「この子さえいなければ…」医療的ケア児の母親、介助に葛藤と孤独感 相次ぐ事件”あすはわが身”

車椅子をイメージした写真

波紋を広げている“事件”が相次いでいる。

いずれも被害者は子どもで逮捕されたのは母親。

事件に共通するのは、“医療的ケア児”をめぐるものだ。

医療的ケア児とは、人工呼吸器による呼吸管理や痰の吸引など医療的な支えが日常的に必要不可欠な子どもたちのことをいう。

事件の背景には何があるのか?

ある医療的ケア児の母親は、孤独な介助の毎日に、「この子さえいなければ」と思ったこともあると話す。

医療的ケア児と家族を取り巻く現状を取材した。

医療的ケアが必要な家族をもつ人たちの生活とはどのようなものなのか、ある親子のもとを訪ねた。

神戸市で家族4人で暮らす井関宏美さん(46)。

生まれつき重度の障がいがある長女・ゆうなさん(23)は3年前、誤嚥性肺炎を起こした影響で人工呼吸器を付けている。

痰が詰まると窒息死する恐れがあるため定期的な吸引が必要で、多い時は1日数十回に及ぶ。

ものを噛むのが難しいゆうなさんのために一口ずつ口に運ぶため食事は1時間近くかかる。

自力でトイレに行けないのでおむつ交換も必要。

深夜でもアラームが鳴る度に起きて痰の吸引をしたり、自力で寝返りがうてないゆうなさんの体勢を変えたりと一晩中、目が離せない。

仕事も辞め、24時間娘を見守る生活に何度も限界を感じたという。

(井関宏美さん)「『投げ出してしまいたい』と思ったことも実際あるし『口を塞いでしまいたい』と思ったこともあります。『この子さえいなければ』と思ったことも実際あります」

しかし、宏美さんにとって「ケアが終わる」ことは、ゆうなさんが亡くなることを意味することから、葛藤を抱えている。

(井関宏美さん)「『終わってほしいな。いやでも終わるということは死だから嫌だな』とか、その行ったり来たりのところがすごくしんどいですね」

宏美さんはゆうなさんとの自宅での生活に、疲労がピークに達していた。

少しでも自身の時間を確保したかった宏美さん。

医療的ケア児を24時間預けられる「入所施設」ではなく、子どもを1日のうち決められた時間を預かってもらう「短期入所施設」を探した。

ところが探し始めてすぐに、厳しい現実を突きつけられる。

(井関宏美さん)「『看護師さんが常駐していない』というのと、『呼吸器の子は難しいです』と」

施設にゆうなさんの状況を伝えると『リスクが高い』『何が起こるかわからないから』といった理由で受け入れを何度も断られたという。

(井関宏美さん)「『誰も助けてくれへんねや』『また寝られへんのや』とか全部自分にかかってくる。悪い方にばっかり考えちゃうので。孤独感はすごく半端なかったです」

誰も助けてくれない――。

医療的ケア児と介助をする親をめぐっては、全国各地で、子どもが亡くなり親が逮捕される事件が相次いでいる。

2023年1月、兵庫県姫路市の集合住宅で寝たきりで痰の吸引が必要な当時8歳の娘を置き去りにし、窒息死させたとして、32歳の母親が去年11月に逮捕される事件があった。

嶋田未左希被告(32)は、シングルマザーで8歳の娘を自宅に一晩放置し窒息死させた罪に問われている。

娘は脳に重い障がいがあり定期的に痰の吸引が必要な医療的ケア児だった。

嶋田被告は警察の当初の取り調べに対し「言いたくありません」と、答えるだけで、動機は明らかになっていない。

事件の背景には何があったのか、嶋田被告が住んでいた自宅周辺を取材すると、医療的ケア児を育てていることすら知らなかったと話す声が多く聞かれた。

(近所の人)「(Q痰の吸引が必要な子どもがいた?)いや、知らない。あんまり話したことない」

(近所の人)「主人は介護の車が来ているのを何回か見ているんですけど、私は見たことがなくて(Q(ケア児がいる)状況だと知らなかった?)ほとんど…うちですらわかっていなかったのでそんなに。みんな知らなかったんじゃないですか」

嶋田被告は周囲との交流もなく、孤独に医療的ケア児の娘と向き合っていたのだろうか。

嶋田被告の逮捕に関する報道が出た去年11月、SNS上には、「なんとか誰かが相談できなかったんですかね?」「母親をそんな状態に追い込んだ社会の責任だろ?」などの書き込みが相次いだ。

医療的ケア児をめぐる事件はその後も続く。

去年11月には神戸市で、障がいで寝たきりの息子(中3)の床ずれを放置しけがをさせたとして母親が逮捕。

今年1月には福岡市で、7歳の娘の人工呼吸器を外したとして母親が殺人の疑いで逮捕された。

母親は「娘と一緒に死ぬためだった」と、話していたという。

国が実施した医療的ケア児(者)の家族への調査(厚生労働省2020)によると、「ケアを依頼できる人がいない」と答えた人は約4割。

課題として「対応可能な事業所が十分ではない」という回答が8割近くを占めた。

受け入れ施設が十分ではないのはなぜなのだろうか。

神戸市にある重度障がいの子どもなどを受け入れている施設「神戸医療福祉センターひだまり」を訪ねた。

(河﨑洋子院長)「(本来は)2人部屋ですがこの部屋と隣の部屋は、いったん荷物を入れて全く使わない。(Q稼動の見込みもない?)職員の雇用が追いついていないので、当面は稼動できる見込みがないという状況です」

短期入所用に6床のベッドがあるが、看護師や介護職員が足りず今は1床しか稼動できていない。

その1床も子どもを世話する母親が急病で倒れた…などの緊急時に限って受け入れている状況だ。

(河﨑洋子院長)「かなり職員の確保が難しい状況で。ご家族からは、『ベッドがあるのにどうして受け入れないのか』とお叱りの声をいただくこともあります。つらいなというのが現状ですが、(今いる)職員もアップアップの状態になって、逆に離職につながっていくというところで、あまり無理はできない」

過酷な労働状況や収入が見合わないなどの理由で、美容クリニックや他業種にすすむ看護師などが増えていて、人手が不足している。

ゆうなさんのケアを続ける母・宏美さん。

受け入れ先を探し続けた結果、幸いにも神戸市内のデイサービスを利用できるようになった。

いまでは週3回、日中6時間ほどゆうなさんを預かってもらっている。

(井関宏美さん)「全然違いますよ。離れられる数時間の間に家族のことができる」

休養や気分転換の時間を持てたことで、負担が大きく減った宏美さん。

医療的ケア児をもつ家庭で事件が相次いでいることについて聞いた。

(井関宏美さん)「この事件を聞いたとき、他人事ではないし、あすはわが身というか。自分もいつ同じようになってもおかしくはないなと思ったので。他人事とは全く思えなかったです」

参照元∶Yahoo!ニュース