「困っている」中国側が漏らした本音 トランプ関税で日中は変わるか

中国訪問中の公明党の斉藤鉄夫代表は23日、中国共産党最高指導部の一人で序列4位の王滬寧政治局常務委員と会談した。
両氏はトランプ米政権の関税措置を巡って国際社会が混乱していることを踏まえ、自由貿易体制を維持していくことの重要性で一致。
日中両国が自由貿易擁護で足並みをそろえる、これまであまり見られなかった状況となっているが、互いに不信感も抱いており、関係改善が進むかは見通せない。
今回の訪中は米中による報復関税の応酬のタイミングと重なった。
斉藤氏と中国要人との一連の会談では、経済的結びつきが深い日本に歩み寄ろうとする中国側の姿勢がうかがえたが、自由貿易を巡る両国の考え方の開きは小さくない。
日本政府は、日米関税交渉への悪影響を避けながら、日中関係の改善を図るという難しいかじ取りを迫られている。
斉藤、王両氏は北京の人民大会堂で約1時間20分、会談した。
斉藤氏は、悪化する米中関係について「世界経済に大きな影響力を持つ両国の関係の安定は、国際社会にとって極めて重要だ」と冷静な対応を求めた。
これに対し、王氏は「自由貿易体制を守っていくことが、世界や日中の共通利益につながる」と応じた。
今回は「トランプ関税」後、初めての日中要人による会談で、中国の対日姿勢に変化が生じたかを探る好機として注目が集まった。
斉藤氏は、レアアース(希土類)の輸出規制など中国側にも自由貿易における懸案があることを念頭に「中国が国際社会のルールにのっとり、ふさわしい責任をしっかり果たしていくことが重要だ」と苦言を呈した。
王氏は「正しい相互認識の上でウィンウィンの関係を築いていくことの重要性」などを強調。
「これからしっかり交流を深めることが解決につながっていく」と述べ、日本の立場にも一定の理解を示した。
中国側の対応に関し、外務省幹部は「今後、中国からどんどん生暖かい風が吹いてくるだろう」と指摘。
日本が主導し、中国が加盟申請中の「包括的及び先進的な環太平洋パートナーシップ協定」(CPTPP)を例に挙げ、「中国は今後、更に関心を寄せることになるだろう」と分析した。
米国の関税措置に苦慮する中国にとって日本経済の重要性は増しており、今回の歩み寄りにつながったとみられる。
関係者によると、中国共産党幹部は斉藤氏との懇談でトランプ関税が話題に上ると「今、中国は困っている」と窮状を口にしたという。
日本にとっても中国は最大の貿易相手国だ。
近年は台湾への軍事的圧力の高まりなど安全保障上の課題が両国関係を冷え込ませてきたが、日本政府関係者は「米国の関税の打撃が予測される中、中国経済の重要性は外交的にも大きくなってくる」との見方を示した。
斉藤氏の訪中に続き、今月27~29日には森山裕・自民党幹事長ら日中友好議員連盟が訪中する。
2週連続での日本の要人受け入れとなり、日本への「大歓迎ムード」(公明党関係者)も漂う。
石破茂首相は森山氏にも習近平国家主席宛ての親書を託す方針で、公明幹部は「斉藤代表が渡した親書と二つ合わせて一つの内容になっているようだ」との見方を示した。
ただ、日米同盟を外交の基軸とする日本にとって、中国側への接近は、これから本格化する日米関税交渉に悪影響を及ぼす危険性もはらむ。
このため、中国側の秋波を「日本の取り込みだ」(日本政府関係者)と警戒する声も上がっている。
公明幹部は「日米交渉の支障になるような言動は避けるよう心がける必要がある」と語り、米中両国に配慮する外交の難しさを口にした。
日本政府は、李強首相が訪日する予定の日中韓首脳会談(サミット)を早期に開き、習氏の訪日や石破氏の訪中につなげたい考えだ。
トランプ関税がもたらした日中関係の変化の兆しをどう生かすのか、外交手腕が問われている。
「共に手を携えて挑戦に対応すべきだ」。
米国の大規模関税を明らかに意識したこの一言が、中国側が今、日本に最も伝えたいメッセージだったようだ。
王氏が23日、斉藤氏との会談でこう発言し、別の中国共産党幹部も斉藤氏に同じ言葉を使って協力を呼びかけた。
米国との貿易戦争が激化するこの時期、習指導部が日本の議員訪中を積極的に受け入れるのは、米国の同盟国である日本も中国を重視していることをアピールし、米国をけん制する意図があるとみられる。
トランプ米政権の関税攻勢に、中国政府は「最後まで相手になる」と強気だが、雇用や消費など停滞が長引く経済への影響が本格化するのはこれからだ。
この危機に対応するため、習指導部はアジアへの周辺外交を重視する方針を打ち出した。
隣国であり、世界有数の経済力を持つ日本も例外ではない。
日本政府関係者によると、李強首相は石破茂首相宛てに米国の関税引き上げに、協調して対応するよう呼びかける親書を送ったという。
李氏は今後、日中韓首脳会談への出席のために訪日も調整されている。
一方で、中国が日本に抱く「対米追従」という不信感が消えたわけではない。
トランプ政権下でも日米同盟を強化する流れは変わらず、中国は台湾問題などへの関与にいら立ちを募らせている。
習指導部が警戒するのは、米国が関税を武器に、他国に中国と手を切るよう「踏み絵」を迫る事態だ。
それだけに世界各国のモデルケースとなり得る日米の関税交渉を注視している。
中国商務省の報道官は21日、米国と他国の関税交渉を巡り「中国の利益を犠牲にして合意される取引には断固反対する」と表明し、対抗措置も辞さない構えを示した。
日中関係筋は「日米交渉が中国に否定的な内容になれば、中国が一連の対話プロセスを止めることはあり得る」と述べ、日本産水産物の禁輸など懸案への影響を危惧した。
対米戦略のために習指導部が日本に送る温かな秋波は、突然に「北風」へと変わる危うさを秘めていると言えそうだ。
参照元:Yahoo!ニュース