カウンセラー乱立問題 国家と民間の違いは?専門医「公認心理師は資格がないと名乗れないが、仕事は誰でも出来てしまう」

『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』と題する書籍が物議を醸している。
発達障害のASDやADHDのほか、うつ病や適応障害などの疾患など、6タイプの人を取り上げているが、彼らを「困った人」と表現し、ナマケモノやサルなどのイラストで表したことで、「差別や偏見を助長している」と批判が殺到した。
日本自閉症協会からも「大事なことは作者の差別意識の有無ではなく、本が当事者や職場、社会にどう影響するかだ」との指摘が出て、出版社と著者は見解を公表した。
加えて注目されているのが、著者の“肩書”だ。
自らを「スーパーカウンセラー」と名乗っているが、SNS上では「カウンセラーは資格がなくても誰でも名乗れる」などと疑問の声が上がっている。
書籍と、そこから派生した“カウンセラーの資格問題”を考えた。
「公認心理師の会」の理事で、筑波大学教授の原田隆之氏が、“カウンセラー”の種類を説明する。
「数年前に『公認心理師』という国家資格ができた。それ以前からある『臨床心理士』は民間資格だが、大学院を出てからしか取れないレベルだ。そのほか、学会や認定協会による資格が乱立している。学会のものはそれなりにハードルが高いが、中には『数時間の講座を受ければ取れる』『自分で名乗っているだけ』のものもある」。
その上で、民間資格のカウンセラーが抱える問題点として、「カウンセラーは、お金を取って、ひとさまの心の中にズカズカと入っていく。メンタルが弱っている相手が多く、十分な知識や技能がないと、二次被害や自殺、自傷に行ってしまうこともある。そうしたことに責任を負えないのは問題だ」と指摘する。
国家資格と民間資格には、どのような違いがあるのだろう。
「公認心理師は“名称独占”で、資格を持っていない人は名乗れない。ただ“業務独占”ではないため、誰でも業務できる。医師や弁護士は業務独占だが、公認心理師の仕事は誰でもできてしまうのが、この国家資格の弱いところだ」。
民間資格のカウンセラーとの違いについては、「我々は、単に話を聞くだけではなく、『本人も気づいていない、もっと大きな心の病があるかもしれない』とアセスメントしている。『重大な問題がないか』『ライトな相談か』は、専門家だからこそ判断できる。十分に知識がないカウンセラーが、『この人は元気そうだ』と軽く捉えて、スルーしてしまうのは危険だ」と警鐘を鳴らす。
問題視された書籍をめぐり、出版社の三笠書房は「事前告知の限られた情報の中で、ご不快な思いをされた方がいらっしゃった事実について、お詫び申し上げます」、著者は「差別意識や偏見などはまったくありません」「お伝えしたかったことは、『知ることの大切さ』」「表現方法について、もう少し慎重に検討を重ねるべきであった」とコメントしている。
“スーパーカウンセラー”を名乗る著者を、原田氏はどう見ているのだろう。
「私は大学でカウンセリングをしているが、料金は数千円だ。しかし著者は、その10倍を取っている。保険適用できない部分もあり、言ったもん勝ち。『スーパーカウンセラーだから2万〜3万円取ります』がありな世界だ」。
ジャーナリストの堀潤氏は「医師だと医師法など、リスクや責任の取り方が定められている。民間でカウンセラーを名乗り、なにかトラブルがあったときに、裁くための所管がどこになるのか。ユーザー側としては、曖昧だとおっかない」と心配する。
カウンセラーのいのっちさんは、無資格のカウンセラーにも「プロの相談相手」としての良さがあると考えている。
「誰かに相談したい時に、我々のような民間カウンセラーに相談してもらう。『いったん落ち着こう』『見つめ直そう』と話すが、不眠や食欲不振などがあれば、我々の手に負えないため、専門機関を受診するよう勧める。悩む人の窓口になっている」。
公認心理師の有資格者は増やせないのか。
原田氏によると、「いま7万人程度いるが、日本に34〜35万人いる医師と比べると少ない。開業するにもビジネスとして安定しない。スクールカウンセラーは99%非常勤で、週3回くらいを掛け持ちしている。身分が安定しないため、一般の人々も『どこに公認心理師がいるのか』と感じている」という。
OECDによると、カウンセリングの普及率は、日本で6%と、欧米諸国の10〜15%と比較して少ない。
また厚生労働省「労働安全衛生調査」からは、日本ではメンタル不調で休職・退職者が増加傾向である現状も見える。
加えて自殺率(WHO調査)も先進国で最も高く、2024年は2万320人が自殺した。
原田氏は「日本では、カウンセリングや心療内科の受診に、すごく心理的ハードルが高い。逆に欧米では、カウンセリングを受けていることが、ステータスになっている」とも語る。
いかにハードルを下げればいいのだろう。
「昔は語ることすらタブーだったが、だいぶ変わってきた。公認心理師はメンタルヘルスをどんどん啓発して、世間の偏見を減らしていかなくてはならない」。
地域差においては「欧米は日本と比べると、無資格・有資格の線引きが厳しめだが、妙な占い師が心理相談していることもある」と説明する。
そして、「困っているからと言って、どのカウンセラーも素晴らしいとは限らない。公認心理師は法律で『資質向上の責務』が定められている。学会発表や研修を受けるなど、我々の質の向上も大きな課題だ」と語った。
参照元:Yahoo!ニュース