新たな問題につながる可能性も 大幅な賃上げの影で困難続く“就職氷河期世代”

春闘の集中回答日を迎え、今年も“満額回答”が相次いだ。
去年・おととしに続き、3年連続だ。
経団連 十倉雅和会長「僕らもふたを開けてみて、思っていたより、スタートダッシュがすごいなと」
スーパーや外食産業では、『ライフ』が、月1万6000円以上の賃上げの要求に満額回答。
『餃子の王将』を展開する『王将フードサービス』は、月3万円を超える満額以上の回答となった。
『トヨタ自動車』は5年連続の満額回答だ。
トヨタ自動車 東崇徳総務・人事本部長「働く人の不安を解消して、世の中のブレーキ役になってはいけない」
一方の中小企業。
連合の芳野会長は、こんな課題を口にしていました。
連合 芳野友子会長(2月)「昨年は、33年ぶりの高い賃上げ率を実現しましたが、全体と中小の結果との差は、連合設立以来、最も大きかった」
連合は、中小企業については6%以上、月にして1万8000円以上の目標を掲げている。
賃上げが、中小企業にも波及するかどうかは、今年も課題となっている。
積み残された課題は、もう一つ。世代間の格差だ。
一言にベースアップといっても、年代ごとに差がついているのが実情だ。
去年の賃上げ分を見てみると、30歳程度までの“若年層”に重点的に配分した企業が34.6%だったのに対し、45歳程度までの“中堅層”への重点配分は9.4%、45歳以上の“ベテラン層”は1.1%にとどまっている。
現在、主に43歳から55歳になっている就職氷河期世代は、バブル崩壊後の1993〜2004年ごろにかけて、就職活動を経験した。
1991年に『2.86』あった大卒の求人倍率は、2000年に1倍を割り込む。
これは、就職を希望する人全員が、職に就けるわけではないということを意味する。
進路を選ぶ余裕はなく、アルバイトなど、非正規雇用で生活をつないだり、ブラックな職場に身を置いた人もいた。
東京都内のハローワークに、介護系の就職相談で訪れた男性。
氷河期世代の1人だ。
都内の私立大学に通っていた2001年に就活をし、販売系の正社員になったが、入社後1年で離職。その後は、職を転々としている。
就職氷河期世代 求職中(45)「当時はパワーハラスメントという言葉が、私の時代はなかったですけど、いまでいえば、パワーハラスメントだったかな。1年間の後半は、そういう時間を過ごしました。『いい仕事』というのが適切かどうかわかりませんけど、そういうところに就くのは、なかなか困難だった」
就職氷河期世代 求職中(51)「(就活で)はがきを送ったのは、100社ぐらい。希望としては、観光業に行きたかったのですが、実際は印刷業ですね。希望はしていなかったです。とりあえず、正社員で勤めることを第一に考えたところで」
資格を持っていても暮らしが不安定な人もいる。
就職氷河期世代 会計年度任用職員(学校図書館・44)「町工場で働いて、そのあと図書館員をずっと務めてまいりました。3月末で契約が切れるので、職業訓練をしようかなと。図書館員になってから、(手取り)13万5000円。生活保護ギリギリしかもらえない。1年ないしは5年契約、専門職であるにもかかわらず、そういう雇用形態なので、長期的に働ける職場ではないのが、一番、不安定」
現在、一人暮らしだ。
就職氷河期世代 会計年度任用職員(学校図書館・44)「結婚しても相手も氷河期世代になってしまうでしょうから…」
昨今、少子化のなかで、人材確保のために、大卒初任給を30万円以上に上げる企業も出てきているが、そうしたなかでも、氷河期世代は、置いていかれがちだ。
就職氷河期世代 求職中(45)「すごいですよね、(初任給)30万円ももらえたら。大学出てすぐね。そこの差は、もうちょっとうまいこと調節すべきなんじゃないかなと。若い人をほしいのはわかるんですけど。ずっと苦労させられるのかなというのは苦しい、我々世代としては」
就職氷河期世代 会計年度任用職員(学校図書館・44)「苦しいと言えば苦しいですけど、比べても仕方がないですし、比べること自体が非常にみじめな行為になるということは目に見えて明らかなので、あえて比べてはいません。『自己責任』とやたら言われましたから」
賃金動向などに詳しいみずほリサーチ&テクノロジーズの酒井才介チーフ日本経済エコノミストは「やはり40〜50代の賃金は上がりにくい」と話します。その理由について「人手不足のなか、企業は若くて優秀な人材を求め、賃上げの原資は、主に若い世代に振り分けられる。一方、40〜50代は、人数が多く、賃上げは企業に負担が大きい。就職に苦しんだ氷河期世代は、企業は“賃金に不満があっても転職しないだろう”と考えている」という。
酒井さんは、新たな問題につながる可能性を指摘する。
「氷河期世代は納めた保険料が少なく、将来もらえる年金も少ない。物価上昇のなか、“家計の苦しい世帯”が増える恐れがある。氷河期世代2000万人は“消費者”でもある。この世代の消費が鈍ると、経済全体にも悪影響が出る」という。
将来的に戦力として、貢献する道はあるのだろうか。
国は、キャリア形成のため、ハローワークに専門窓口を設けたり、仕事の学び直し=リスキリングを支援したりして、氷河期世代の待遇を良くしようと取り組んできた。
酒井さんは「企業の人手不足が続くなかで、経験やスキルを持つ人を年齢にかかわらず、いい待遇で採用する企業は増えるだろう。企業間で人材の引き抜きあいが活発になり、貴重な戦力が他社に流出しないようにと氷河期世代の賃上げが進む可能性もある」という。
参照元:Yahoo!ニュース