「生きるための場所奪わないで」「排除してる」万博で大阪・グリ下に“塀”設置 「根本的な解決ならない」の声も

外国人観光客でごった返す大阪、道頓堀。
戎(えびす)橋下の遊歩道には、「座り込み対策」として石材調の万能塀が設置されていた。
グリコの看板下エリア、通称「グリ下」には、虐待や性暴力などで家庭に居場所がない若者が集まっていたが、現在はその場所が塀で囲われた形だ。
大阪市は万博の開幕に合わせ、グリ下が若者たちの「溜まり場」になっていた状況への打開策として、高さ2メートルの塀を設置した。
居場所を追われた若者たちからは「排除してる」「生きるための場所を奪わないで」との声があがる。
取材では周辺でバーを営む人からも「根本的な解決にはならない」との声が聞かれた。
外国人観光客が多く訪れる道頓堀。戎橋下の遊歩道には、市が設置した塀が見える。
4月中旬の平日、道頓堀川には外国人観光客が乗った船が行き交い、万博のテーマソングを大音量で流す船もあった。
戎橋下に新しく設置された「塀」は、あたかも以前からそこにあったかのようだ。
横山英幸・大阪市長は2月、「グリ下が『溜まり場』のようなシンボルになってしまうと、ふらっと来た若者たちが犯罪に巻き込まれるリスクが非常に高くなる」とし、万博開催に合わせた塀の設置を発表した。
設置期間は、万博閉幕頃までとし、その後は橋の下の座ることができる部分について地元の関係者との協議も踏まえて検討。12月中旬までには工事を完了させる予定だ。
横山市長は「(塀により若者たちを)追い出して終わりという話ではない」とも説明していたが、万博開催のタイミングでの塀設置は物議を醸した。
付近で、グリ下に集まる子どもや若者のためのユースセンターを運営するNPO法人「D×P(ディーピー)」(大阪市)は3月、センターを利用した若者たちから塀設置についての意見を募った。
若者47人からは、グリ下は「居場所がない子たちがやっと見つけた居場所」「生きるための場所」との声が集まり、塀の設置に関しては以下のような懐疑的な声が上がった。
「壁を作ったところで、寝る場所もない、食べ物もない、帰れない。状況が変わらない限り、場所や形をかえてでもグリ下みたいな所は残り続けると思う」
「根本の解決になっていないと思う」
「塀設置にお金を使うなら、若者支援に使ってほしい」
グリ下に集まる若者の多くは、兄弟からの性被害やDV、ネグレクトなど家庭で様々な問題を抱えており、安心して帰れる家がないというのが実情だ。
苦しい状況下に置かれる若者たちからは「私の今の生きる為の場所を奪わないでほしい」「追い出そうとするのはおかしいと思う。国は僕たちを助けてはくれない。排除してる」 と痛切な声が上がった。
戎橋付近でバーを営むという通行人の40代男性は、グリ下に設置された塀を見ながら「塀を作っても、そこに集まっていた子たちはまた別の場所に集まるだけ。根本的な解決にはならない」と話した。
男性はハフポストの取材に対し、「これまでも大阪では何度も、大きなイベントがあるたびにホームレスの人たちなど路上にいる人たちが排除されてきた」とし、以下のように指摘した。
「国際的なイベントがある度に、海外からのお客さんに見られたくない人たちを強制的に移動させ、隠してきた。今回も、グリ下を訪れた外国人に『大阪のストリートチルドレンだ』と言われないように対策をしたのだと思います。でもそれでは何も解決しないと思います」
男性も10代の頃などに、公園で仲間と集まっていた経験がある。
しかし、すぐにその一角にはカラーコーンが置かれるなどして、「居場所」から追い出されてきた。
「それでも結局は他の公園に移動するだけ。追い出しても意味はないんですよね。グリ下も同じだと思います。ただ、僕たちは同年代でたむろしていただけだけど、今のグリ下の子たちが心配なのは、悪い大人に利用されたり、性的に搾取されたりすること。ニュースでも、お金がない未成年の子たちがグリ下で大人に出会い、搾取されたり犯罪に巻き込まれたりしていると聞くのでそれは心配しています」
朝日新聞などの報道によると、大阪府警は2月、グリ下周辺で出会った当時16歳の少女を東北地方に連れて行き、繰り返し売春させたとして20代の男2人を売春防止法違反と営利目的誘拐、児童福祉法違反の疑いで逮捕していた。
ミナミの繁華街に若者たちが安全に集まれる新たな「居場所」が必要だと考え、NPO法人「D×P」は2023年夏からユースセンターを運営している。
13~17歳の子どもが利用者の主な年齢層で、25歳までの20代も利用可能だ。
これまでに述べ7500人以上が利用してきた。
センターでは、あたたかい食事や居場所を提供し、個別相談から必要な支援に繋げることもある。
理事長の今井紀明さんはハフポストの取材に対し、塀の設置について、「目的に合った、別のやり方があったかもしれない」とし、以下のように語った。
「現状の塀の設置では、排除しているというメッセージを出しているだけ。子どもや若者たちにとっては、行政や大阪市、社会に対して悪いイメージを持つ結果につながってしまっています」
以前、グリ下に集まっていた若者たちは、別の場所や塀の近くで集まっているという。
市は2024年、D×Pと連携し、ユースセンターを利用した13〜25歳の若者200人を対象にアンケートを実施。
調査結果からは、回答者の24%が直近1カ月、主に自宅以外で寝泊まりしていたことなどが判明。
回答者を成人に絞ると、その割合は33%まで上がった。
この調査を受け、市は若者が利用できる宿泊場所を提供。
他にも、戎橋の下に照明を追加設置するなどし、安全に過ごせるように対策を講じてきた。
市は大阪府や警察、支援団体、地元商店会と一緒につくる「グリ下会議」を7回開催し、ヒアリングや対策を重ねてきており、D×Pもこの会議に参加してきた。
しかし、塀については設置計画の事後報告のみで事前の相談などはなかったという。
今井さんは「大阪市は住居支援に関しても調査後動いてくれるため、その点は素晴らしかった」とした上で、「ただ、やはり万能塀を設置する方法でよかったのか、商店街や私たちにも先に相談してほしかった」と話す。
大阪・関西万博のテーマは「いのち輝く未来社会のデザイン」だが、塀設置はグリ下の若者たちの「いのち」や「未来」について考えた上で実施された解決策だっただろうか。
塀を設置したところで、グリ下に集まっていた子どもや若者たちが抱える問題は解決されない。
家庭内での暴力やネグレクト、貧困など、若者たちが今も直面している問題への本質的な対策が急がれる。
参照元:Yahoo!ニュース