なぜフジテレビは「動画禁止会見」を強行したのか。テレビ業界が真に改革すべきこと。

フジテレビの外観を撮影した画像

フジテレビを巡る騒動が重要な局面を迎えつつあるようだ。

もともとは中居正広さんのトラブルを起点として注目された問題だったが、週刊文春等による相次ぐ報道の影響もあり、社会の批判の矛先はフジテレビに転換。

このフジテレビ批判の最大の導火線となったのが、1月17日にフジテレビが実施した記者会見での経営陣の姿勢だったのは間違いない。

特に、テレビ局の会見にもかかわらず、テレビカメラによる中継や動画撮影を禁止した結果、「紙芝居会見」とも揶揄されるような異常な映像が各局で放映され、視聴者のフジテレビへの不信や批判を爆発させる結果となった。

実際にフジテレビの社員も含め、多くのテレビ番組で、フジテレビが会見で動画撮影を禁止した姿勢を厳しく批判しており、フジテレビは1月27日にオープンな記者会見を再度開くことになった。

この1月27日の記者会見の結果次第で、フジテレビの未来が大きく変わってくることは間違いないだろう。

ただ、その会見の前にここで振り返っておきたいのは、「なぜフジテレビは、誰の目にも批判されるのが明白な、動画撮影禁止での会見を強行してしまったのか」という点だ。

結論から言うと、それがこれまでの「古いテレビ業界の常識」だったからだ。

実は、テレビ局の会見の歴史を振り返ると、テレビ局の社長会見がテレビや動画で放送されているケースが非常に少ないことが分かる。

テレビ局の会見というのは、一般的に社長が行う「定例会見」のみであって、そこは基本的に限られた新聞や雑誌の記者しか入れず、他局はもちろん、自社のカメラの動画すら放送しないというのが、これまでの「古いテレビ業界の常識」だったようだ。

例えばフジテレビの過去のケースで言うと、2020年に女子プロレスラーの木村花さんが亡くなった際の対応があげられる。

これは、コロナ禍において放映された「テラスハウス」の番組内で過度な演出が行われた結果、視聴者の誹謗中傷が木村花さんを襲ったために引き起こされてしまった事件として、フジテレビに対して大きな批判の声が巻き起こった問題だった。

この際に、フジテレビ側が木村花さんへの謝罪を行ったのは、木村花さんが5月23日に亡くなってから、1ヶ月以上たった7月3日のことだった。

しかも、この謝罪はフジテレビの「定例会見」で、当時の社長だった遠藤龍之介氏と常務だった大多亮氏が行ったようですが、その謝罪の様子は動画どころか写真も見つけることができない。

木村花さんの母である木村響子さんが誹謗中傷のリスクを負いながらも、自らの顔をメディアにさらして問題提起を行っていたのとは実に対称的と言えるだろう。

こうやってフジテレビの事例だけ書くと、こうした動画撮影禁止問題はフジテレビだけと思い込んでしまうかもしれないが、他のテレビ局でも同様な事例は多数存在する。

日本テレビも定例会見で動画なしの謝罪最近の事件で象徴的なのは、漫画「セクシー田中さん」の作者、芦原妃名子さんが亡くなられた問題だ。

この問題は、日本テレビのドラマ「セクシー田中さん」において、原作者である芦原妃名子さんと制作者である日本テレビ側との間にミスコミュニケーションが発生したことで生じたものと考えられている。

しかし、日本テレビ側が謝罪を表明したのは芦原妃名子さんが亡くなられてから、4ヶ月以上経った5月末に公開された社内調査報告書上のコメントという形だった。

実際に日本テレビ社長の石澤顕氏が、記者会見で謝罪するのは、それからさらに2ヶ月後の7月29日のこと。

そして、この謝罪も日本テレビの「定例会見」で実施されており、この謝罪を報道するメディアには謝罪の様子の動画はもちろん、写真も掲載されていない。

つまり、テレビ局における「定例会見」というのは、ライバルである他のテレビ局が入れないことが普通であることもあり、新聞や雑誌という「文字」メディアを対象としていたため、動画撮影禁止が普通で、謝罪や釈明をするのに都合が良い場所だったわけだ。

