学校給食に「量が少なくて質素」と不満の声、完食指導にも変化 変わる令和の教育現場
子どもたちにとって楽しみのひとつと言える学校給食をめぐり、「量が少なくなっている」「完食指導は良くない」などと言われるようになっている。
令和になり、学校給食がどのように変化しているのか、保護者や教育現場の声を聞いた。
小学3年生の息子を持つ大阪府の小林さん(40代/仮名)は、「給食が少ないし、質素」と不満を漏らしていた。
子どもがお腹をすかせて帰宅することもあるようだ。
「子どもによって食べる量も違うと思いますが、これから高学年になってどんどん食べ盛りになってくるので、現状の量だと心配」と話す。
学校給食の献立は、各自治体の取り組みや予算に応じて異なるが、子どもの成長を支えるのに必要なエネルギーや栄養素を、まんべんなく摂取できるように工夫されている。
しかし近年、物価高の影響もあって「メニューが質素になった」「給食の量が少ない」といった保護者からの声が上がっている。
このような現状があるなか、学校給食の現場ではどのように対応しているのだろうか。
東京都の公立小学校に管理栄養士(管理栄養士・栄養教諭)として勤める松丸奨先生は、「安価な食材をバランス良く使い、栄養価を満たす」という工夫を行っているという。
「たとえば『肉類』は、部位によっては高価になるので、豚肉ならバラ肉よりも安めの肩肉などを選択。『魚介類』も、国産の北海道産シャケを使いたいところでも、安価な海外産に変更するなどしています。なんとかやりくりはできますが、子どもたちに『旬の食材・旬の味覚』を教えてあげるのも学校給食で大切なことです。それが物価高のために制限されてしまうのは、子どもたちのためにも良くないことだと考えます」
さらに松丸さんは、米の価格上昇がとくに深刻だと感じている。
「精白米の品種や産地にもよりますが、学校給食用の一般的な米の価格は、昨年11月で1キロ323円でした。それが、今年11月は580円と、257円も上昇しています。私の学校で1日に炊く米は50キロ。昨年までは1日あたり1万6150円だったのが、今年は2万9000円になっています。これが週に3~4回を1年間ですので、その負担は大きいです」
食材費用が上がることに伴い、給食費も上昇している。
文部科学省の「学校給食に関する実態調査」によると、2021年の全国の公立小学校における給食費の平均月額は4477円。
2024年6月時点では4688円で、3年前と比べて上がっているものの、松丸さんは「食材費の高騰と給食費の上昇が合っていない」と指摘する。
「追加の補助金が入るかもわからないなか、栄養士は献立を組まなければいけません。自治体によっては、献立を半年前には完成させなければいけないところもあります。『このままでは運営ができない!』と判断せざるを得ず、食材数や品目を減らした『貧相な給食』というのがメディアで話題になりました」
そうした流れを受け、多くの自治体で追加の予算が令達され、クオリティがどうにか守られている学校は多いという。
「ただ、この追加の予算も、物価高が終わり例年並みの価格に落ち着くことが前提です。このまま物価高の波が収まらないと、給食費の値上げを検討していくことになるでしょう」
給食をめぐっては、時代とともに「残す」ことに対するとらえ方も変わってきているという。
昔は、給食は「残さず食べる」のが鉄則だった。
苦手なものがあっても、食が細くて食べ切れなくても、給食を残すと叱られて無理にでも完食する指導を受けた人も多いだろう。
小学3年生の子を持つ高橋さん(30代/仮名)は、子どもが偏食ぎみで、給食を残してしまうこともあるそうだ。
「先生から叱られることはありませんが、苦手なものを残してしまうと先生に付き添われながら、昼休みも使って食べているようです。お友達が遊ぶなか、自分だけが残って給食を食べる状況に、子どもながら抵抗感を覚えているようで……」
家庭では、味付けなどで好き嫌いを克服するための工夫をし、家で食べられるようになったものもあるようだ。
一緒に付き添ってくれる先生には感謝しつつも、「家でもしっかりごはんは食べているし、給食は食べられる範囲でいいから、完食させようとするのはやめてほしい」と高橋さんは訴える。
給食の完食指導が、大勢の前で食事をするのが苦手になる完食恐怖症につながるおそれもある。
実際の教育現場では、どのようなことに気をつけているのだろうか。
公立小学校の教員歴8年という田中先生(30代/仮名)に聞いた。
「指導は各学校や先生によってさまざまですが、今は給食を残すと叱られることはないと思います。私自身は、子どもたちになるべく残さないように声がけはしますが、無理をさせずに残させています。大切なことは、完食する指導をすることではありません。完食できなくてもいいと安心感を与えて、教師自身が一緒においしそうに食べたり、給食に出てくる食材の栄養について伝えたりして、子どもが自発的に食べられるよう促すことだと思います」
そうしていくうちに、「いつの間にか完食していたというのが理想」だと話す田中先生。
保護者や先生が、子どもたちに好き嫌いなく残さずに給食を食べてほしいと思うのは自然なこと。
しかし、それを子どもに強制するのではなく、寄り添うことが大切になるだろう。
また、学校給食は、子どもの成長をサポートする大切な食事。
物価高騰、量や内容についての課題はあるが、学校や家庭、そして自治体が協力して取り組み、子どもたちが楽しく安心して食べられる給食の形を目指していきたい。
参照元∶Yahoo!ニュース