まさか、フジ取締役に「旧ジャニ社長」の名前 「ギャラの折り合いをどう付けるのか」

フジテレビの外観を撮影した画像

フジ・メディア・ホールディングス(FMH)の金光修社長(70)と子会社・フジテレビの清水賢治社長(64)の退任を要求していた大株主の米国投資会社「ダルトン・インベストメンツ」が、12人からなるFMHの独自新役員候補を発表した。中には「STARTO ENTERTAINMENT」の福田淳代表(59)の名前もあり、波紋が広がっている【高堀冬彦/放送コラムニスト、ジャーナリスト】

ダルトンのFMH案の中でひときわ注目されているのが福田淳氏の存在。

故・ジャニー喜多川氏による性加害問題によって出直しを余儀なくされた旧ジャニーズ事務所のタレントたちが所属するSTARTO社の代表だ。

芸能事務所代表がテレビ局側の経営陣の1人になったら、72年目となるテレビ放送の歴史で初めてのことである。

福田氏は元ソニー・デジタルエンタテインメント代表。

フジの弱点である動画配信部門に通じていることなどが評価されたようだ。

ただし、懸念する声もフジの社内外にある。

「所属タレントが不祥事やスキャンダルを起こしたら、どうするつもりなのだろう。FMHの子会社であろうが、フジとしては特別扱いなど出来ない。それどころか福田氏の監督責任が問われ、FMHの役員を続けられなくなる恐れがあるのではないか」(フジ関係者A)

問題はまだある。

「FMHの子会社であるフジとSTARTO社の利害を一致させるのは意外と難しい。たとえばフジはタレントたちのギャラをなるべく抑えたいが、STARTO社は出来るだけ高額にしたい。ギャラが高くなるとフジの利益は減り、STARTO社は得をする。福田氏は両社の役員になったら、どう折り合いを付けるのか」(同フジ関係者A)

福田氏の適正も問われそうである

「福田氏は2024年4月にSTARTO社を旗揚げしたあと、旧ジャニーズ事務所勢を引き継いだトップとして新聞各社などからたびたび会見を求められているが、無視を続けている。報道機関の親会社の経営陣になるとしたら、より問題視されるはず」(同・フジ関係者A)

ほかの芸能事務所も表情を曇らせる。

「フジの社員が福田氏に忖度し、STARTO社のタレントを特別扱いするのではないか。そもそも福田氏は110社以上の芸能事務所で組織されている日本音楽事業者協会(音事協)との関係がよくない。フジと音事協との関係にヒビが入ることもあり得る」(芸能事務所幹部)

STARTO社は旧ジャニーズ事務所時代から音事協非加盟だ。

新役員人事案には元フジのアナウンサーの坂野(旧姓・土井)尚子氏(67)の名前もある。これにはフジOBの1人が「彼女なら適任」と快哉の声を上げた。「彼女のことを悪く言うフジ関係者はいない。みんな応援する」(同フジOB)

坂野氏は国際基督教大学(ICU)卒業後の1980年に入社。

ただし、契約社員である。

1969年まで女性アナの定年が25歳だったフジはその後も女性アナを冷遇した。

女性アナの立場が正社員になったのは男女雇用機会法が施行された1986年からである。

もっとも、当時の女性アナは極めて優秀だった。

同期で東大卒の西村洋子氏(67)はフジ退社後、英オックスフォード大学に留学し、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)に勤務。

その後は大学教員などを務めた。

津田塾大卒の山村美智氏(68)は舞台を中心に女優活動をしている。

1983年入社の牛尾奈緒美氏(64)は元明治大学副学長で現在は教授。

そのころは制作幹部が女性アナたちをタレントらの接待要員にすることなどあり得なかった。

「日枝氏が1980年代後半から女性アナをタレント扱いしたのが間違いの始まりだった」(同フジOB)

