ヌートリアに食べられ伝統野菜ピンチ 捕獲もイタチごっこ 松江

ヌートリアをイメージした写真

松江市黒田町一帯で江戸時代から栽培されている伝統野菜「黒田せり」が、特定外来生物ヌートリアによる食害でピンチに陥っている。

セリ田の四方と天井をネットで囲っても隙間(すきま)から入り込んで葉を食べるため、今季だけで50万円以上の損害を受けた農家もいる。

大型ネズミの仲間であるヌートリアは捕獲が難しく、イタチごっこが続いている。

農林水産省によると、かつて黒田町一帯は沼地で、春の七草の一つの野生のセリが自生していた。

松江藩の五代藩主・松平宣維(のぶすみ)(1698~1731年)がセリの改良を推奨し、本格的な栽培が始まったとされる。

あくが少なく、シャキシャキとした食感で香りが良いのが特徴で、美食家として知られる北大路魯山人から1930年代に「日本一」の折り紙を付けられたという。

環境省によると、ヌートリアは南米原産の大型ネズミの仲間で、体長40~60センチ。

毛皮にするため日本に持ち込まれたが、近年は農作物を食い荒らすため、特定外来生物に指定された。

同市農政課によると、黒田せりの栽培農家は1955年ごろ、45戸(栽培面積4ヘクタール)でピークだった。

宅地開発や後継者不足により、2014年には9戸(同40アール)で出荷量8トン、出荷額600万円に低下、現在は5戸だけが市場に出荷する。

このうち黒田町の農業、野津宏三さん(90)と弟子の加藤善平さん(50)は12アールで栽培する。

セリは例年4月ごろ、水を張ったセリ田に苗をまき、苗から伸びたツルが水中で広がる9月ごろにいったん回収。

約10センチ間隔でツルを切って再びセリ田にまき、長さ30センチほどに成長したら11月から翌年3月まで収穫する。

今季は苗の生育が悪く、ヌートリアの食害もあり、収穫が半月遅れになっている。

食害は約15年前から目立ち始め、野津さんはこれまで10匹以上捕まえた。

今年1月も体長約50センチの個体を捕獲したが、ヌートリアは繁殖力が強く、食害は防げないという。

同市農業基盤整備課によると、昨年度は捕獲おりを農家に26個貸し出し、数件の捕獲例があるが、決定的対策にはなっていないのが実情だ。

野津さんは「迷惑な存在で、今季は50万円以上の損害が出た」と憤慨する。

収穫は4月10日ごろまで続くといい、加藤さんは「ヌートリアとの戦いに勝ち、伝統野菜を守りたい」と話している。

参照元:Yahoo!ニュース