一般人からすれば、新聞や雑誌の記者であっても、スマホ1台あれば動画も写真も撮れるのに、と思われるでしょうし、トヨタのような企業の会見でもネット中継を実施することが増えているのだから、テレビ局なら簡単に自社の動画を撮影するなり、ネット中継するなりできるだろうに、と思われるだろう。

ひょっとしたらテレビ局の経営者としては、自分達が普段から映像を使って報道をしているだけに、会見での不用意な発言の映像が切り取られて使われる恐怖を知りすぎているから、動画を撮影されることに対する防衛本能が強いのかもしれない。

いずれにしても、少なくともテレビ局の「定例会見」は、そうしたスマホやネットが登場する以前の「古いテレビ業界の常識」のまま令和に突入していたわけだ。

反対を押し切り、動画なしを強行おそらく、今回のフジテレビも、こうした過去の「古いテレビ業界の常識」を基準に、今回の港社長の会見を「定例会見」の前倒しで済まそうとしたということだろう。

週刊文春の報道によると、一部の取締役からは「会見をオープンにしないと批判を浴びる」という意見が出たものの、最終的に日枝氏と港社長が動画なし、静止画のみという判断をしたようだ。

せっかく正しい反対意見がでていたのに、おそらく日枝氏や港社長には、過去の「定例会見」での謝罪でトラブルを乗り越えてきたという「古いテレビ業界の常識」をもとにした成功体験があったため、その反対意見の意味が理解できなかったということだろう。

一般人からすれば、これだけ社会の注目を集めている問題において、動画撮影禁止の会見をやれば批判が殺到するのは容易に想像できるが、「古いテレビ業界の常識」からすればテレビ局の「定例会見」は動画撮影禁止が当然だから許されると思ってしまうわけだ。

一連の報道を踏まえると、フジテレビは87才の日枝氏が未だに実権を握っていると報道されるほどであるから、こうした「古いテレビ業界の常識」に一番染まっている会社なのかもしれない。

ただ、だからと言って、今回のフジテレビの失敗に対して、他のテレビ局がフジテレビをここぞとばかりに激しくバッシングする行為には、危うさが隠れているとも言える。

ジャニーズ問題の際にもテレビ局の経営者は顔を出さずテレビ局の経営者が、謝罪や反省を映像がある会見では実施しないという傾向が、最も明らかに出たのが、昨年大きな注目を集めたジャニーズ事務所の問題に関する対応姿勢だ。

ジャニーズ事務所の問題においては、会社の代表であった藤島ジュリー景子氏や社員、タレントが、性加害を行ったジャニー喜多川氏の代わりに激しい批判の対象となることになった。

ただ、実はその後、再発防止特別チームが会見や調査報告書で「マスメディアの沈黙」と題して、マスメディアがジャニー喜多川氏の性加害問題を知りながら取り上げてこなかったことを指摘。

ある意味で性加害問題における共犯者として名指しされたことにより、日本のテレビ局も一斉に声明を発表することになる。

しかし、この際にも、この問題についてテレビ画面を通じて、視聴者に反省や後悔の念を伝えたのは、残念ながらテレビ局の経営者や過去の問題に関与していた関係者ではなく、報道番組のアナウンサーや、情報番組に出演しているタレントだけだった。

各社の社長が、過去の自社の報道姿勢について反省のコメントをしたのは、やはり「定例会見」だった。

そして、もう皆さんもおわかりだと思うが、その反省のコメントをしたはずの「定例会見」の動画も、当然のように記事上やネット上に見つけることができない。

もはやテレビ局も「報道される側」であるこうしたテレビ局の社長会見や謝罪報道の歴史から垣間見えるのは、テレビ局の経営者の多くが、まだ自分達は「報道する側」であって、「報道される側」ではないと思い込んでいるのではないかと言う点だ。

