「授乳フォト」撮る女性の思い 「『キラキラ写真』とは違う『日常』も」 いとおしいしぐさや表情を記録

授乳中の赤ちゃんを撮影した写真

「マタニティーフォト」「ニューボーンフォト」など、出産前後の記念撮影が定着してきているが、これからはそこに「授乳フォト」が加わるかもしれない。

寝不足や、乳腺のつまりといった母乳トラブルなど、授乳中の母親は試練の連続だ。

しかし、のちに振り返ると、子どもとの絆を感じられるいとおしい時間だったことに気付かされる。

そんな刹那的な営みを残したいと考える女性が増えているようだ。

岡山県総社市のパート女性(36)は今年1月末、長女(当時1歳半)と授乳フォトを撮影した。

「授乳中の子どもの表情、しぐさはどれもかわいくて、ぜひ写真に残したいと思った」と女性。

「パパにも頼むのもちょっとなぁ」と思い、フォトグラファーに依頼。

仕上がった作品を見て「いつかこの子もママになる時がくるはず。その時に写真を見せながら『あなたもこうやって大きくなったのよ』と伝えたい」と話す。

女性を撮影したのは3児の母でもある石井理沙さん(36)=倉敷市。

介護福祉士として働きながら、昨年4月から授乳フォトを撮影するフォトグラファーとして活動している。

撮影を始めたのは石井さんにも授乳に強い思い入れがあるからだ。

石井さんは2023年4月に出産した3人目の長男の育児で初めて母乳トラブルに見舞われた。

母乳過多となり、乳腺炎に悩まされた。

子どもが眠っている時間も胸が張るため、定期的に搾乳する必要があり、気付けば半年で体重は17キロも落ちていた。

「その頃は子どもが『かわいい』と思うことより、『しんどい』という気持ちのほうが強かった」と語る。

長男が生後10カ月になった頃、石井さんはインフルエンザに感染。

子どもにうつってはいけないと、数日間授乳をやめた。

すると、ピタッと母乳が出なくなった。

急に終わってしまった母乳育児。

「あんなに大変で、煩わしいと思っていた授乳なのに、もうできないと思うと一気に寂しくなった」と石井さん。

後日、上の娘たちに頼んで授乳をしている風の写真を撮ってもらった。

その時、「自分と同じように記念に残したいと思っているお母さんがいるのでは」と感じたという。

授乳フォトは毎月4組程度募集しており、利用者から好評を得ている。

おっぱいを飲みながら母親の髪の毛を引っ張ったり、おなかがいっぱいになり寝落ちしたり…。

そんなわが子を優しいまなざしで見つめる母親も含めてカメラに収めている。

長男(当時1歳10カ月)と撮影した会社員女性(29)=倉敷市=は「ついつい、テレビやスマホを見る『ながら授乳』をしてしまいがちだけど、写真を通して、わが子がこんなにかわいい表情で飲んでくれていたことに気付けた。かっちりしたスタジオ撮影とは違う日常を残せてよかった」と明かす。

ほかにも、「子どもとのツーショット写真がなかったが、自然な笑顔を撮ってもらえた」「撮影を通じて、授乳は今しかできない特別な時間だと感じられた」という声をもらったという。

昼夜問わず必要になる授乳。

パジャマ姿のままだったり、髪の毛を整える時間もなかったりと、母親は目の前の赤ちゃんのことだけを思い、必死で命と向き合っている。

石井さんは「『マタニティーフォト』や『ニューボーンフォト』といったキラキラした記念写真もあるけど、子どものために頑張るお母さんの日常の姿が一番美しい。子どもたちが大きくなった時に『こんなに愛されていたんだな』と感じてもらえれば」と話す。

2児の母で、5年前から授乳フォトを撮影するフォトグラファー江崎美穂さん(38)=東京都練馬区=もニーズの高さを感じているという。

「インスタグラムや口コミで広がり、希望者は年々増えている。リピーター率も高い」と明かす。

特に卒乳間際にふと寂しさを感じて撮影を依頼する「駆け込み授乳フォト」が多いという。

生後3カ月から卒乳まで計4回撮影した利用者もいたそうだ。

江崎さんが授乳フォトを始めたのは、過去に流産を繰り返した経験が大きく影響しているという。

「その経験で『命』について考えるようになった」とし、母親が命を守るため、身を削って栄養を与える授乳に特別な尊さを感じているそうだ。

「授乳している時はママにしか感じられない幸福感やぬくもり、こみ上げる愛がある」と江崎さん。

「そんな二度と戻ってこない貴重な時を残せる。ますます多くの人に授乳フォトの存在を知ってもらえれば」と期待する。

参照元∶Yahoo!ニュース