坂野氏が入社した当時の女性アナたちは仲が良く、2020年に山村氏の夫が他界した際にはほぼ全員が駆け付け、通夜と葬儀を手伝った。

その中心人物が坂野氏だった。

女性アナOBたちの集まる場面ではいつもそう。

明るく、行動力と人望を兼ね備えた人なのである。

坂野氏は1987年に退社すると、米コロンビア大学でMBAを取得。

その後は外資系コンサルティング会社に勤務する。

1996年にはネイルサロン運営など美容と健康に関する事業を展開する「ザ・クイック」(現在は「ノンストレス」に社名変更)を設立。

ネイルサロンは50店舗ある。

全国のネイルサロンの経営を厳しいものにした2019年から2023年までのコロナ禍にも負けなかった。

現在は経済産業省の産業構造審議会で委員を務めている。

「坂野氏は7年しか会社にいなかったものの、頭のいい人だから、フジがどうして強くなったのか、一方で何を失っていったのかを知っているはず。どうして弱くなったのかも分かっているだろう。彼女の能力を知っていたダルトンのリサーチ能力には驚く。今回の新役員人事の目玉は彼女だ」(同フジOB)

12人の中には大手総合金融グループ「SBIホールディングス(HD)」の北尾吉孝社長(74)もいる。

超が付くほど大物金融人である。

北尾氏は2005年、ホリエモンこと堀江貴文氏(52)が率いる「ライブドア」が、当時のフジの大株主・ニッポン放送を買収しようとした際、ホワイトナイト(買収防衛役)としてフジ側を守った。

北尾氏は7日に自身のフェイスブックで、FMHとフジの問題に触れ、「ホワイトナイトをやるべきではなかった。(FMHとフジを)堀江さんが経営していたら、進化した会社になっていた」と書き込んだ。

北尾氏と堀江氏は既に和解している。

北尾氏は17日に会見を開き、旧態依然としたFMHとフジの経営を批判。

そのうえで「反省の念がなく敵対してくるのなら、徹底的に勝負する」と宣言した。

ちなみにFMHの資本金は1462億円、SBIHDは同1804億円である。

「日枝氏の失敗の1つは恩人の北尾氏に礼を尽くさなかったこと。日枝氏は世話になった先輩や自分に尽くした部下も平気で切れる人だから」(フジ関係者B)

北尾氏と日枝氏の戦いは2月上旬には始まっていた。

日枝氏側はFMH株を大量に買っているのは北尾氏サイドだと確信し、その狙いを懸命に探っていた。

一方、12人の新役員人事案を出したダルトンは「日枝体制の 残滓を一掃し、大変革を」と声明した。

こちらも日枝氏に悪感情があるようだ。

フジの低視聴率が長く続き、FMHの配当が低かったことなどが理由と見られる。

同社はFMHの株式のうち約7%を保有している。

北尾氏が総帥であるSBIHDの傘下で資産運用会社の「レオス・キャピタルワークス」は同5%強を保有する。

同社がダルトンと連携するのは間違いない。

ほかに、旧村上ファンドの代表だった村上世彰氏(65)の長女・野村絢氏と、投資会社「レノ」がFMH株の11%強を持つ。

筆頭株主である。

村上氏は沈黙を守っている。

だが、村上氏は堀江氏のニッポン放送株買収の際、自らもインサイダー取引に問われ、証券取引法違反で有罪判決を受けた。

これが不満だったとされている。村上氏もフジには好感情を抱いていないと見られている。

「村上氏は堀江氏とも親交があるから、ダルトン、レオスと行動を共にするだろう」(同フジ関係者B)

金光修社長らFMH側が3月27日に発表した新役員候補をダルトンは白紙に戻す意向だ。

しかし北尾氏は17日の会見で、清水氏については「残しておいたほうがいい」と語った。

「僕は一度お会いしただけですが、いろいろな方からの清水評を聞きました。誰かは残すべきと最初から思ってきたこと。アニメを(中心に)やっていたこともあって昔のカラーの薄い方」(北尾氏)

もっとも、フジ関係者Bの見方はやや異なる。

「誰か残さなくてはならないのは本音だろうが、結び付きが強い金光氏の分断も大きな狙いだろう。日枝氏との関係も金光氏と違って薄い」(フジ関係者B)

FMHとダルトンの新役員候補案。

どちらが承認されるかは6月の株主総会で決まる。

一辺に決まるのではなく、1人ひとりが株主から承認を受ける。

参照元:Yahoo!ニュース