クマがわなにかかったシカを食べる光景を初撮影 新たな食料源?研究者は人とクマが遭遇する危険性を指摘する

ツキノワグマが「くくりわな」にかかった成獣のニホンジカを襲い、食べる―。
そんな珍しい様子が初めて撮影された。
発表したのは、東京農工大大学院と米イリノイ大の研究チーム。
研究チームによると、クマはシカの死体や出産直後の子ジカを食べることが知られていたが、生きた成獣を襲うことは確認されていなかった。
研究チームの代表で東京農工大大学院の小池伸介教授(生態学)は「クマはシカがわなで捕獲されることを理解していて、わなにかかり身動きの取れないシカを新たな食料源としている可能性がある」と指摘。
さらに、「わなを確認する捕獲従事者や、近隣住民がクマと遭遇する危険性もある」と警戒を呼びかけた。
くくりわなは、ワイヤの輪の中に動物が踏み込むと作動し、足をくくる仕組み。
設置や運搬が比較的容易なことから、利用が広がっている。
今回の事例は2024年5月、栃木県日光市で撮影された。
獲従事者がくくりわなと自動撮影カメラを設置したところ、成獣の雌のシカがわなにかかった。
シカが襲われたのは、そのわずか40分ほど後のことだった。
やって来たクマが、暴れるシカを押さえつけてかみつき、動かなくなったシカを画面の外まで引きずっていった。
その後、捕獲従事者がわなの確認で現場周辺に近づいたが、匂いなどでクマの気配を感じ、見回りを中止。
カメラには、動かなくなったシカの周辺をクマが複数回訪れた様子が記録されていた。
さらに時間がたって捕獲従事者が再び現場を訪れたとき、シカには食べられた跡があった。
くくりわなは通常、木などにつながれているため、捕まった動物を動かすことは難しい。
そこで小池氏は、クマがわなにかかったシカを容易に動かせず、周囲に長時間滞在する可能性があるとみている。
「そこへ人が来ると、獲物を横取りされると思い、人を襲う危険性が高まる」と注意を促す。
そして今後の課題として、捕獲されたシカの捕食がどの程度起きているのかや、クマがどのようにわなにかかったシカを発見しているのかについて、情報収集することを挙げた。
対策については、撮影画像を送信できる通信機能付き自動撮影カメラをわなと併用するなど「危険性を最小限に抑える機材の使用や捕獲技術の開発も必要だ」と話した。
くくりわなはターゲットとする動物を限定することができず、他の動物が誤ってかかる「錯誤捕獲」が起きる。
小池氏は、わなにクマがかかり、わなを見回る捕獲従事者らと遭遇する危険性も指摘する。
実際に遭遇事例がある。
昨年7月、兵庫県養父市の山中で、シカ用のくくりわなを見回りに来た猟友会の70代の男性が、わなにかかったクマに襲われた。
男性は、頭などをかまれるなどし、重傷を負った。 養父市の担当者は、わなに誤ってクマがかかったケースが2024年度に40件以上報告されており、「クマがかかっているという前提でわなの見回りをしてほしい」と話す。
兵庫県猟友会は、わなのチェックは周囲の様子に気を配りながら行うようハンターらに周知したという。 わな猟は近年、広がっている。
国はシカやイノシシが農作物や生態系に深刻な被害をもたらすとして、捕獲を推進。
環境省によると、猟銃免許取得者数は近年減少傾向で、2020年度は1種と2種を合わせ計約9万2千人。
一方、わな猟の免許取得者は増えており、20年度は約11万8900人と09年度の約2倍だ。
環境省は、錯誤捕獲の防止のためわなの形状を見直したり使用を規制する措置を取ったりするほか、わなの付近でクマの生息が確認された場合はわなを移動させるなど、適正な使用の徹底を図るよう自治体に呼びかけている。
研究チームの論文は2024年12月、国際クマ協会の学術誌「Ursus」オンライン版に動画付きで掲載され、東京農工大も今年1月に「初記録:わなにかかった生きたシカを襲うツキノワグマ」のタイトルで研究成果を公表した。
参照元∶Yahoo!ニュース