サンリオの人気キャラ「クロミ」を巡って裁判が勃発 異色キャラの“生みの親”は誰なのか?

権利の侵害をイメージした写真

日本において、キャラクタービジネスでもっとも成功を収めている企業といえば、サンリオをおいて他にないだろう。

ハローキティを筆頭にシナモロール、マイメロディ……など、同社が生み出したキャラクターを街で見ない日はない。

百貨店から100円ショップ、スーパーマーケットまで、サンリオのキャラクターはいたるところにあふれている。

東京・池袋にある「サンリオショップ」は、休日になると若い女性を中心にごったがえす。

彼女たちがバッグに付けているキャラクターのなかで、群を抜いて高い人気を誇るのが“クロミ”だ。

クロミはマイメロディのライバルで、イケメンが大好きで、黒いずきんとピンクのどくろがチャームポイントという設定である。

2024年のサンリオキャラクターの人気ランキングでは、ハローキティやマイメロディをも抑えて3位にランクイン。

今やサンリオ屈指の“稼ぎ頭”だ。

今年はクロミが誕生して20周年という節目であり、サンリオも大々的なキャンペーンを行っている。

「さっぽろ雪まつり」に雪像が登場したほか、漫画雑誌「ちゃお」の表紙を飾り、芸能人を含めあらゆる対象とコラボを行う。

そんなクロミを巡って、ある騒動が勃発している。

アニメ制作会社のスタジオコメットがサンリオを相手取り、著作者人格権に関する裁判を起こしたのである。

スタジオコメットは1986年の創業以来、数多くの人気アニメを手掛けているが、実は同社こそがクロミの“著作者”だというのである。

社長の茂垣弘道氏がこう口を開く。

「実は、クロミは当社に所属するアニメーターがデザインしたキャラクターなのです。アニメーターが生み出したものは所属先である当社の著作物にあたります。ところが、サンリオ側はいま、別の人物が作ったと説明しています。現在発売されているクロミのグッズを見ても、タグに“著作・発売元 株式会社サンリオ”と記されているだけで、当社の名前はどこにも見当たらないのです」

茂垣氏によると、クロミが誕生したのは2005年のことである。

同社が手掛けたアニメ「おねがいマイメロディ」の登場人物として、スタジオコメット所属のアニメーターがデザインしたものだという。

では、クロミが誕生するまでにはどのような経緯があったのか。

それは、ウィーヴという会社が、マイメロディを主人公とするアニメの企画を立ち上げたことに始まる。

「当社はサンリオの承諾を得たウィーヴの依頼を受け、アニメを制作したのです。アニメ化に際し、サンリオから提示されたのはマイメロディのキャラの図案だけでした。そこで、アニメのスタッフがライバルや敵役など、懸命にサブキャラのデザインなどを考えました。そのなかで誕生したのが、クロミというキャラクターでした」

クロミや、クロミの子分にあたるバクなど、「おねがいマイメロディ」のアニメでキャラクターデザインを務めたのは、スタジオコメットに所属するアニメーターの宮川知子氏である。

放送されたアニメに、同氏の名前がしっかりクレジットされていることからもわかる。

さらに、クロミという名前もアニメの関係者が命名したと、当時の制作関係者A氏が話す。

「当初は“ワルミ”とか、“ウラミ”という名前の案もあり、私も2〜3個ほど案を出しましたよ。そのなかから、『クロミでいいじゃん!』と言ったのは監督の森脇真琴さんです。私はその発言を聞いているので、間違いありません」

A氏が、当時の現場を振り返りながらこう続ける。

「30分のテレビアニメを制作にするにあたり、私は、『ドラえもん』のような形で、日本の現実の世界にマイメロディがやってきて、トラブルを解決する物語を軸に進めてはどうかと提案しました。森脇さんとは何度も議論を重ねましたよ。そのなかで、マイメロディにライバルがいたほうがいいのではと考案したのが、クロミでした」

A氏によると、会議が行われたのは2004年12月だったという。

アニメの放送を翌4月に控え、「スケジュールがきゅうきゅうだった」ため、現場主導でどんどんキャラの設定やストーリーを作っていったそうだ。

「ウィーヴが当社とサンリオの情報伝達を行っていましたが、制作現場にサンリオ側の方は出てきていません」と、茂垣氏も言う。

「サンリオが持っていたのはマイメロディのキャラクターだけで、当時は世界観も設定もありませんでした。そうした状態からマイメロディの世界観を作り上げたのは我々だと自負しています。アニメは低年齢層に大人気となり、ストーリーが進むうちにクロミは結構いいキャラだということで、だんだん存在感が増してきたと記憶しています」

クロミに注目が集まるようになると、マイメロディとクロミが一緒に描かれたグッズが発売されるようになった。

そして、いつの間にかクロミ単体のグッズも出回るようになってきたという。

さらに、2023年に発売された『クロミのヒミツ』という書籍には、“クロミを作ったのはHELLO KITTYの担当デザイナーである山口裕子さんです”と記されている。

山口氏といえば、低迷していたハローキティの人気を押し上げた、サンリオの歴史上重要な立役者だ。

一方、そこには「スタジオコメット」の名も、「宮川知子」の名も一切登場しない。

もし、クロミの著作者がスタジオコメットであった場合、クロミのグッズに“著作・発売元 株式会社サンリオ”と表記したり、書籍に“クロミを作ったのは山口裕子氏”と記したりすることに問題はないのだろうか。

茂垣氏もこのように訴える。

「ビジネスの観点では、生みの親の地位がないがしろにされていると思います。当社がクロミの著作者であるのに、クロミを愛する人たちの間に別の企業名が発信されていることは残念です。なぜ、生みの親の名前を偽る必要があるのでしょうか。それで何かデメリットがあるのでしょうか」

今や日本のコンテンツ産業は3兆円を上回る規模と言われ、政府も輸出に力を入れ始めた。

しかし、肝心のクリエイターの地位は低いままである。

キャラクターの著作者人格権を巡る騒動では、滋賀県彦根市のご当地キャラクター「ひこにゃん」の事件が有名だ。

近年、彦根市と作者のもへろん氏の間にあったわだかまりが解け、良好な関係を構築しつつあるが、そこに至るまで20年近い歳月を要してしまった。

ちなみに、ウィーヴは2019年にフリューへ吸収合併され、消滅してしまった。

社内にも当時のいきさつを知る人は少なくなっているとされることが、今回の問題の解決を難しくしている要因なのかもしれない。

今回の騒動について、デイリー新潮編集部ではサンリオ側に書面で取材を申し込んだが、「現在、係争中の案件につき、詳細の回答は控えさせていただきます」「同訴訟において提出済みの主張書面及び証拠の通りです」と回答があった。

なお、訴状が出されたのは2024年6月のことだが、その後、サンリオは他社と組んでクロミのオリジナルアニメを制作し、YouTubeなどで配信している。

サンリオのホームページを開くと、社長の辻朋邦氏は創業当初からの企業理念として「『みんななかよく』の下、人と人とをつなぐことを最大の思いに掲げてまいりました」と述べている。

今こそ原点に立ち返るべきだと思うが、難しいのだろうか。

なお、アニメのなかでマイメロディはメロディ・タクトを使って魔法を発動させることができる。

解決の糸口を見出すためには、マイメロディの助けが必要なのかもしれない。

参照元∶Yahoo!ニュース