学校に防災施設も 物価高で滞る公共施設整備計画、住民に影響じわり

建設工事の現場をイメージした写真

地域の学校がいつまでたってもできない――。

物価高や人手不足が長引くなか、公共施設の整備事業が入札不調で滞るケースが相次いでいる。

教育など基幹的な市民サービスに影響が出ている事例もあり、自治体が対応に追われている

「工事中 立ち入り禁止」。

鹿児島市の桜島にあるフェリーターミナルから約500メートル離れた、広さ約2万6000平方メートルの空き地には、こう書かれた看板が置かれロープが張られる。

島内8小中学校を統合して小中一貫教育を提供する市立桜島学校の建設予定地だが、作業員の姿はない。 近くの無職、池田佳代さん(82)は「建設費の問題で難航するのは仕方ないが、子どもたちのため、地域の拠点づくりのために、一日も早く建設してほしい」と気をもむ。

人口減少が進む島内で地域の核となる施設を造ろうと、市が学校設置の検討を始めたのは2021年12月。

約51億円をかけて新校舎や公共施設を整備し、「桜島まるごと学校」をテーマに、火山についての学習や地産食材の調理体験など、地域の特色を生かした教育を提供することを掲げていた。

26年4月の開校を目指し、校舎のイメージ図も公開され計画が具体化していた24年7月、事態は急変した。

建設工事の入札が業者の辞退などで不調に終わったのだ。

同年10月の再入札も不調となり、市は随意契約に切り替え業者選定を急いだが、まとまらなかった。

立ちはだかったのが、人件費や資材の高騰だ。

岩坪秀樹・市教委学校整備室長は「民間の仕事が増え、技術者や作業員が不足している」と話す。

鹿児島県内の離島・馬毛島で自衛隊基地建設が進められていることや、隣の熊本県に半導体受託生産の世界最大手「台湾積体電路製造」(TSMC)が進出し、周辺で開発ラッシュが起きていることも人手不足に拍車をかけた。

新校舎の完成が少なくとも1年近くずれ込むこととなり、市は代替案として、既存校舎を活用して26年4月の学校統合、新校開校を予定通り進めたうえで新校舎完成後に移転する案と、新校舎完成を待って27年4月に開校する案を保護者らに提示。

約7割が回答したアンケートでは賛否が割れ、島民の戸惑いを反映する結果となった。

その後、市は早期開校を求める意見があったことを踏まえ、新校舎予定地から約6キロ離れた既存の桜島中学校に児童・生徒を集約して26年4月に開校することを決定。

ただ、フェリーターミナル近くに立地し島のどこからでも通いやすい新校舎と比べると、一部の児童・生徒が通学しにくくなるなど不都合も予想される。

市は、今年2月の補正予算で新校舎整備費を約11億円積み増し、総額は約62億円に膨らんだ。

4月に改めて入札にかける考えだが、物価高は進んでおり、受注業者が現れるかは予断を許さない。

将来学校に通う予定の2歳と4歳児がいる主婦、池孝世さん(40)は「地域に開放されたカフェや図書館もできると聞き、魅力を感じていたのに……。学校が実際に造られるか不安です」と話す。

入札不調で自治体の肝煎り施設の整備が進まず、計画変更を迫られる事例は全国で起きている。

沖縄県は、423億円をかけて本島東海岸に国際会議や展示会が開催できる大型のMICE(マイス)施設の建設計画を策定。

建設・運営を手がける業者を募集したが、期限の2024年9月までに参加表明はなく、29年3月に予定していた開業は遅れる見通しだ。

県が関係業者に聞き取りをしたところ、「参加したかったが、資材価格の高騰や人手不足で、施設運営事業者らと一緒に入札グループを作れなかった」などの回答が寄せられた。

県の担当者は「事業費を増やすのは簡単ではなく、中途半端な施設を造れば運営で赤字になる可能性がある。難しいバランスだ」と話す。

ほかにも秋田県では、28年秋の開館を目指す新県立体育館の入札が不調となり、事業費を254億円から364億円へと大幅に増額。

愛知県は豊山町に計画する「基幹的広域防災拠点」の整備事業者が決まらず、一体で進める予定だった消防学校と防災公園の整備事業者を分けて募集する。

ある建設業界の関係者は「施設建設では、電気工から水道設備工までさまざまな職種を集めるが、いずれも人手不足だ。

若者の業界離れも続いており、当面はこうした状況が続くだろう」と説明する。

入札制度に詳しい上智大の楠茂樹教授(公共調達制度)は「行政は議会説明などプロセスに時間がかかり、一度方針が決まると計画を柔軟に変えるのが難しい。円安で資源価格が高騰するなど業者が採算のとれる価格が急激に上がり、自治体の大型プロジェクトの入札不調を起こしている」と分析。

「不調は自治体にとって事業の優先順位を見直すきっかけにもなる。(複数の年度に分ける)分割発注で単年度予算を抑えて事業を継続したり、他の事業をやめたりするなど首長の政治的判断がこれまで以上に重要になる」と語った。

参照元∶Yahoo!ニュース