「日本一危険な動物園」、札幌市が「閉園命令」へ 制限区域に無許可で開設20年

札幌市の外観を撮影した画像

宅地や商業施設の開発が制限される「市街化調整区域」に動物園を無許可で開設したとして、札幌市南区の「ノースサファリサッポロ」の運営会社に対し、市が都市計画法に基づく施設の除却命令を出す方針を固めた。

飼育施設や事務所など全ての建物が対象で、市によると、動物園への除却命令は全国初とみられ、事実上の閉園命令となる。

園は市中心部から南西約20キロの山間部に位置し、2005年7月にオープン。

ライオンやトラ、ツキノワグマなど150種ほどの動物を飼育・展示し、宿泊施設もある。

来園者が気軽に動物と触れ合えるとして人気を集め、おりの中でトラに餌やりをする企画などから、テレビのバラエティー番組や旅行情報誌では「日本一危険な動物園」と紹介されることも多い。

市によると、園の敷地は全て市街化調整区域内にあるため、飼育施設などの建設には事前許可が必要となっている。

市は開業前の04年10月、無許可で建設工事が行われていることを確認し、運営会社「サクセス観光」に許可を得るように行政指導した。

だが、同社は応じることなく建設を進めて開園。

施設の拡張も続け、建築物は150棟ほどに増えた。

この間、市は文書や口頭で再三指導をしてきたが、同社は「改善する」と回答するものの従ってこなかった。

開発許可を得るには、要件を満たした造成の計画書や図面を提出しなければならない。

会社側が応じない理由や状況について、市幹部は「多大な手間と費用が必要になるため、最初からやる気がなかったのではないか」と運営姿勢の不誠実さを指摘する。

昨年11月頃からは「アザラシと一緒に宿泊する」企画などを巡り、「動物に過度なストレスを与える虐待行為ではないか」との批判がSNSに多数投稿され、市には500件以上の苦情が寄せられた。

園の営業停止や環境省に対応を求め、オンライン上の署名活動も展開されている。

市が強硬な手段が必要だと判断した背景には、同社が長年にわたり行政指導を無視してきたことのほか、園に対する厳しい市民感情を考慮したとみられる。

市幹部によると、同社に除却命令の用意があることを伝達し、その上で言い分を聞く「聴聞」の手続きを経て最終的な結論を出す。

同社は開業当初、動物園を営むのに必要な「第1種動物取扱業者」の届け出もしていなかった。

市は開業直後に把握し、手続きを取るよう行政指導した。

06年5月に届け出を受理した後は登録の更新を繰り返し、園内にフードコートや宿泊施設が造られると、食品衛生法や旅館業法に基づく営業許可も与えていた。

都市計画法に抵触する恐れを把握しながら、事後的に動物取扱業者の届け出を受理した経緯について、市側は「すでに動物が飼育・展示され、動物保護の観点から必要な措置だった」と説明する。

登録の更新、宿泊施設などの営業を認めた理由については「都市計画法とは別の法令に基づく分野で、当該の法令違反がない限りは登録更新や許可申請を拒めなかった」としている。

読売新聞の取材に対し、サクセス観光は「何もお話しすることはできない」と回答した。

都市計画法に基づく施設の除却命令=自治体などの街づくり計画に則さない違法建築物を強制的に撤去するための制度で、命令に不服があれば取り消しを求めて訴訟を起こすこともできる。

確定した命令に従わない場合、1年以下の懲役か50万円以下の罰金が科される。

民間の動物園や水族館が廃業、閉鎖した場合、問題となるのは動物たちの行き場だ。

過去には受け入れ先が見つからず、悲劇的な結末を迎えたケースもあった。

従業員の死亡事故が原因で2012年に閉鎖された秋田県鹿角市のクマ牧場では、移送先の決定を待っていた20頭を超えるクマのうち2頭が衰弱死した。

経営難から18年に廃業した千葉県銚子市の水族館では閉館時にイルカやペンギンなどが置き去りにされ、その後も運営会社の飼育員が世話を続けていたが、イルカは20年に病死した。

動物園の運営に詳しい金子正美・酪農学園大名誉教授の話「廃業する場合、動物の譲渡先を探すのは運営会社の責任だが、難航する恐れもある。動物福祉の観点からも、札幌市は会社に協力を求められた際、真摯(しんし)な取り組みが求められる」

参照元:Yahoo!ニュース