「大量閉店→大赤字」「凋落したチェーンの代表選手だったのに…」 いきなりステーキが「静かに黒字化」一体何が変わったのか?

人気と圧倒的な話題性を背景に店舗数を急激に増やしたが、それがアダになってサービスの質が低下し、大きな赤字を生んで店舗数も大幅に減少。
今や、凋落したチェーンの代表選手かのように扱われている。
しかし、そんな同店を運営するペッパーフードサービスが、2024年12月期の決算において黒字化を果たした。
最終損益だと2021年12月期以来、営業損益だと2018年12月期以来となる。
いきなり! ステーキ復活の背景には何があったのか。
ステーキ、および運営元であるペッパーフードサービスの状況を簡単に説明したい。
ペッパーフードサービスの2024年12月期の営業利益は7600万円。
前年が4億9000万円の赤字だったことを考えると、大幅な利益増加を達成している。
いきなり! ステーキ単体で見ると、今期の利益は12億8900万円で、前期比47.5%増という好調さだ。
実はいきなり! ステーキ単体で見れば、すでに2021年12月期から黒字化を果たしていた。
同社は「一人すき焼き」専門店の「すきはな」なども展開しており、これまで投資フェーズにある事業や間接収益部門の事業が足を引っ張っている面もあったのだが、それが2024年12月期は、全体で黒字化を達成したのだ。
注目したいのは、いきなり! ステーキ単体の売上高は前年比で2.4%減少していること。
この理由には店舗の閉店も影響していると思われる。
2013年に1号店を出店した同店は、2019年には500店舗近くまで店舗数が上昇。
その後、大幅な赤字を受けて店舗数を減少させ、2025年1月現在では175店舗になっている。
2024年12月期も、1年間で9店舗の閉店を行った。
こうした全体的なスケールの減少にもかかわらず利益が上がっていることを見ると、いきなり! ステーキの利益率が大幅に向上したことがわかるだろう。
不採算店を閉鎖したことで、効率よく儲けられる、筋肉質な企業体質になってきているのだ。
では、そんないきなり! ステーキが好調な理由はなんだろうか。
これを探るべく、私は久々にいきなり! ステーキに足を運んでみた。
店内に入ると、最初に待ち受けていたのは券売機。
あれ、昔は直接店員さんに注文をしていた気が……。
調べてみると、どうやら2024年5月から券売機やセルフレジの導入を進め、11月ごろから対象店舗を拡大しているらしい。
筆者がよく足を運んでいた頃とは、けっこう様変わりしていた。
ということで、券売機でメニューを選ぶ。
今回は最もリーズナブルな「赤身! 肩ロースステーキ」を選択。
150gで税込1180円。
やはり、一般的なステーキよりも安いのは当時と変わらずだ。
ここにライスやサラダ、スープをつけることができる。
それらすべてが付いた「いきなりセット」は税込480円。
つまり、税込1660円でちゃんとしたステーキセットを楽しめる、というわけだ。
しかもこれ、ライスはおかわり自由。
米の値段が高騰している今はありがたい限り。
券を店員さんに渡して席で待つ。
平日の午後だったが、周りを見渡すとけっこう人はいる。
筆者が訪れた店舗の特性なのかもしれないが、ほとんどが男性客1人で、カウンターで黙々とステーキを食している。
かなり量を食べている人がいるが、同店では食べた量に応じてランクが上がる「肉マイレージ」というシステムがある。
そのレベル上げに勤しむ人々だろうか。
待っていると、まずはサラダが到着。
いきなり! ドレッシングは、たまねぎのスパイシーな感じが野菜にマッチし、胃を刺激する。
準備は整った。後はステーキを待つだけだ。
すると店員さんが「これからステーキをお持ちしますね」と声をかけてくれた。
いよいよ、ステーキとのご対面である。
ジュー、という音とともにステーキがやってくる。
ライスも同じタイミングでやってきて、セット完成だ。
卓上にあるオリジナルソースをかけて一口。
久々に食べたが、かなりおいしい。
しっかりと肉の味が感じられるし、焼き加減もちょうどいい。
途中で味変をすることもできる。
「いきなり! スパイス」はガーリックの風味が効いた調味料で、箸を止めさせない。
一心不乱に食べ、気づいたら鉄板の上にはなにもなくなっていた。
私はライスのおかわりをしなかったが、食べたい人はここでおかわりをすることもできる。
お腹的にもかなり満足だろう。
1600円というと、日常で食べるには少し高いかもしれないが、少しだけ特別な食事をしたいときには、ちょうどいいコスパだと思う。
実際に店舗を訪れて感じたのは、他の飲食チェーンと比べて相対的にお得感が強いのではないか?ということだった(そもそもいきなり! ステーキ自体が業界の中で低価格をウリにして始まったから当然なのだが)。
