物価高で常態化「ステルス値上げ」 各社の悲しすぎる減量を追う

値上げをイメージした画像

物価高の昨今、話題になることも多い「シュリンクフレーション」。

商品価格が変わらないまま内容量の減少が続き、実質的にインフレが起きている経済現象のことだ。

SNSなどでは「ステルス値上げ」とも呼ばれている。

昨今では1リットルの牛乳が900ミリリットルになり、70グラムの菓子が気付けば55グラムに――このようなステルス値上げがもはや常態化している。

そもそもシュリンクフレーションは「シュリンク(縮小する)」と「インフレーション」を合わせた造語である。

極端な例だが、必需品の全ての値段が変わらないまま容量が2分の1になった場合、消費者は購入量を2倍にする必要がある。

つまり実質的には「値上げ」といえる。

スーパーを歩くとさまざまな商品の内容量が減り、どこか一つの会社が、というわけではなく経済現象としてシュリンクフレーションが深刻化している。

個人的な経験だが、家でコーヒーを飲む筆者は豆の容量が400グラムから200グラム台まで縮小してしまったため、昨今は同じ量を確保するために2袋を購入しなければならなくなった。

ここからは、実際にどのような容量改定が起きているのか、各社の実例を見ていく。

カルビーは代表商品「ポテトチップス」で7月以降、内容量を改定する。

「うすしお味」や「コンソメパンチ」「のりしお」の3商品を60グラムから55グラムに減量し、9月には「しあわせバタ~」「のりしおパンチ」「関西だししょうゆ」など5商品でも5グラム減らす。

いずれも価格改定はない。

容量改定は今に始まったことではなく、長期で実施している。

レギュラーサイズは1975年の発売時に90グラムだった。

その後70グラムの「パーソナルサイズ」が誕生し、これが標準品に。

その後、さらに60グラムへと減り、今度の改定を迎える。

グラムにして当初から6割近く減っているわけだが、同じくカルビーの「じゃがりこ」はここまで激しく変化していない。

初登場時は63グラムで、一時は微増し、60グラム→57グラムへと変更。

今後は6月2日の納品分から、内容量の変更ではなく値上げを控えている。

ポテトチップスと比較して内容量が少なく縮小の余地がないことも考えられるが、競合が少ない点も影響しているだろう。

値上げをしても客離れしにくいと推測される。

明治は「明治おいしい牛乳」を2016年に1リットルから900ミリリットルへと減量した。

従来品と比べてパッケージが小さくなったことで、筋肉への負担が小さく注ぎやすい点を訴求したが、「苦しい言い訳だ」との印象を抱く消費者もいるだろう。

同社は過去10年間で牛乳類の飲用量が約1割減少している点を改定の背景に挙げていた。

2020年には中容量品として450ミリリットルの商品を発売したが、キリの悪い数字だ。

900ミリリットルの標準に合わせたと思われる。

飲料の容量改定は相次いでいる。

ペットボトルといえばかつて500ミリリットルが標準的だったが、少量用品が続々と登場している。

「コカ・コーラ」は2021年に700ミリリットル、350ミリリットルの商品を発売。

少子高齢化で世帯人口が減少する中、小型サイズを少人数でシェアする機会が増えたとしている。

350ミリリットルは実売価格が100円台前半であることが多く、価格訴求力を高める狙いがあったと思われる。

インフレが続く中、100円前後で類似品を出すプライベートブランドがメーカーの脅威となっているからだ。

自動販売機でも、500ミリリットルに満たないペットボトルが目立つようになった。

これもステルス値上げの一環と思われる。

「午後の紅茶」や「三ツ矢サイダー」などが挙げられる。

食料品の事例も見てみよう。

雪印メグミルクの「6Pチーズ」は1954年の発売当時は170グラムだったが、あれよあれよと小さくなって、今では108グラムである。

同社は生乳生産量が低調なほか、原材料費の高騰を理由に挙げている。

同じく「スライスチーズ(7枚入り)」も2022年に126グラムから112グラムへと減量した。

日本ハムの「シャウエッセン」は2022年2月に値上げした結果、売り上げが2割ほど減少したためさらなる値上げができず、同年10月出荷分から容量を改定。

6本入りのまま、グラム数を127→117に減らした。

市販品の中でも比較的高価格であるだけに、さらなる値上げに消費者が耐えられないと判断したとみられる。

伊藤ハムも同様に「アルトバイエルン」の容量改定を行っており、この20年で40グラム近く減量している。

このように各社が容量縮小というステルス値上げを実施している。

以前は少し話題になる程度だったが、対象の商品は多岐にわたり、どんどん消費者を苦しめている。

ちなみに、統計局が算出する消費者物価指数は内容量の改定に対応している。

「ジャム」については、最も販売量が多い「瓶詰150g入り アヲハタ55 イチゴジャム」を基本銘柄としているが、2016年に以前の165グラムから150グラムに変更したため、統計局は調査価格に反映した。

消費者物価指数は現在、2020年を基準とすると1.1倍という傾向が出ているが、シュリンクフレーションの影響もあると考えられる。

仮に価格が変わらなくても、消費者にとっては、実質的に物価が上昇するという不利益が生じている。

ステルス値上げに対して消費者が好印象を持つことはない。

シャウエッセンのように値上げが客離れに直結する場合もあるため、メーカーの苦悩も理解できるが、過度に行えばブランドイメージの毀損を伴う。

一方、近年では「コストコ」や「ロピア」といった、大容量の商品をそろえるチェーンが人気だ。

総菜類で大容量品を出す「トライアル」も「西友」を買収するほどに勢力を伸ばした。

こうした店舗は消費者の大容量ニーズに応え、人気を博したと筆者は考えている。

一般スーパーでのシュリンクフレーションが続く限り、大容量店の人気は続くかもしれない。

参照元:Yahoo!ニュース