インターネットやSNSの普及により、個人のスマホの写真や動画が世界中に拡散するようになった結果、今やテレビ局も実は「報道される側」であり、視聴者も「報道する側」になり、非常にフラットなメディア環境に変わってしまった。

しかしテレビ局の一部の方は、まだ自分達だけが「報道する側」であって、「報道される側」になることはないと思っていることが、今回のフジテレビの「動画禁止会見」のような、一般人からすると火を見るよりも明らかな失敗をしてしまう背景にあると言える。

一般的な企業であれば、社員が不祥事をおこした際に謝罪するのは当然社長や責任者であるし、問題が大きければオープンな記者会見を開くことが当然のように社会から求められる。

それを先頭に立って求めていたのが、まさにテレビ局だ。

しかし、テレビ局だけは今日まで、社員や番組がなにか問題を起こしても、経営者ではなくアナウンサーに謝罪をさせたり、閉じられた「定例会見」で動画なしの謝罪をすることを常識として来てしまっていたのだ。

今回は、その「古いテレビ業界の常識」の一般人の常識との乖離が、テレビ局同士で「紙芝居会見」を報道したことにより露呈しただけと考えた方が良いと思う。

ジャニーズ事務所問題の際の調査では不足ジャニーズ事務所の問題で「メディアの沈黙」が問題になった後、テレビ局各社は第三者委員会による調査を実施するべきだという指摘や問題提起が多数行われた。

しかし、第三者委員会による調査を実施したテレビ局はなく、ほとんどのテレビ局は社内の一部のチームによる調査を実施し、特別番組を放送しただけで対応を収束させてしまった。

フジテレビも、このジャニーズ問題の調査の際に、徹底した第三者委員会による調査を実施して、社内のガバナンスを改善しておけば、今回の問題も1年以上隠蔽することなく、早期に発表することができていたかもしれない。

もっと言えば、フジテレビがジャニーズ事務所の問題を自分事と捉えて、早期に「古いテレビ業界の常識」の社内改革をしていれば、今回のトラブル自体発生しない世界線を選べたかもしれないのだ。

今回のフジテレビへの大きな批判を見て、テレビ局各社が一斉に社内調査を実施すると報道されているが、そうした各局の社内調査は、まさに今回フジテレビが厳しい指摘を受けた「第三者委員会ではない社内調査」の構造になっていることは注意が必要だ。

ネット時代ならではのテレビの飛躍はあるフジテレビにとって1月27日の会見が、会社の未来をかけた非常に重要な会見になることは間違いない。

ただ、フジテレビ以外のテレビ業界においても、今回をフジテレビだけの問題として捉えるのではなく、「古いテレビ業界の常識」から脱却するチャンスと考えて、徹底した社内調査を行い、企業文化を変えることが必要なはずだ。

最近はテレビ局の方が自らを「オールドメディア」と自虐的に形容することが増えているように思うが、テレビというビジネス自体が問題なわけではない。

「古いテレビ業界の常識」に囚われている「オールドメディア」だからこそ、社会の批判の矛先が向いているのだ。

一方で、現在日本のエンタメには世界から熱い視線が注がれている。

日本のテレビ業界が「古いテレビ業界の常識」から脱却し、ネット時代に合わせた新しい自社の役割を確立することができれば、間違いなく世界に可能性が拡がっているのだ。

今回のフジテレビの問題は、日本のテレビ業界の権威を、根底から揺さぶる規模の問題になったことは間違いない。

フジテレビはもちろん、テレビ業界の方々には、是非その問題の本質を捉え、本質的な企業改革を行っていただき、今年が日本のテレビ業界が良い方に転換した分岐点になったと振り返れる年になることを期待したいと思う。

参照元∶Yahoo!ニュース