ステーキ業界の中で同じく低価格帯ポジションにある「ステーキガスト」は赤身肉150gで税込1649円だ。
ライスやサラダは別料金だから、いきなり! ステーキと比べると数百円ほど価格が違う。
特に、ライスのおかわり自由も強い訴求力になっているだろう。
ライス単品は税込で180円で、これで食べ放題だ。
特に2024年は「令和の米騒動」ともいえるほどの米価格の高騰があったため、ライス食べ放題は顧客にとっていきなり! ステーキを選ぶ一つの要因になっているかもしれない(いつまで継続できるかはわからないが……)。
ちなみに他社では、ステーキガストもライス食べ放題だが、そこには必ずサラダバーが付き、最安値でもセットで300円。
ライス単品はない。
ブロンコビリーはライスおかわり自由を行っていない。
加えて、昨今の全体的なインフレによって外食単価自体が上昇していることも見逃せない。
夕食も含む数値だから参考程度にしかならないが、ホットペッパー外食総研によれば、2024年12月の外食単価は3188円。
「ラーメン1000円の壁」というような言葉もあるし、都内ではランチで1000円を超えることは、もはや当たり前になってきている。
そんな中、注文によっては1000円台でステーキが食べられる、ということで相対的なお得感が向上している気がするのだ。
特にいきなり! ステーキはシングルで入店する男性層をターゲットにしているが、彼らにとってたまに外食するときに「ちょっと高いラーメンよりいきなり! ステーキに行こうかな」と思うことが起こっていてもおかしくはない。
一方、いきなり! ステーキも値上げを実施している。
特にここ数年間は段階的にメニューの値段を上げており、それが客単価の向上につながり、ひいては高い利益につながったという見方もある。
実際、同社の月次報告を見ると、2024年は売上・客数が前年比割れを起こしている月もある一方、客単価は全店・既存店とも上がり続けている。
売り上げや客数が減少しているというと、あまりよくないイメージを持つかもしれない。
ただ、これで結果的に利益が向上したのだから、「少ない客がたくさんお金を落とす」状態になったとも考えられる。
要するに「他の食事より、少し高くなっても、いきなり! ステーキに行きたい」という「ファン」層が拡大していることも利益向上の理由の一つだろう。
この背景には「肉マイレージ」も大きく影響していると思われる。
このシステムはいきなり! ステーキの初期の頃から人気で、一時期はこのランク上げに邁進する求道者たちがコミュニティを作ったりして、熱を帯びていた。
ただ、いきなり! ステーキは経営が傾く過程の中でこの制度を変更し、それが「改悪」として不評を呼んで同社離れをさらに加速させたこともある。
それまでは食べたグラム数に応じてマイレージが付与されていたのが、来店回数に応じたポイント制に変わったのだ。
つまり、1回でどれほど食べようともポイントは1つしか貯まらない。
これでは、店でたくさん食べてレベル上げをしよう……という気持ちにならないのは当然だ。
こうした声を受け、次第にシステムが改善。
2024年5月には、会計100円毎にポイントが付与されるシステムになった。
改悪前並にお得に戻った……というわけではなかったりするものの、「どれぐらい食べたか」によってランクが上がる仕組みになっており、求道者たちの心を再度くすぐっているようだ。
そんなファンたちが客単価を上げ、堅実な利益向上に貢献している。
そもそも、いきなり! ステーキが爆増したときに「そもそも、ステーキ好きの人は日本ではニッチだからそんなに増やしても意味がないのでは?」と言われたりしていた。
事実、現在はある種そうしたニッチな「ステーキ好き」に特化した戦略へと変更を行い、着実に利益を上げ始めているのが、今のいきなり! ステーキなのだ。
こうした相対的なお得感とファン層の形成に、セルフレジや券売機の導入のようなDX化の推進が加わった複合的な要因で大幅な利益向上がはかられたのだろう。
とはいえ、ペッパーフードサービス全体で見るとまだ赤字事業も多い。
それに、いきなり! ステーキを明らかにベンチマークに置いた沖縄の「やっぱりステーキ」は、いきなり! ステーキ以上のローコスト運営で快進撃を続けているから、うかうかしてはいられない。
ただ、ここ数年のいきなり! ステーキの変化を見ると、なるべく店舗運営のコストを下げつつ、安価で商品を提供し、熱心なファン層を作る……という、 外食チェーンの経営の基本のひとつに忠実になっている。
店舗の急拡大や肉マイレージの改悪などの数々の反省を生かしつつ、いきなり! ステーキが今後どうなっていくのか、さらに注目を続けていきたい。
参照元:Yahoo!ニュース