水温上昇とサンゴの「異変」 佐渡から山形へ「80キロ北上」・世界で「白化現象が常態化」警告も

海の中で最も多くの生物が集まるとされ、生物多様性に富むサンゴ礁が地球温暖化の影響で危機に直面している。
白く変色する「白化現象」が深刻化する一方、サンゴの生息域が北上。
国内では昨年、東北の山形県沖で初めて確認された。
海でどんな異変が起きているのか。
「ここまで成長するには数年かかる」。
国立環境研究所の山野博哉・上級主席研究員(54)らは昨年10月、山形県鶴岡市沖の水深約5メートルの岩場で4センチほどのサンゴを確認して驚いた。
温帯性のキクメイシモドキで、サンゴ礁を形作る「造礁サンゴ」の仲間だ。
国内での造礁サンゴの北限は新潟県・佐渡島沖とされてきたが、約80キロ北上した。
佐渡島沖は2月の海面水温が平均約10度。
鶴岡市沖は同約8度で、この種が低温に適応したか、元々低温でも生きられた可能性がある。
他方、東北沖は2023年までの100年間で冬の海面水温が約2.6度上昇した。
山野さんは「温暖化で北上した可能性もある」と話す。
海の異変は太平洋側でも起きている。
千葉県鋸南町(きょなんまち)でダイビングショップを営む魚地司郎さん(68)によると、同町沖の東京湾では約30年前から温帯性の造礁サンゴが見られたが、約10年前からはより暖かい海を好む南方系が増え、魚の産卵に適した海草のアマモが見えなくなった。
魚地さんは「サンゴにすみ着く熱帯魚が見られるようになったが、アワビやサザエなどが減って漁業には悪影響が生じている。複雑な思いだ」と語る。
一方、主に熱帯や亜熱帯の暖かい海では白化現象が相次ぐ。
オーストラリアにある世界最大のサンゴ礁グレートバリアリーフ、カリブ海などでも確認され、国連環境計画(UNEP)は20年の報告書で「早ければ34年に世界全体で常態化する可能性がある」と警告している。
白化現象が特に注目されたのは、1982年から83年にかけて発生したエルニーニョ現象がきっかけだ。
水温上昇で白化現象が世界中で増え、温暖化との関係が議論されるようになった。
一見、植物のように見えるサンゴは、実はイソギンチャクやクラゲと同じ動物の仲間。
石灰質の石の骨格をつくり、体内に褐色で光合成を行う植物プランクトン「褐虫藻(かっちゅうそう)」をすまわせて栄養を得ているが、褐虫藻が抜け出し、骨格だけが残る状態が白化現象だ。
長引くと、サンゴは栄養を得られず、回復しないまま死んでしまう。
原因としては温暖化や強い紫外線が挙げられる。
他にも海洋汚染や表土流出もサンゴにとって脅威だ。
特に土砂がたまると褐虫藻が光合成を行えなくなり、サンゴを食べるオニヒトデの大量発生にもつながるという。
サンゴ礁は光合成で二酸化炭素(CO2)を吸収・蓄積し、温暖化を抑える可能性がある。
海の生態系が取り込む炭素はブルーカーボンと呼ばれ、沿岸の植生域は海洋面積の0.5%にも満たないが、海洋全体の約80%の炭素をためるとされる。
ブルーカーボンの大切さを伝えようと、那覇市の「マリン観光開発」は、海中のCO2濃度を測る機器を載せた水中観光船を運航している。
乗船すれば、出航時に400ppm台だった濃度がサンゴ礁近くでは100ppm近く下がる様子を目にできる。
約380種のサンゴが生息する沖縄の海でも白化現象は進行しており、環境省は昨年10月、石垣島と西表島の間にある国内最大級のサンゴ礁「石西礁湖(せきせいしょうこ)」で、調査地点の84%に起きていると発表した。
マリン観光開発社長の早川一正さん(66)は「温暖化問題に関心を持つきっかけを提供し、白化現象を少しでも食い止めたい」と話している。
参照元:Yahoo!ニュース