした物資を鉄道輸送していました。
丸太をそのまま積む貨車があったことも覚えています。
しかし、現在の姫新線は旅客列車のみの運行で、さらに自家用車の普及で乗客が減り赤字。
存在意義が弱くなっているのは事実です。
また、鉄道の維持が大変というものわかります。
とは言っても、市民生活を考える上では、鉄道はバスに比べて定時運行ができること、高校生や高齢者など交通弱者にとっては重要な移動手段であること。まちづくりの観点からも、鉄道自体に存在感があること。さらに、ローカル線でゆっくりと旅をする文化があるなどの価値もあると考えています。
また、鉄道が廃止されれば、街の中に雑草に覆われた細長い土地が放置されることになります。
こうした土地は、道路などへの転換も難しく都市景観上も好ましくないです。
雑草や害虫駆除をどうするのかという問題も生じます。
しかし、JRはそうした廃線後の問題については意識をしていないようにも思えます。
――太田市長は鉄道ネットワークの重要性という観点からも姫新線の価値を訴えられていると聞きました。真庭市には中国自動車道もありますが、なぜ鉄道ネットワークが重要になるのでしょうか。
京都府庁時代にJR西日本から優秀な職員を京都府に出向させていただき奈良線の複線化事業などをやっていました。
また、私自身、JR西日本の関連会社である京都駅ビル開発の取締役もやっていました。
こうした経験から、JR西日本には、山陽新幹線があるので新幹線の利用に直接結びつかない路線はいらないという考えがあることを知っています。
しかし、鉄道の定時性や大量輸送ができるという点では道路とは役割が大きく異なります。
南海トラフ地震があったときの代替ルートとしても姫新線が生きてくると考えています。
阪神大震災の際に山陽本線が不通となったときには、兵庫県では実際に加古川線や播但線が代替ルートとして機能しています。
また、ロシア軍によるウクライナ侵攻では、鉄道網の重要性が明らかになりました。
ウクライナでは、日本の1.6倍ほどの国土に総延長2万kmを超える鉄道網が網の目のように張り巡らされ、鉄道がウクライナ国民の重要な避難ルートや軍事物資の補給路として機能しています。
なぜ、効率的に戦車を輸送できるのか。
鉄道ネットワークを考える上では、そうした視点も重要になると考えています。
鉄道をいったん廃止にしてしまうと復活が難しい現実があるので、鉄道網は維持したほうがよいと考えています。
――しかし、現状の姫新線では重量貨物を輸送できないという指摘があります。
そうした指摘については、もちろん承知しており、重量貨物に対応するためには路盤改良が必要になります。
貨物の話ではありませんが、例えば、姫新線でも兵庫県側の姫路駅から上月駅までは、県で予算を投じて改良工事を行い、列車のスピードアップなどを行ったところ利用者がV字回復するなどの効果を上げています。
今後は、国防や災害対策を考える上では、予算を投じて路盤改良なども含めて考えていくことが重要になるとみています。
岡山県側でも、中国勝山駅から津山駅までを路盤改良や曲線区間の改良をするだけでも相当速くなると思っています。
また、世界的に見てマグニチュード6以上の地震の約2割が日本で発生している現実があります。
そうしたことを念頭に置きながらも、長期的に日本という国をどう存続させていくのかという国家百年の計を考えなくてはいけません。
しかし、こうした鉄道の問題については、国土交通省がイニシアティブをとれるかと言えば、そうではない現実があることも課題と認識しています。
国鉄時代は、前身の運輸省の答弁を国鉄が書いていたという話もあります。
また、旧運輸省系の事業は、ハブ港にハブ空港、鉄道に観光とほとんどが失敗している感が否めません。
最近は、観光の方は少しマシかもしれませんが。
――鉄道ネットワークと言えば、国鉄時代には中国勝山駅と鳥取県の倉吉駅を結ぶ南勝線の建設が計画されていました。
南勝線については、当時の勝山町で起工式まで行ったのに国鉄改革で中止になりました。
