「時短美容室」に商機あり 5分刻みの予約システムで「タイパ重視」のニーズに対応

美容室に通っている人

格安ヘアサロン業界で従来にはなかった「予約システム」を導入する動きが広がりつつある。

男女を問わず忙しい人が増え、「タイパ」に価値を求めるニーズの高まりが背景にあるようだ。

先日、東京・渋谷駅近くのQBハウスに出かけると、なんと客の半分が女性だった。

QBハウスといえば、「10分の身だしなみ」というコンセプトを掲げ、カットのみで短時間、低価格のサービスを提供してきた、キュービーネットホールディングス(HD、東京都渋谷区)が手がけるヘアカット専門店。

中高年男性がメインターゲットだと思っていたが、近年は変化が起きている。

同社広報によると、10年前と比べて若年層の女性客の割合は1.3倍増加し、地域差はあるものの全体の2割以上が女性客だという。

高い料金がかかる美容室に行く回数は抑え、毛量の調整や枝毛を切るなどのメンテナンスカットのため、ごく短時間で手軽に済ませられる格安ヘアサロンを利用する女性が増えている。

こうした状況も踏まえ、同社がいま最も注力しているのは、男女を問わず忙しい人向けに「タイパ」(タイムパフォーマンス)をより重視した新形態のサービスだという。

2020年に展開を始めた「QB PREMIUM」(以下、プレミアム)は「自分らしく時間を使える『省時間』という新しい価値を一緒に生み出していく」とアピールし、タイパを前面に打ち出している。

施術に要する時間はカットとスタイリングを含め15分。

カットのみのQBハウスの10分よりやや長いが、それを上回るタイパのメリットがある。

スマホアプリ(QB Passport)で事前予約ができるのだ。

QBハウスの場合、混雑している時間帯に遭遇すると、施術時間を大幅に上回る待ち時間を余儀なくされることもある。

しかし、「プレミアム」はアプリで事前決済予約ができるため所要時間をあらかじめ読める。

料金は2千円でQBハウス(1400円)よりもやや高めだが、働き盛りで時間に追われる20~40代を中心に高いニーズがあるという。

現在、首都圏と大阪に7店舗を展開。

4年後の2029年6月までに大阪、名古屋、福岡を含む四大都市圏を中心に50店舗に増やす計画だ。

働く女性が増えたことや価値観の多様化で美容室にも変化が起きている。

「忙しいヒトのための美容室」というキャッチコピーで、カット20分、カラー35分の施術サービスを全て予約で請け負う「時短美容室」が着実な支持を集めている。

2016年に千葉県柏市に1号店をオープンし、現在都内と千葉県内に3店舗を展開する「cut&color smart」(以下、スマート)だ。

利用客は女性がほぼ9割で、40~50代が中心という。運営するのは「For the Next Generation(FNG)」(東京都世田谷区)。

社長の横田昌史さんと、副社長の内山亜矢子さんはともに東大卒でコンサルタント会社出身。

元同僚の関係だ。

「人口減少問題解決にビジネスとして挑戦する」ことを目的に起業。

その第1弾として「スマート」を立ち上げた。

「予約できる店は、高くて遅い」が、「早くて安い店は、順番待ちで時間が読めない」。

だから、仕事や育児、介護などで忙しい人が気軽に美容室を利用できない。

この潜在的ニーズに応えようと、2人はそれまで縁のなかった美容業界に挑んだ。

その動機について内山さんはこう強調する。

「働いている女性が圧倒的に足りない資源はお金よりも時間です。施術に何時間もかけたり、待たされたりするなんてもってのほか。スマートのコンセプトは自分自身をターゲットに想定したサービスといっても過言ではありません」

創業を検討していた当時、ヘアサロン業界はQBハウスなどの主に男性向けの格安店が拡大する一方、飲み物を提供したり、マッサージをしたり、ネイルサービスもしたり、と過剰サービスに傾く女性向け高級美容室に二極化していた。

子育てと仕事の両立を図る内山さんのような忙しい女性にとって、美容室の高級志向は「時間のほうが大切なのに……」とモヤモヤを抱えることが多かったという。

スマートのサービスメニューにも内山さんの生活実感が大きく反映されている。

内山さんは白髪を染めるため2週間に1回、カラーリング専門店に通っていたが、施術に毎回1時間前後かかるのを負担に感じていた。

「私にとってはスーツを着て仕事をするのと同じぐらい、カラーリングは欠かせない身だしなみの一つですが、そこに時間をかけたくはない。生活の動線上にある美容室でカットもサクッと済ませたい、とずっと考えてきました。それでカットとカラーを主なメニューに設定しました。うちだと両方で1時間以内に収まり、一般の美容室の半分ぐらいの時間で済みます」

料金はカット平日2千円、カラー根元染めは平日2500~2750円と格安店並み。

スタイリストの高い生産性がこの価格帯を支えている。

利用の仕方は「WEB予約」「電話予約」「店頭予約」の3通り。

この予約システムは5分単位の厳密さでアイドリングタイムが生じないよう設定しているという。

社長の横田さんがこう補足する。

「予約システムのない格安店はお客さんを店内で待たせ、客に負担をかけながら自分たちの生産性を上げています。しかし私たちは、お客さんの待ち時間の負担をできるだけなくすことと、生産性向上の両立を図っています。私たちの『予約できて速い』サービスが育児や仕事、介護で忙しい人たちの暮らしをサポートすることで、大きな視点でみれば少子化・人口減少に伴う人手不足の緩和にも貢献できると考えています」

平日に子どもを保育園に迎えに行く前に利用する人や、買い物途中の「スキマ時間」を利用して訪れる人が多いという。

利用者からは「これまで美容室に通うには、休日をほぼまるまる費やさなければならないこともありましたが、この店のおかげで休日の過ごし方がリッチになりました」という声や、「この店のおかげで介護しながらオシャレに気をつかうことができ、ストレス解消になっています」と話す人も。

利用時間が読めるため、高齢者施設に入所している人が職員に付き添われて来店するケースもあるという。

時短美容室のニーズを示すこんなデータもある。

横田さんによると、千葉県と東京都大田区のスマートの2店舗では、来店歴のある人が、すでに商圏人口(店舗のターゲットになる消費者)の3割近くを占めている。

これは美容業界では異例の高さだという。横田さんはこう展望する。

「予約制である上、施術が速いため売り上げはコロナ禍の時期も含めて緩やかに伸び続けており、スタイリスト1人当たりの生産性も上がっています。今後は都内の出店数を増やし、より多くの人のニーズに応えていきたいと考えています」

参照元∶Yahoo!ニュース