焼肉ライクの「大きな誤算」急成長から一転《閉店ラッシュ》へ あらわになった「フランチャイズビジネス」の過酷な現実

コスト上昇による経営圧迫、コロナ禍の参入過多による競争激化、節約志向の高まりによる需要不足などにより、焼肉店の倒産が急増している。
これらは、資本力がある焼肉チェーンにも悪影響を及ぼし、店舗数上位10社の中で、前年より店舗数を増加させているのは「焼肉きんぐ」、「熟成焼肉いちばん(ゼンショー)」だけだ。
かつて、‟ひとり焼肉”で話題を創出した「焼肉ライク」も、最近は出店より閉店が上回り、前年の国内94店舗から10店減の84店舗(海外37店舗)に減少している(日本ソフト販売より)。
誰にも気兼ねせず安価にひとり焼肉を堪能したいというニーズに対応し、急速な成長を見せてきたが計画通りに進んでいない状態だ。
巻き返しに向けた事業再構築フェーズで、一旦立ち止まっているのであればいいが心配する声が多い。
なぜライクの店舗数が減少したのか、その要因を企業・競争・顧客市場の3つの視点から検証してみたい。
ライクを業態開発しチェーン展開したのは、焼肉店舗数1位の牛角の創業者だった西山知義氏が率いるダイニングイノベーション。
同社は現在、世界13ヵ国、18ブランド、467店舗展開している。
矢継ぎ早に新たなコンセプトの業態を開発し、攻めのメディア戦略で認知度も高い企業だ。
ライクは2018年8月に1号店をスタートさせ、株式会社ライクの設立は2019年4月である。
3年半の短期間で海外も含め約130店舗を出店するなど急成長させてきた。
焼肉は高いというイメージを払拭させ、手軽にファストフード感覚で自分好みのカスタム焼肉を可能にした店だ。
職人が不要なコックレスと単純オペレーションでコストを削減し、低価格を実現している。
フランチャイズ(以下、FC)を主とした店舗展開で約9割がFC店だ。
標準モデルは20坪程度の小型店で必要な開業資金は4300万円、月間損益は売り上げ1200万円、原価480万円(40%)、人件費252万円(21%)、諸経費100万円(8.3%)、賃料100万円(8.3%)、ロイヤリティ60万円(5%)の費用構造で、営業利益208万円(17.3%)の設定である。
商品は、焼肉・ライス・わかめスープ・キムチのみの単純な提供で、注文から提供までのリードタイムは約3分だ。
その結果、お客さんの平均滞在時間も25分程度と短く、客席回転率が高い効率経営で収益を確保するビジネスモデルだ。
コンセプトは、「一人でも気軽に行ける焼肉のファストフード店」で、焼肉を自分専用のロースターで、周囲を気にすることなく、自分のペースで堪能できることが訴求ポイントだ。
想定する客単価はランチ帯が1100円、ディナー帯は1500円と、回転寿司をもライバル視した価格設定で、追加肉も50グラム単位で注文できる。
あまり時間がない時でもさっと食べられて、強力な換気設備だから衣服にも匂いが残らず、仕事中の人も気にせず利用できる。
約80%が1人客だが、テーブル席もあり2人以上にも対応している。
先日、私も行ってきたが、効率性を更に進化させながらも、顧客対応力は良かった。
今の時期、1000円程度でけっこう量のある焼肉を食べられ、高い米が問題視される中で17時までご飯も食べ放題とは満足度も高い。
では、そのような店がなぜ店舗数を減らしているのか。
ライクにFC加盟するのは、店の繁盛ぶりを見て、新規事業への参入として加盟した法人が多い。
しかし、計画通りに進んでいないのが気になる。
例えば、ラーメンチェーンの幸楽苑とFC契約を結び、共同で店舗開発をしていく計画だったが、2022年末時点の12店舗をピークに現在は9店舗まで縮小している。
また、オートバックスのFC加盟店であるバッファローフードサービスも、2023年3月には8店舗を運営していた。
しかし、現在は6店舗と減らしている。
原因はコロナ収束後の人流復活で売上は回復基調にあるものの、急速な運営コスト(上昇)で利益の確保が難しかったとのことだ。
これらは参入したタイミングが悪かったのではなかろうか。
