11年で6人出産「多産DV」性行為を拒否できず避妊・中絶NG 夫に洗脳された妻「被害者という意識なかった」専門医「性的DVで性暴力」

DVを受けている人

SNSでたびたび話題になる「多産DV」を知っているだろうか。

女性に望まない妊娠・出産を繰り返させ、身も心も拘束して、支配する性暴力を指す。

かおりさん(40)も、かつての夫から多産DVの被害を受けていた。

18年前に結婚して、すぐに第1子を妊娠。

翌年に第2子、さらに1年後に第3子と続いた。

その頃から体力的に限界を感じ、「妊娠・出産はもう嫌だ」と伝えたが、夫からは殴られたり、拘束されたりした。

子ども好きのかおりさんは中絶を考えられず、最終的に第6子まで産んだ。

心のより所を求めるかおりさんだったが、周囲には「のろけ」だと受け止められ、居場所のなさを感じたという。

夫とは3年前に正式に離婚し、現在は働きながら6人の子どもを1人で育てている。

こうした実情がある一方で、「多産DV」は正しく認知されておらず、ネット上には「女性側で避妊できる」「自衛はできないのか」など、さまざまな誤解や臆測が飛んでいる。

見えづらい多産DVの実態について、『ABEMA Prime』では当事者・専門家と考えた。

産婦人科医の種部恭子氏は、これまで30年以上、多産DVの被害女性を支援してきた。

多産DVとは、「女性が望まない妊娠・出産を繰り返させて、心身に負担を与え、身も心も拘束する性暴力」を指し、具体的には「性行為を強要」「避妊をしない・させない」「中絶させない」などが当てはまる。

なかには、子ども1人でも中絶を繰り返している場合もあるという。

詳細については、「夫婦間の通常の性的DVと同じだ。性行為に応じなければ、舌打ちや首締めを行うのは性暴力だ。そのなかで『避妊に協力して』と言えずに、妊娠してしまうが、中絶は認めずお金も出さない。生まれたら『お前が産んだのだから勝手に育てろ』となり、ずっと産み続けることになる」と説明する。

どのような状況だと、多産DVだと判断できるのか。「『跡継ぎが必要だから、長男が生まれるまで産み続けろ』『介護をしてほしいから女の子を産め。男の子だったら中絶しろ』といったケースがあり、あまりに勝手だ。出産後も変わらず『産み続けろ』と言われる。性交に応じないと、毎日舌打ちされる場合もある」。

そうした状況が続くことで、「『寝られない』など心身の不調で、病院に来る被害者もいる」そうだ。

また「避妊に協力してくれないが、産むお金もないからと、中絶や緊急避妊を繰り返す人もいる」と説明する。

病院で多産DVであると発見するのは、難しいのだろうか。

「産婦人科医でも気づく人ばかりではない。私は診察経験から、中絶7〜8回で『つらいことはないか』と聞くが、疑いの目がないと気づかない。病院を転々としている場合もわからなくなる」。

なぜ男性が多産DVを行うのかについては、「支配欲のために、性的暴力や『子育てをしろ』と外に出る権利を奪う。身体的暴力だけではなく、子育てで家に縛り付けるのも、支配するための道具だ。加害者は『しつけだ』と思っている。被害者は従わないと不機嫌になるのが怖く、言いなりになっていく」と分析する。

また、いわゆるセックス依存症とは異なるようだ。

「性行為のないDVもあるが、ほとんどは性的支配の道具に使われている。避妊しないのは立派な暴力だ。避妊を頼むと不機嫌になるが、それでは妊娠してしまう。そうした背景から、産ませて、家の中に縛り付ける支配につながる」。

