ウォーシュ元理事のFRB批判、タイミングとしては最悪

トランプ米大統領がパウエル米連邦準備理事会(FRB)議長の後任として起用を考えているとされるウォーシュ元FRB理事は、肥大化したFRBの権限を絞り込むべきだと熱心に唱えている。
ウォーシュ氏は先週の会合で、これまでのFRBのインフレ抑制を巡る取り組みや、多様性や気候変動の分野にまで手を広げてきた姿勢を批判。
そうした「失敗」がFRBの信認と独立性を損なってきたと主張した。
ただ問題は、ウォーシュ氏が唱える改革が現実的に難しく、政治的にも得策でない点にある。
ウォーシュ氏はFRBにとって間違っても部外者とは言えない。
投資銀行出身で2006─11年にFRB理事を務め、08年の金融危機対応策の取りまとめに寄与したが、FRBが債券買い入れを続けたことに抗議して辞任した。
トランプ氏の1期目にはFRB議長候補の最終リストに残ったものの、結局パウエル氏との競争に敗れる形になった。
しかしごく最近では、トランプ氏がFRBの政策について、パウエル氏の解任を含めてウォーシュ氏に相談をした、とウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)が関係者の話として伝えている。
FRBに向けられたウォーシュ氏の批判は主に3つの要素で構成されている。
1つ目は、FRBが短期的なデータにとらわれ、雇用拡大を重視したことで、コロナ禍後のインフレを生み出したという主張だ。
2つ目は、FRBが危機モードの債券買い入れを巻き戻さず、中央銀行と連邦政府の線引きをあいまいにしてしまった事態。
08年以前、FRBの米国債保有高は8000億ドル未満で、住宅ローン担保証券(MBS)は一切保有していなかった。
しかし今、ある程度規模を圧縮した後でさえ、バランスシートは6兆7000億ドルに上っている。
それが政治家による放漫財政を助長した、というウォーシュ氏の意見は正しい。
同氏は「もはや金融政策が財政政策の下流なのか上流なのかはっきりしなくなっている」と嘆いた。
3つ目はFRBが守ってきた金融規制の独立性で、ウォーシュ氏はこの分野では政治的監督からの独立は想定されていないはずだと話す。
ウォーシュ氏の批判には確かに良い部分がある。
だが発言のタイミングはこの上なく悪い。
債券市場が重圧にさらされ、トランプ氏の政策に反旗を翻しているからで、FRBが市場から手を引くというシグナルを送れば、混乱を増大させる危険がある。
同時にFRBの政策面への政治的監督強化を歓迎する時期としても適切ではない。
トランプ政権は連邦政府の全ての機関の独立性を弱めるため積極的に行動しており、2月にはトランプ氏が、証券取引委員会(SEC)を含むさまざまな政府機関をホワイトハウスの管理下に置くことを定めた大統領令に署名した。
違法の疑いがあるこの大統領令で、唯一対象外と明示された権限がFRBの金融政策決定だった。
FRBの独立が維持されるかどうかはインフレを制御する能力次第だ、というウォーシュ氏の見解は正鵠を得ている。
しかしFRBの責任範囲を縮小させるいかなる取り組みも危険をはらむと見なされるに違いない。
パウエル氏解任をちらつかせた最近のトランプ氏の動きを受け、債券市場に衝撃が走った事態からは、FRBの独立性侵害は越えてはならない一線だということが分かる。
そしてトランプ氏がいったん引っ込めたパウエル氏批判を再開した以上、今後さらなる混乱が生じかねない。
ウォーシュ氏がFRBを去った11年以来、世界は変わってしまった。
同氏の政策提言は、今の時代にそぐわない処方箋のように見える。
参照元:REUTERS(ロイター)