「FRBプット」への期待再び 発動水準は相当低い可能性

米株式市場で売りが膨らむ度に、相場の大崩れを恐れる市場参加者の間で「FRBプット(FRBによる下支え)」の話題が再燃する。
現在進行中の相場調整局面も例外ではない。
ただ現在、米連邦準備理事会(FRB)にとって「FRBプット」を提供するハードルは高そうだ。
FRBプットとは「資産価格が下落すればFRBが金融緩和その他の手段で相場を支える」という概念。
グリーンスパン議長時代(1987―2006年)に登場して以来、投資家心理に埋め込まれてきた。
FRBの責務には当然ながら金融の安定が含まれるため、ある意味でFRBプットは常に存在してきており、いつでも使えると言える。
2007―09年の世界金融危機と20年の新型コロナウイルス禍はFRBプットが発動した典型例だ。
HSBCのストラテジストチームが指摘する通り、FRBプットは必ずしも緊急利下げや量的緩和(QE)である必要はない。
例えば金融政策の声明に「金融環境は相当程度引き締まっている」という文言を盛り込むだけでも、相場を沈静化させる場合がある。
現在の相場下落は、明らかに上記のような危機とは異なる。
とは言え、ナスダックがピークから10%以上下落して「調整」の領域に入り、S&500種総合指数もその瀬戸際にある今、市場では「下落がこれ以上進めば間もなくFRBの注意を引くだろう」との思惑が広がっている。
警戒感が広がるのは無理もない。
トランプ米政権の混乱に満ちた貿易政策により、消費者や企業、投資家の間に大きな不透明感が生まれ、景気後退のリスクも高まっている。
巨大ハイテク株(ビッグテック)を筆頭に、米株式市場の時価総額は1カ月弱で約5兆ドルも吹き飛んだ。
ビッグテック7銘柄に投資するラウンドヒルの「マグニフィセント・セブン」上場投資信託(ETF)は12月のピーク時から20%下落した。
米国では上位10%の富裕層に株式保有が集中しており、この層が個人消費に占める割合が50%と過去最高に達していることを踏まえれば、株価下落の影響は瞬く間に経済全体に広がりかねない。
政策担当者は金融環境も注視するだろう。
ゴールドマン・サックスの指数によると金融環境は過去約1年間で最も引き締まっている。
これはほぼ100%、株価下落が原因だ。
ただ、経済全体の環境を見渡すと、株価がもっと大幅に、もっと急スピードで下げない限り、FRBは政策対応をしないことが強くうかがえる。
株式から債券、一部の主要な通貨ペアに至るまで、ボラティリティーは数カ月ぶりの高水準に達してなお上昇中だ。
]一方、過去の市場危機時の典型的な水準に比べると大幅に低い水準にとどまっている。
クレジットスプレッドもしかり。
米高利回り債の米国債に対する利回りスプレッドは今週、6カ月ぶりに300ベーシスポイント(bp)を上回ったが、過去数十年間に経験したことのある800、900、2000bpといった水準にはまだほど遠い。
流動性も、FRB流に言えば「潤沢」なようだ。主要な市場で価格のギャッピング(流動性が低下して市場価格に連続性が無くなること)は起きておらず、取引はスムーズに執行されており、調達市場にストレスの兆候は見られず、社債の発行市場は機能し続けている。
その上、市場あるいは経済が悪化しても、過去の悪化時のようにデフレは引き起こさないかもしれない。
なぜなら、悪化の一因はトランプ米大統領の関税になりそうで、関税は成長を阻害しつつ物価を押し上げるリスクがあるからだ。
株価下落と「スタグフレーション」の組み合わせはFRBにとって極めて厄介で、政策の手を縛る可能性がある。
HSBCのストラテジストチームは、トランプ政権にせよFRBにせよ、政策による「プット(下支え)」が発動する相場水準までにはおそらく「まだ距離がある」とみている。
過去のデータを見ると、S&P500のピークからの下落率は平均14%であり、そこまで下がってもFRBプットがなく前年末を上回る水準で年を終えることが多い。
S&P500は現在、ピークから10%下がっている。
ベッセント財務長官は「トランププット」は存在しないと発言しており、トランプ氏自身、先週末に「市場など見てもいない」と語った。
トランプ政権は「デトックス期」もしくは、より民間主導の経済への「移行期」だとして、資産価格の下落と景気減速を放置する構えのようだ。
モルガン・スタンレーのストラテジストチームは、「経済のストレスが極端に高まった場合にはFRBには使える道具がある」というパウエルFRB議長の最近の発言とトランプ、ベッセント両氏の発言を比較し、「トランププットよりもFRBプットが実行される確率の方がずっと高い」としている。
確かにその通りかもしれない。
ただし、プットが発動する相場水準は、多くの投資家が望む水準より低くなる可能性がある。
参照元:REUTERS(ロイター)