一般的に、多角経営の一環で加盟した企業で、コア事業と関連のない新規事業はシナジー効果がないからリスクが高いのは成長戦略でよく指摘される。
加えて、新規事業の組織内の位置づけの曖昧さや経営資源の不適正な配分度合いで失敗する例はよくあることだ。
大手チェーン焼肉店も客層の変化を分析しながら従来スタイルとのシナジー効果を狙って、一人客用の席を設置したり、おひとり様メニューを用意するなど、ひとり焼肉にも力を入れてきているようだ。
また、ひとり焼肉の独自ブランドを開発し出店したり、事業化している焼肉チェーンも存在する。
そういった流れで、ひとり焼肉店を随所に見かけるようになったが、ライクほど多店舗化はしていないようだ。
他のひとり焼肉店の傾向としては、投資回収の速度を速めるため、少し高めの価格メニューを充実させている店が多い。
「ワンカルビ」を展開するワン・ダイニングも本業がお肉屋さんいう強みを発揮し、ひとり焼肉店の展開を始めた。
ワンランク上の「ひとりカルビ1965」を1店舗、一つの店内に精肉の小売店と一人焼肉レストランを併設した新たな形態の店「お肉屋さんのひとり焼き肉」を6店舗出店している。
焼肉は家族やグループで特別な日に食べる食事である。
価格競争力で優位性を確保したファミレス型焼肉店が勢力を拡大し、市場規模も1兆2000億円、店舗数2万2000店(2020年、日本フードサービス協会)までに拡大した。
4人~6人掛けテーブルが標準タイプで、多人数で利用することを前提に設計されている。
だから、一人では行きにくいもので、一人で焼く寂しさから、あまり人に見られたくないものだった。
店側も一人客では売り上げが伸びず、席効率や作業効率が悪いから、あまり歓迎してこなかったこともひとり焼肉店が普及しない要因だった。
しかし最近は、ひとり焼肉店に行く人が増えたお陰で、一人で焼肉を食べることにも慣れ、抵抗感や羞恥心も薄れている人も増えているのはプラス要因である。
また、厚労省によると、晩婚化・生涯未婚率の上昇・少子高齢化などを背景に、単身世帯比が34%と高まっており、2040年には約40%に達するとの予測だ。
加えて、家族と同居していても生活のパターンやリズムが違うという理由から、個食が増えており、ひとり焼肉店にはビジネスチャンスになりそうだ。
人口が減る中で高齢化が進展しているが、その人たちも肉食シニアとして存在感を発揮しており、若者世代以上の需要規模があることも見逃せない。
他方で、実質賃金が上がらず節約意識が高まる今の経済状態で、「スーパーで肉を買って家で食べるほうがいい」と考える人が増えているが、これが続くと将来的には脅威である。
ライクの成長の原動力になっているFCビジネスは業界未経験者が多く加盟する。
そのため、強固な支援体制や儲かるビジネスモデルでなければ、見向きもされない。
その際、1人のオーナーが複数店舗を経営していれば、成長できる証になるものだ。
ライクも店舗数が減少しているFC企業がある一方で、10店舗近くを出店しているFC企業も存在しているようだ。
私もチェーン本部のFC運営部に属していたからFC運営を中心としたライクの大変さはよく判る。
一般論だが、FC運営は経営理念共同体を前提に、チェーンとしての統一性を遵守するが、他人資源を活用するだけに直営店ほど厳格な管理統制は難しい。
何かのきっかけでベクトルが合わせられなくなったり、双方の利害が一致しないと、一体感の醸成が困難になる。
FC契約は、業績が下降気味になれば、責任の擦り合いが始まり、店舗の離脱が起きやすくなって最終的には訴訟に発展するから要注意だ。
肝心の儲かる仕組みだが、市場調査を徹底し仮説検証を繰り返した上で、最適なビジネスモデルを開発しても、想定以上に市場ニーズとの乖離があり、当初のコンセプトとズレが生じてしまう例はよくあること。
大切なのはそこで軌道修正し、変化に合わせられるか否かであり、それが栄枯盛衰の分岐点となる。
ひとり焼肉も今後は、現状の効率経営で売上・利益を目指す路線を踏襲するか、効率よりも効果を狙って顧客満足度を高めながら付加価値を創造するかの選択が迫られそうだ。
成長著しかったライクが、今後どう展開していくか注視したい。
参照元:Yahoo!ニュース