かおりさんは22歳で、ネットで知り合った男性と1年の同棲を経て結婚した。

夫からは毎日、多いときは1日3回も性行為を強要された。

そして11年間で6人の子どもを妊娠・出産。

37歳で離婚し、いまは働きながら6人の子ども(7〜18歳)を育てている。

かおりさんは同棲期間から毎日の性交渉(多いときは1日3回)を求められた。

期間が空くことがなく、出産前日・産後退院した当日に無理やりされることもあったという。

避けるために押し入れで寝る、トイレに鍵をかけて寝る、子どもと一緒に寝るなどを試したが、いずれも逃げられなかった。

拒否することはできなかったのか。

当初は「彼の存在がすべて」という洗脳状態にあり、拒否すれば「浮気されるかも」という不安があったという。

いざ実際に拒否すると、殴られる・拘束される・ビデオを撮られるなどの被害を受けた。

子ども自体は大好きだが、4人目からは体力的にきつく、夫にも訴えていたそうだ。

しかし当初は、自分が多産DVだとは気づいていなかった。

きっかけは、夫婦共通の知人が「おかしいから離れた方がいい」と、かおりさんに毎日言ってくれたことだ。

また、子宮の病気で手術が必要なとき、夫が医師に「性行為できないか?いつからできるか」と聞いて、全員ドン引きしたこともあった。

加えて、息子が夫から暴力を受け、児童相談所に通報された過去もある。

被害を受けている当時は「被害者という意識が全くなく、『多産DV』という言葉自体も、離婚して初めて知った」と振り返る。

「被害者には『自分が悪い』と思ってしまう人も、たくさんいるのではないか。広く知れ渡ることで、少しでもなくなるといい」。

3人目以降から「これ以上の妊娠・出産は、つわりも重くきつい」と伝えたが、洗脳状態にあったため、「基本的には拒否できない状態。『俺は結婚してやった』『男心をわかっていない』『お前バカなの?』と言われ、常に『自分が悪い』と思うようになった」そうだ。

かおりさんのケースを、種部氏は「逃げられただけでもすごい。気づくきっかけがあってよかった。隣にいる人が『おかしい』と言ってくれて、はっと目が覚めた。病院でのエピソードもそうだが、そういった事がなければ洗脳は解けなかっただろう」と語る。

弁護士法人グレイスの茂木佑介弁護士によると、夫婦間でも不同意の「性行為の強要」は犯罪となる。

同意がない場合の性行為は、不同意性交等罪に該当する(5年以上20年以下の有期拘禁刑)。

夫婦間においても自分で性行為するか決定する権利「性的自己決定権」が保護されているためだ。

フリーアナウンサーの柴田阿弥は、「夫婦間でも“別人格”だと周知されなければ、こうしたことが起こる。同意がない性行為は、どんな関係であろうと、犯罪になり得る。付き合ったら『相手も自分の一部だ』と捉える人もいるが、自己決定権は必ず本人にある。人権教育につながることであり、性犯罪を減らすためにも、もっと周知されないといけない」と語る。

その上で、世間の風潮として「性行為を断ったときに、不機嫌になるのは性的DVであると、女性側もあまり認識していない」と考察する。

「性教育の不足か、人権教育の不足か分からないが、『避妊してはいけない』だけが教えられ、『パートナー間で毎回合意を取る』が抜けている。教育のはざまではないか」。

かおりさんは、みずからの経験を通して、「合意を取らない性行為が犯罪だと、幼いころから教育することが大事だ。自己肯定感が低い女性であればあるほど、なかなか体の決定権が自分にあると認識しにくい。学校教育でも『自分の身体がどれだけ大事か』を教えてほしい」と願っている。

種部氏は「日本では避妊がポピュラーではない。ピルやIUSと呼ばれる確実な避妊具を使っている人は4%程度しかおらず、96%はパートナーに避妊を求めないといけない。しかし相手が不機嫌になると、すぐ妊娠を引き受ける現状がある」と指摘する。

加えて、教育不足も問題点として挙げる。

「日本では人工妊娠中絶には、配偶者の同意が必要だ。配偶者が反対すると、女性は産むしかなく、これが多産DVにつながっている」。

しかしながら、「DVが明らかな場合には、同意がなくても中絶できると、2年ほど前から運用が変わった」という。

「残されている手段を被害者に伝えたい。女性でも男性でも、そうした実情を知っていれば、被害者に『産まないという選択』を示して、目覚めさせられるかもしれない」。

参照元:Yahoo!ニュース