牛乳安売り 物価高騰下になぜ 値頃感演出し来店促す 小売りがコスト負担か

原材料や人件費の高騰を受けて、食料品の価格が上昇している。
ところが、記者の日常の買い物でむしろ最近安くなったと感じる食品がある。
「牛乳」だ。飼料費高騰で酪農経営が厳しい中、なぜ牛乳が安売りされているのか。
理由を探った。
2023年8月に飲用向けの乳価が1リットル当たり10円引き上がってから、店頭では最も安い銘柄で1本(1リットル)当たり税別220~230円の値が定着してきた。
だが、記者が平日に東京都内の15店の価格を調べたところ、3月上旬には10店、4月上旬には11店で同200円を下回っていた。
関東の乳業メーカーやプライベートブランド(PB)の製品に、同178~199円の値がついていた。
「卵など高騰した食品が特売をしにくくなり、代わりに牛乳を掲載する例が増えた」
デジタルちらしサービス「トクバイ」を運営する、くふうカンパニーのデータ分析部の担当者はこう指摘する。
同社が掲載したちらしデータで牛乳の掲載商品数を調べたところ、24年11月から3月にかけて1.5倍に増えていた。
一方、鳥インフルエンザの影響で供給が不安定な卵は同35%減っていた。
卵で集客ができない分、牛乳を安売りする頻度が増えた格好だ。
牛乳の原料価格は、乳業メーカーと生産者団体が年に1回の交渉で決めている。
改定がなければ原料価格が上下することはなく、安売りのコストは生産者以外の誰かが負担しているはずだ。
Jミルクは「乳業メーカーか小売店が負担している可能性がある」とみる。
店頭で安売りされていた関東の乳業メーカー複数社に取材をしたが、小売店への卸価格を下げたメーカーはなかった。
小売店の事情に詳しい、全国スーパーマーケット協会は「小売店が利益を削っている可能性がある」とみる。
近年はスーパーの売り上げが伸びているものの、価格上昇で販売数量が低下しており、集客の重要性が増している。
「販売点数の多い牛乳で値頃感を演出し、来店を促す店がある」と説明する。
一方、都内で2店舗を経営するスーパーイズミは1年以上、牛乳を特売していない。
五味衛社長は「大手のように大量仕入れで安くできない。安売りは困るね」とこぼす。
飼料費の高止まりや光熱動力費の上昇で、酪農の生産コストは右肩上がりに上昇している。
都府県最大の指定生産者団体(指定団体)・関東生乳販連は、8月出荷分から飲用、発酵乳等向けの生乳1リットル当たり4円の引き上げで妥結した。
同連は安売りに消費者が慣れてしまうことで、牛乳が値上がりしたときに需要が大きく減ってしまうことを懸念。
「安売りは酪農経営にとってマイナスの影響が大きい」と強調する。
米の価格が大きく上昇して騒動になっているが、同じことが牛乳でも起きるのではないかと懸念している。
生産コストが大幅に上昇しているのに、価格が変わらなければ酪農家はやっていけない。
米価が上昇する前の米と構図は似通っている。
本来、米も生産費の高騰分を緩やかに転嫁できていれば、急激な上昇は招かなかったはず。
生産現場の状況に目を向けず、安い価格を求め続けた結果が今だ。
牛乳で同じことを繰り返さないために、小売りも消費者も、適正価格を意識してほしい。
参照元:Yahoo!ニュース