「集落の分断招く」「渋滞ないのに…」住民憤り 賛成8%でも変わらないのか 北アルプスの景勝地通る道路計画紆余曲折30年、「時代に合わない」 行政に再考求める声

道路建設に反対している住民をイメージした画像

長野県と新潟県の糸魚川市を結ぶ松糸道路は1994年、国が約100キロを「候補路線」に指定してから2024年12月で30年が過ぎた。

沿線は安曇野や大北地域の田園や北アルプスが資源の景勝地だけに、計画は紆余(うよ)曲折を経てきた。

当初、東筑摩郡波田町(現松本市)を起点に安曇野市の山麓などを北上する計画だった。

安曇野の景観への影響などから反対運動が起き、田中康夫知事(当時)が03年に起点を豊科インター(IC、現安曇野インター)付近に変更。

村井仁知事(当時)は08年、渋滞などを理由に同ICの北約3キロ地点に豊科北IC(安曇野北IC、仮称)を置く案を示した。

安曇野市内での複数のルート案を巡る賛否を経て、同ICを起点に高瀬川右岸の県道に接続する新設の「安曇野道路」(4キロ)に22年度事業着手し、33年度完成を目指す。

安曇野道路の事業費は約250億円を見込む。

新設区間の大町市街地では現在、C案への絞り込みを経て実際のルート(線)と道路構造を検討中だ。

事業費約270億円を見込む。

木崎湖以北のうち北安曇郡白馬村、小谷村の市街地はバイパスを含め検討、他は既存の国道148号などを改良して使う。

政側は松糸道路を、物流や交通の円滑化などの他、「救急患者を松本方面の病院につなぐ命の道」(牛越大町市長)とも位置付け、整備の重要性や予算確保を訴える。

地域の道路事情は構想当初より改善し、新設の優先度は高くない―との見方もある。

大町市では1998年の長野冬季五輪を前に道路網整備が進んだ。

市内を南北に走る県道有明大町線や国道148号の木崎湖バイパス、青木湖バイパス開通などが相次いだ。

市民有志の会「渋滞もないのに道路造るのは時代に合わない」

市民有志でつくる「大町の未来を考える会」は昨年9月、盛り土をイメージした高さ約6メートル、幅約30メートルの竹組みの「松糸道路実寸大アート」をIC建設が予定される同市常盤の国道147号脇に展示。

同会の伊藤洋平代表(47)は「景観や暮らしへの影響が避けられないとイメージしてもらえる」と説明。

「道路が既にたくさんあり、渋滞もないのに新たに道路を造るのは時代にそぐわない。それらを踏まえ、建設の是非を住民に改めて判断してほしい」と話す。

自治会などからも市街地寄りのルート帯や計画自体の再考を求める声が上がっている。

県が現時点で示すルート帯は100メートルの幅があり、重なる住宅も多い。

計画当初と比べ道路事情も改善傾向で「新設の必要性は薄れた」との見方もある。

1月23日夜、大町市の宮田町公民館。

地元の宮田町自治会の要請で県や市の職員が出席し、松糸道路の大町市街地区間(常盤上一―木崎湖トンネル、8.6キロ)について住民と意見交換した。

地元からは「住宅地への影響が極めて大きい」「地権者の意見を聞かずに進めていいのか」「既存道路を活用すればいい」との声が上がり、市街地寄りの現在のルート帯見直しを求める意見が相次いだ。

北アルプス望む集落、南北に貫く計画 宮田町は、市内を南北に貫き、付近に商店などが集まる国道147、148号から西側にやや外れた集落で、水田や住宅が点在。

西には市が誇る北アルプスの眺望が広がる。

計画では、盛り土や高架橋を基本に道路が新設される。

同自治会によると、現在示されている幅100メートルのルート帯案では、加入全109戸のうち34戸が立ち退きを迫られる可能性がある。

松沢英昭自治会長(68)は高齢者世帯も多いとして「ここをついのすみかに、と考える家や、立ち退くなら事業所を畳むと話す事業主もいる」と強調。

多数の立ち退きはコミュニティー分断や衰退を招くとし、2024年9月、県と市にルート帯見直しの「嘆願書」を出した。

宮田町自治会が反発するルート帯は、県大町建設事務所(大町市)が24年1月、大町市街地区間のA~Cの3ルート帯案から「最適」として絞り込んだC案。高瀬川を渡り、市街地をほぼ直線的に通過する経路だ。

ルート帯に重なるとみられる住宅は145戸で、北ア寄りのA案(116戸)、高瀬川沿いのB案(102戸)を上回る。

なぜC案か。

同事務所は23年11月、交通の円滑化、景観保全など13項目で3案を比べ、Cはまちづくりとの連携など最多の5項目で優位性が高いとの評価結果を発表した。

C案に絞り込んだ24年1月の会合では、「道路網が中心市街地と一体となる」と説明、災害時のネットワーク機能強化や、農地通過部分が短く景観への影響が少ないことなどもプラス要素に挙げた。

この会合に同席した牛越徹・大町市長も市街地などとのアクセスの良さに触れ、交流人口創出など「まちづくりに最も合致している」とC案に賛同した。

あれから1年。

C案を巡る地元理解が深まったとは言い難い。

宮田町に近く、ルート帯が広く重なる大原町自治会は不安の声を受け、24年9~10月、89戸を対象に独自アンケートを実施。

結果はC案への「反対」が61%で最多となり、「どちらでもない」24%、「賛成」8%だった。

反対理由は「生活への影響が大きい」などで、アンケートをまとめた高山正記・前自治会長(58)は憤る。

一方、大町市民有志の「松糸道路と大町を考える会」は24年8月、市街地区間建設に反対する署名約5千筆を阿部守一知事宛てに提出。

11月には、幅を絞ったルート(線)や道路構造の検討に向けた現地測量の中止を県に求める署名222筆を提出した。

県大町建設事務所は、反対の声を「重く受け止めたい」(整備・建築課)とする。ルート(線)などが固まった段階で改めて住民の声を聞き、可能な限り設計に反映して理解を得たいという。

大町市は24年12月市議会一般質問で、地権者や周辺住民の相談に応じる専門職員を25年度、建設課に配置すると表明。

牛越市長は地元の懸念に触れ、「これまで以上に丁寧な説明が大切だ」と述べたものの、C案での建設を支持する姿勢は変えない構えだ。

参照元∶Yahoo!ニュース