「内部告発なんてしなければよかった」公益通報後に解雇や異動 障がい者施設で勤務の3人“不当な処分を受けた”と訴える 施設側は「報復の可能性はない」と主張

公益通報をイメージした写真

兵庫県・斎藤元彦知事のパワハラ疑惑で関心が高まった「公益通報」。

全国でトラブルが絶えないといい、公益通報者保護法で守られるはずの通報者が解雇されたケースも。

大阪で公益通報をめぐって争う裁判を取材した。

兵庫県の斎藤元彦知事によるパワハラ疑惑などを調べる百条委員会。

2月18日は委員らが非公開で協議を行い、調査報告書の作成に向けて詰めの議論が進められている。

ことの発端は去年3月、元県民局長が斎藤知事のパワハラ疑惑などを記した文書を配布したこと。

百条委員会では、県がこの文書を公益通報として扱わず、告発者を特定したことの是非についても議論され、3月上旬にも結論が出る見通しだ。

斎藤知事は19日、従来の見解を繰り返した。

(記者)「公益通報者保護法について一貫して違反していないと?」

(兵庫県 斎藤元彦知事)「県の対応として適切だったと思っています」

そもそも公益通報とは、従業員などが組織の違法行為について勤務先の通報窓口や監督官庁、報道機関などに通報する行為だ。

2006年には公益通報者の不利益な扱いを防ぐ公益通報者保護法が施行されているが、通報をめぐるトラブルは、後を絶たない。

大阪府内の障がい者施設で看護師として働いていた3人は、3年前、公益通報をした直後に不当な処分を受けたと訴えている。

(朝倉隆介さん)「いまだに何をしたのか、自分が何をして解雇されたのかがわからない」

(吉田さん※仮名)「職場を奪われ、職場を変えられ、職を奪われた。自分の中では消化できていない」

(鈴木さん※仮名)「私たち看護師は利用者を守るために働いているので、その声が届かないもどかしさがある」

いったい、なにがあったのだろうか。

朝倉さんら3人は2019年~2020年に、施設の職員が利用者の口の中にこぶしを押し込むのを見たり、腹部のマッサージと称して利用者の腹に膝を押し当てる行為を聞いたりし、自治体に通報した。

MBSが情報公開請求で得た「自治体の調査結果」の資料は、ほとんどが黒塗りで具体的には分からなかったが、「虐待があったこと」「著しく不適切な行為があったこと」が認定され、通報した3人によると、施設側も非を認めたという。

2022年、3人は「別の事案」について新たに公益通報をした。

その1か月後、3人に施設から“ある書面”が届いた。

(朝倉隆介さん)「これが自宅待機命令書です。全部で6枚(6か月分)」

それは、3人に“自宅待機”を命じる書面だった。

理由は、「業務のより円滑な運用に処するため」や「業務中の言動について自治体による虐待事案調査が行われているため」(1度のみ)とだけ記されていた。

自宅待機命令は長い人で半年以上で、その後、朝倉さんは解雇、鈴木さんと吉田さんは異動となった。

吉田さんは以前から患っていた適応障害が悪化し、休職を余儀なくされたという。

(吉田さん)「説明がなかったので、紙切れ1枚で。(なぜ)そんな扱いを受けないといけないんだろうと思った。もういっそ消えたほうが楽かもしれないなと」

吉田さんは、おととし労災を申請。

労基署は調査の結果、施設側の説明不足を問題視し、「自宅待機命令や異動はパワハラにあたる」として労災を認定した。

【労働基準監督署の書面より】 『待機の理由として、漠然とした理由のみが記されており、請求人(Aさん)に弁明の機会が与えられていなかったことが認められる』

『合理的な説明のないまま6か月半にわたり自宅待機をさせられ、さらに異動先でも職責に見合う仕事を与えられていない』

一方、2度目の公益通報は、自治体の調査の結果、「法令違反はなかった」と判断されたという。

(3人の代理人 在間秀和弁護士)「皆さんが声を上げたのはどういう趣旨なのか」

(鈴木さん)「おかしいことはおかしい。そういう状況を黙って見ていろと言われるのも、やはり看護師としてそれはいけない」

裁判は今も続く「こんな思いをするのなら、内部告発なんてしなければよかった」

3人は去年6月、解雇の無効や賠償を求め、裁判を起こした。

2度の公益通報が自宅待機命令や処分に影響したのではないかと疑念を抱いたからだ。

(朝倉隆介さん)「説明をしてもらっていない。やはり公益通報と(処分とを)つなげてしまう。それ(通報)に対する報復行為じゃないかな」

(鈴木さん)「こんな思いをするのなら、内部告発なんてしなければよかった。もう次に何かあっても、たぶん一生私は(通報)しない」

一方の施設側は取材に対し「係争中でコメントできない」と回答した。

裁判では、次のように主張している。

(施設側)「原告らが公益通報をしたという事実は一切認知していない。したがって、原告らに対する自宅待機命令などが公益通報に対する報復であるという可能性はない」

自宅待機命令などと公益通報との関係性を否定している。

そのうえで、施設側は朝倉さんについて「業務命令に従わず利用者にとって重大なサービスを休止させた」こと、鈴木さんについては「言動がパワハラにあたるのではないかという複数の報告があった」こと、吉田さんについては「職場への不満を述べて職員を不安にさせた」ことなどがそれぞれの処遇につながったと主張。

双方は真っ向から対立したまま裁判は今も続いている。

全国で相次いでいるという公益通報をめぐるトラブル。

国も制度の見直しに乗り出している。

去年12月、消費者庁の有識者会議は、公益通報者を守るための法律の見直しに向けた報告書を作成した。

そこには、民事裁判では通報と処分との関係について、通報者側ではなく、組織側が立証責任を負うことなどが盛り込まれた。

政府は今の国会の会期中に改正法案を提出する方針。 

改正すべきポイントは何なのか。

公益通報制度に詳しい淑徳大学の日野勝吾教授は、こう指摘する。

(日野勝吾教授)「(公益通報制度は)自浄作用、組織自体をきれいにしていく、組織を良くするための制度ですから、『良い情報を提供してくれている』というスタンスで、本来、事業者側は対応すべき」

兵庫県知事のパワハラ疑惑で関心が高まった公益通報制度。

組織の不正を発見し改善するという目的を果たすため、課題が残されている。

参照元∶Yahoo!ニュース