カナダ総選挙が接戦の構図に一変、トランプ氏や与党党首交代が影響

カナダの国旗を撮影した写真

カナダで10月20日までに実施される下院総選挙を巡る情勢が、与党の党首交代見込みとトランプ米大統領の存在によって大きく変わろうとしている。

これまではトルドー首相率いる自由党の長期政権がカナダの経済社会を破壊してきたと非難を続ける野党保守党が支持率で大きくリードし、選挙は楽勝かと思われてきた。

しかし今や保守党勝利の見通しは不確実になったように見える。

その理由はトルドー氏が先月辞任を表明し、その後トランプ氏がカナダからの全輸入製品に関税を課す可能性をちらつかせたことだ。

世論調査会社ナノス・リサーチ創業者のニック・ナノス氏は「過去4週間の変化に目を向けると、基本的に全く新しい世界になっている。大きな変化の要素はトランプ氏だ」と語った。

同社が18日に公表した最新調査によると、保守党の支持率は39%で自由党は32%。

この通りなら選挙で保守党は下院の過半数となる343議席を獲得できない。

つまり第一党とはいえ少数政権の悲哀を味わい、エネルギー・鉱物資源政策や最大の貿易相手である米国への対応といったカナダにとっての大きな懸案解決よりも、自らの生き残りに注力しがちになる。

そうなれば同国が政治的停滞に陥る危険が出てくる。

自由党の反撃も始まり、16日には保守党のポワリエーブル党首とトランプ氏には国旗を振り回し、政敵を侮辱するとともにメディア攻撃に勤しむという類似性があると強調する短編動画を公表。

「トランプ氏のように聞こえるのにどうやってカナダのための発言ができるのか」と有権者に訴えた。

ミラー移民相は「カナダが壊されたと言いながら同時にカナダは世界で最も素晴らしい国だとは口にできない」と保守党の主張を皮肉っている。

そもそも保守党の総選挙に向けた政策綱領は、トルドー氏との対決と、連邦炭素税の税率引き上げ反対を軸にしていた。

ところが選挙前に自由党党首はトルドー氏から、フリーランド前副首相兼財務相とカーニー元カナダ銀行(中央銀行)総裁という2人の有力候補のどちらかに交代する。

フリーランド氏とカーニー氏はいずれも、炭素税廃止を約束し、トランプ氏に毅然と対峙する考えを打ち出している。

世論調査会社イプソス・パブリック・アフェアーズのダレル・ブリッカー最高経営責任者(CEO)は「(トルドー氏退任で)カナダ国民は以前の出来事を頭から消し去ろうとしており、それが自由党にとって次期党首選を通じて党勢を挽回させるチャンスを生み出した」と述べた。

一方保守党側も戦略を軌道修正し、ポワリエーブル氏は15日の演説で「壊れたカナダ」という言い回しを捨て「カナダ第一」の政策を推進すると約束した。

ただポワリエーブル氏は、トルドー氏の政策がカナダ経済の弱体化や住宅危機をもたらし、豊富な天然資源の有効利用に失敗したと批判したものの、保守党の政策綱領の抜本的な見直しは必要ないと主張した。

足元の世論調査では、カーニー氏が次期自由党党首になれば、自由党と保守党の支持率は事実上互角になることが示された。

45歳のポワリエーブル氏が政治家一筋の経歴を持つのに対して、59歳のカーニー氏は世界で唯一、主要7カ国(G7)のうち2カ国(英国とカナダ)の中銀総裁を務めた人物で大きな危機への対処能力があるとアピールしている。

それでも有権者の実際の考え方まで踏み込んだ調査に基づくと、まだ保守党が自由党よりも優位にあるようだ。

元保守党事務方幹部で現在はコンサルティング会社の副社長を務めているギャリー・ケリー氏は、国民はなお生活費の高さや購買力の問題への不安が極めて大きいというのがポワリエーブル氏の感触だと説明。

「(米国の)関税がそれらに影響したのは間違いないが、過去9年におよぶ自由党政権が残した問題でもある」と述べた。

自由党は3月9日に次期党首を発表する予定。

カーニー氏は、党首に選ばれればトランプ氏と向き合うため国民の強力な付託を得る上ですぐに選挙を求める可能性を示唆した。

そうなると保守党には、海外生活が長く、カナダ国内でこれまで知名度が乏しいカーニー氏に攻撃対象をシフトする時間が乏しい。

とりあえずは、カーニー氏がエリート社会の一員で一般庶民の感覚とは程遠いと描写する戦術を駆使している。

参照元∶REUTERS(ロイター)