「ワークマン女子が不振すぎて撤退?」投稿はなぜ起きたのか。ワークマン「着々と一般アパレル化」に見る“大胆な変化”

職人の作業着を購入している人

他企業が低迷するなかで、コロナ禍に大きく成長したワークマン。

「職人軽視ではないか?」というネット上の声をよそに、一般アパレルへの“変身”を遂げつつある。

変化が急速だからこそ、ネガティブな臆測も出るのかもしれない…。

新著『ニセコ化するニッポン』を上梓した、チェーンストア研究家の谷頭和希氏が解説する。

1月、こんな臆測がネット上で広がった。

発端は1月23日に発表されたワークマンのリリースから。

「これまで『#ワークマン女子』として展開していた業態を『Workman Colors』に改める」としたのだ。

この発表を受けてSNSなどでは「#ワークマン女子」の業態が不調だから撤退を始めたのではないか、というポストがにわかに広がった。

しかし後で説明するが元のリリースや決算資料を読み込めばそんなことは決してない。

ただ、そのように勘違いする人が出るのも仕方がないことだ。

なぜならワークマンはここ数年でかなりの変化を遂げているから。

今回の発表とその受け止めから、変化を続けるワークマンについて解説したい。

まずは発端となったリリースを見てみよう。

ここでは「#ワークマン女子」78店舗を順次、「Workman Colors」へと改名していくことが述べられている。

それと同時にカラーズの新店も意欲的に出店を伸ばし、2月20日には新店のカラーズ桜井店(奈良県)と既存店の#ワークマン女子3店舗をWorkman Colorsに変え、4店を同時オープンさせる。

そもそも#ワークマン女子は、それまで作業服屋として男性の職人ニーズが強かったワークマンに対し、顧客拡大の意味で女性向けの一般アパレルラインを大幅に取り揃えた店舗。

店内商品の60%は女性向け商品で、ワークマンの企業としてのイメージ転換を象徴する店舗だ。

特に都心や大型ショッピングモールなど、人の目につきやすい場所への出店を伸ばし、その存在感をアピールしてきた。

ワークマンは「女子店の知名度を地方で高めるための広告塔であった都会/商業施設内/直営出店を一段落させて、本命の地方/ロードサイド/フランチャイズ出店へ重点を移行します」とリリースで述べる。

一般アパレルへの路線変更を維持したまま、地方出店にも舵を切るわけだ。

しかし地方部では女性の人口の減少が起こっており、女性向けラインだけでは経営がままならない。

そこで、同じく一般アパレルでありながら男女の商品比率が1対1のWorkman Colorsの出店を増やす、というわけだ。

Workman Colorsは、ワークマンの一般アパレル化をより推し進める業態で、機能性・デザイン性に優れた衣料品を男性/女性向けにかかわらず展開する。

#ワークマン女子に比べると男性の集客も見込める業態だから地方部にぴったり、というわけだ。

まとめると、「撤退」というよりも、「業態転換」のほうが近いかもしれない。

だが、そこは広報上手なワークマンであり、「進化」「改名」といった表現を用いているのだ。

ワークマンは1980年代に誕生し、職人向けの店として全国にフランチャイズ展開をしていた。

しかし特に2018年以降、それまでの顧客層からの拡大戦略を取っている。

専務の土屋哲雄氏がさまざまなところで述べているように、作業服業界のシェアを巨大に持っていたとしてもその成長には限界があるとわかったからだ。

そこで、作業服として作られたワークマンの製品はアウトドア用にも使えることに目を付け、アウトドア市場への参入をはかった。

そして2018年にアウトドアラインを拡充した「WORKMAN Plus」を出店。

この出店が大当たりして、2020年3月期はチェーン全店売り上げが1220億円(前年同期比31.2%増)、営業利益192億円(前年同期比41.7%増)を達成した。

その後は2022年に最高売り上げを記録して以降、キャンプブームが下火になったことなども受けて「WORKMAN Plus」の収益が悪化、利益の面ではぐらつきもある。

特に#ワークマン女子(カラーズ1店舗を含む)は既存店売り上げが2024年で前年比マイナスになっていることもあり、開店特需の反動もあったにせよ、リピーターの確保がうまく進んでいない現状がある模様だ。

また、安価なアウトドアブランドはブルーオーシャンであるのに対し、#ワークマン女子やWorkman Colorsが目指す一般アパレルラインではGUやユニクロ、しまむらなど競合がひしめいており、そこでのシェアを確立するのは並大抵のことではない。

とはいえ、こうした不安要素もありながら、基本的には職人服専門店時代よりも大幅に高い利益率を出しており、ワークマンの変身は現状、成功していると見ることができる。

#ワークマン女子をWorkman Colorsに変更することも、こうした一般アパレル化の流れを進めて収益を向上させようとするものであり、基本的にはポジティブな変化として見ることができるわけである。

しかし、どうしてこうした報道に対して「#ワークマン女子が不調」という話が出てくるのだろうか。

おそらくそこにはこの10年の間のワークマンの変化が、まだ消費者のイメージと結びついていない現状があると思われる。

土屋氏は自著でワークマンのイメージを変えた店舗「WORKMAN Plus」が一般に認知されるには「苦節10年」という期間が必要だろうと予測している。

1980年代から蓄積されてきたイメージを覆すのは簡単なことではない。

そうしたイメージの変化はゆっくりと起こってくるもので、まだ私たちの中には作業服屋としてのワークマンをイメージする人も多い。

特に特徴的だった吉幾三のCMソングを思い浮かべる人も多いだろう。

ワークマンの新業態がとかく悪く語られがちなのは、その変化の過程で起こった、いわば成長痛のようなものだと私は以前指摘した。

かなりのハイペースでそのイメージの転換を行っているだけに、その軋轢も大きいわけである。

何事もそうだが「変化する」というのは、なにかと軋轢を生み出しやすい。

それまでのターゲット層だった消費者が「自分たちはもう相手にされていないのか」と思ってしまうからだ。

ワークマンの場合、一般客の流入によって駐車スペースが埋まり、職人たちが店に入れないといった現実的な不都合も起こった。  

ただ、そうした事態に合わせて職人向け特化の業態である「WORKMAN Pro」の店舗を作るといった対応も行っている。

そもそも昔ながらのワークマンも400店舗ほどあるから、必ずしも「職人軽視」ではないのだが、どうしてもそのように感じられてしまうこともある。

また、ネットを中心とする言論空間ではどうしてもネガティブな批判的意見が増幅されてしまうこともあるから、余計こうした声が目立ってしまう。

特にここ数年のワークマンは業績が若干のふらつきを見せていることもあり、そうした否定的意見の格好の餌食になってしまったのだろう。

だからこそ、#ワークマン女子なんて本業じゃないことにうつつを抜かしているからその業態を撤回させないといけなくなったんだ……という考え方が一定の納得度を持つわけだ。

こう考えると、ワークマンにとって今回のような受け止められ方は仕方のないことだと考えるしかない。

ただ、#ワークマン女子を縮小させるどころか、発展的にWorkman Colorsへと変化させ拡大していく様子には、職人層だけでなく一般アパレルとして「マス」を取りにいけるというワークマンの確信、そして強いリブランディングへの意志を感じる。

ある意味、リブランディングの過程とその途上で起こる消費者の受け止めを観測するのに、ワークマンはとても興味深い。

いわば「教科書」的な見本を示してくれているともいえるのだ。

参照元∶Yahoo!ニュース