倉吉側はすでに国鉄倉吉線として山守駅まで開業していましたが、1985年にいち早く廃止され南勝線の計画は潰えてしまいましたが、真庭市の北部にある蒜山高原には倉敷市に次ぐ年間200万人の観光客が訪問しており、南勝線では蒜山駅が設置されることも計画されていました。
京都府庁時代には鉄道政策に力を入れていたことから京都丹後鉄道の経営にもかかわっていました。
京都丹後鉄道の福知山駅と宮津駅を結ぶ宮福線ももともとは国鉄線として計画され、国鉄改革の影響でいったんは建設が凍結されましたが、第三セクター鉄道として開業させたことで京都・大阪方面と天橋立を結ぶ観光アクセス路線として重要な役割を果たしています。
――倉吉側は廃止となった倉吉線の旧打吹駅が倉吉市の中心部にあり、山陰本線の倉吉駅は中心部から4kmほど離れているので、これ(打吹駅の廃駅、倉吉線の廃線)はもったいなかったと感じています。倉吉発着の特急があるので、市中心部の駅に発着させたほうが、利便性が上がります。
こうしたことなども含めて南勝線については、政治力がもう少しあれば、宮福線のように開業し、蒜山高原への観光アクセス路線や、倉吉市中心部への直結路線として大きな役割を果たすことになっていたと感じています。
――真庭市と同じくJR西日本の株式を取得した京都府亀岡市では、ほかの沿線自治体にも株式の取得を訴えかけると言いますが、真庭市ではそうした動きは考えていないのでしょうか。
実は亀岡市の桂川市長は、私が京都府庁時代に京都府議会議員を務めており、そのときからお互いよく知っています。
亀岡市でのJR西日本株式の取得については、亀岡市の事務方や桂川市長からも真庭市に問い合わせがあり、鉄道の重要性については同じであることから、全国の自治体に呼びかけていこうという話をしています。
先日、全国市長会の役員会の際には、亀岡市の桂川市長から300人近くの市長にJR株式の取得を呼びかけており、これからも連携をしていきます。
――国鉄分割民営化から40年近くが経った現状についてどのように感じていますか。
日本の鉄道網は、明治以降、国民の資産を入れて整備されてきました。
JRグループは国民の資産を入れて作った鉄道網の維持を前提に作った会社であるはずなのに、現在は、そうした国民の資産を民間会社に抜き取られた形になっていると感じています。
真庭市内にある6駅については市で管理しており、駅を新しくしたり、ウォシュレットのトイレを整備したりするなど、限られた予算をやりくりしながら改善を行っています。
一方で、都市部の駅ではこうしたトイレの整備やバリアフリー化についてはJRが自前でやっていることから、不平等であるとともに不合理さがあります。
姫新線にしても、現状の本数では乗りたい時間に乗れないなど不便な側面は否めず、不便だから利用者が減り、利用者が減るからさらに本数が減るという悪循環に陥っていますが、兵庫県側で利用者のV字回復を果たしたように、やり方次第ではかなり変わると思っています。
芸備線で営業係数ワーストワンとされている備後落合駅と東城駅の区間の赤字額については年間でせいぜい2億円程度です。
もともと、国鉄分割民営化の際にJR西日本は、京阪神地区の鉄道や不動産収入などを活用して、内部補助で全路線を維持できるように制度設計されました。
JR西日本は、2024年3月期決算で約1600億円の経常利益を上げており、安定的な経営ができている中で、わずかな赤字額を理由に鉄道ネットワークを分断することはよくないですね。
また、JRは素晴らしい技術を持っていますが、こうした技術が分割民営化によって各社に分散してしまっているのももったいないですね。
ドイツでは標準軌の水素列車が営業運転されていますが、日本でもJRで合弁会社を作るなどしてJRグループの総力を挙げて狭軌の水素列車を開発すれば、狭軌鉄道が多い東南アジアに輸出できるのではないでしょうか。
――JR西日本の株主総会ではどのようなことを発言するのでしょうか。
6月の株主総会に出席して発言をすることが効果的であるのかどうか、判断を熟考しているところです。
参照元:Yahoo!ニュース