トランプ氏、「非常事態宣言」でも電力網改革には多くの障壁

ホワイトハウスの外観を撮影した写真

トランプ米大統領は、信頼性の低下が指摘される米国の電力網に迅速な対応が必要と述べた。

だが特に、長距離送電線の改善は容易でない。

トランプ氏の「国家エネルギー非常事態宣言」と大統領令は、燃料不足や需要急増、異常気象増加といった電力網の問題を明らかにしている。

全米電気工業会のスペンサー・ペダーソン氏は、「米国全体でのエネルギー生産増加の必要性が認識されている」と指摘する。

緊急事態宣言は、送電線のようなプロジェクトの承認と許可を迅速化するために法律や規制を精査するよう各機関に指示し、大統領令は数年から数十年かかっていた許可手続きを簡素化することを目指している。

モルガン・スタンレーは今週、投資家向けメモで、「トランプ氏の政策は、送電インフラの許認可及び環境影響評価のペースアップにつながる可能性がある」と述べた。

しかし、課題は多い。

ペダーソン氏は大型変圧器や熟練労働者の不足を指摘し、送電網の整備維持に必要な資材の調達はトランプ政権1目に始まった中国依存からの転換が今も続いていると述べる。

また、かつてケンタッキー州公益事業委員会で委員長を務め、現在はイェール大学法科大学院で公益事業規制について教えるケント・チャンドラー氏は、地方や州、地域の規制機関は電力料金抑制に強い動機を持ち、トランプ氏の大統領令がその壁を越えられるかは疑問だ、とする。

そして、複数の州にまたがる送電線は、景観や環境への懸念から地域の抵抗を受け、しばしば阻止されている。

南カリフォルニア大学(USC)マーシャル経営大学院のエネルギー移行プログラムでディレクターを務めるション・ハイアット氏によると、トランプ氏の緊急宣言が公有地でのプロジェクトを加速する可能性があるが、地方と州の抵抗を克服するには連邦議会の立法が必要かもしれないという。

第1期トランプ政権以降、人工知能(AI)や暗号通貨のためのデータセンターの電力需要が急増し、製造業や電気自動車の普及と相まって、電力網の脆弱(ぜいじゃく)性が増している。

エネルギー省の最新報告によれば、今後10年間で電力需要の急増に対応するためには、長距離送電線の容量を5倍にする必要がある。

送電網運営企業による業界団体WIRESでエグゼクティブ・ディレクターを務めるラリー・ガスタイガー氏は、「今こそしっかりアクセルを踏むべきだというのが(トランプ大統領の)明確なメッセージだ」と語る。

送電網設備の実現は、化石燃料による発電だけでなく、これまで送電網への接続に苦戦してきた太陽光や風力発電といった再生可能エネルギープロジェクトにとっても朗報となるだろう。

非営利組織「クリーンエネルギー送電をめざす米国民」(ACEG)でエグゼクティブ・ディレクターを務めるクリスティナ・ヘイズ氏は、トランプ氏による「米国のエネルギーの解放」と題する大統領令の最も期待できる部分として、連邦議会に対する州間エネルギーインフラに関する勧告の策定を挙げた。

彼女は「これが許認可手続きの実質的な改革につながる可能性がある」と述べ、国有地が集中する西部の州はこれらの変化から最も早く影響を受ける可能性があると指摘している。

ミシガン大学のキャティー・ハウスマン教授(経済学)は、一部の電力会社が既存のガス・石炭発電所が経済性を維持できるように、再生可能エネルギー向けの送電線の展開を妨害してきた事例を研究している。

ハウスマン教授は、トランプ大統領の施策がこうした縄張り争いをなくせるとは期待していない。

「長距離送電線の構築には非常に多くの障害が存在する」とハウスマン教授は言う。

「どこから手をつけるべきかさえ、わからない状況だ」

参照元∶REUTERS(ロイター)