ウクライナ戦争、長期化がプーチン氏に突きつける困難な選択

ロシアとウクライナの国旗を撮影した写真

ロシアのプーチン大統領が自分から進んで戦争をやめることはない。

ウクライナが前線を守れなければ、ロシアが進軍を止める動機は薄れ、ウクライナ政府が屈服するまで攻撃を続けるだろう。

だが、ウクライナが戦場でロシアを足止めできるとなると、別のシナリオが見えてくる。

ロシア政府が長期にわたって戦争を続けることは可能だろうが、費用はかさんでいく。

インフレが加速する、あるいは石油価格が下落すればなおさらだ。

そうなれば、西側諸国がしっかりしたウクライナ支援計画を示せば、プーチン氏を交渉のテーブルに着かせ、まっとうな停戦合意の実現に近づくかもしれない。

ロシアの戦時経済が崩壊する可能性は少ない。

だが戦闘がさらに数年長引けば、プーチン氏の前には、困難な選択がいくつか立ちはだかるかもしれない。

特に、物価上昇と増税を国民に耐えてもらう必要が出てくる可能性がある。

さらに多くの若者を死地に送り込むことになるのは言うまでもない。

社会保障や教育、医療といった分野で政府支出を削減する必要も出てくるだろう。

高金利のもとで経済を維持するために補助金を削れば、家計は住宅ローンの負担に苦しみ、一部の企業は倒産するだろう。

こうした状況が避けられないわけではない。

しかし、そうなったとしても、プーチン氏は平和を求めることはないだろう。

世論調査を見る限り、ロシア国民は戦争より平和を求めているとはいえ、自国が屈辱を味わうような妥協は望んでいないからだ。

さらに、ライバルがロシア政界に存在しない以上、プーチン氏としては国民の意向に従う必要はない。

とはいえ、苦痛を伴う消耗戦が続く見込みになれば、来年、トランプ次期米大統領が和平交渉を提案した場合、プーチン氏も妥協に応じやすくなるかもしれない。

国際通貨基金が今年3.6%の成長を予想しているとはいえ、ロシア経済は良好とはいえない。

金利は21%に達し、ルーブルは過去1年で6%下落しているのは不吉な兆候だ。

プーチン氏はロシアを戦時体制に置いている。

来年のロシアはGDPの8%に当たる17兆ルーブル(1700億ドル、約25兆5000億円)を国防・安全保障分野に投じる。

ウクライナ侵攻の前年に当たる2021年の約3倍の水準だ。

労働者が兵器工場や前線に配置転換される中で、ロシア経済はギリギリの状態にある。

失業率はわずか2.4%だ。

インフレ率は公式発表の8.5%よりはるかに高い可能性がある。

ロシア中央銀行のアンケート調査によれば、ロシア国民が感じているインフレ率は15.3%だ。

一方、ロシアの調査会社ロミールによれば、日用消費財(FMCG)の価格は9月までの1年間で22%上昇した。

ロイターの記者が調査したところ、バターの価格は今年に入ってから10月までに34%上昇している。

バター盗難事件が多発するのも無理もない。

物価上昇は、ある程度までは、平時の経済から戦時経済への移行を進める1つの手段にすぎない。

だが、インフレを退治するのは難しい。

定番の対策は金融政策の引き締めである。

だが実際のインフレ率が公式の数値より大幅に高いとすれば、21%という金利でも不十分かもしれない。

一方、政権に近い代表的なシンクタンクを含む有力なロビー団体は、借入コストの高さが経済を窒息させつつあり、利下げが必須だと主張している。

プーチン大統領がナビウリナ中銀総裁を支持し続けるなら、破産や銀行システムの緊張が生じる可能性があるが、彼女を解任すればインフレが加速するリスクがある。

いずれも厳しい状況ではあるが、石油価格が現状を維持すれば対応可能なはずだ。

西側諸国による制裁によりロシアは石油輸出収入の低下に甘んじ、天然ガス収入も痛手を被ったが、国際通貨基金の予想では、ロシアの経常黒字は今年も引き続きGDP比2.7%を維持する見込みである。

ロシア政府の財源が尽きない限り、イランや中国といった国から有用な軍需物資を購入し、消費財の供給を維持し、国民をなだめることもできるだろう。

西側諸国がさらに締め付けを厳しくすることもできる。

先進主要7カ国(G7)が科した上限価格1バレル60ドルを超える水準で石油を輸出しているロシアの「影のタンカー船団」に対する摘発を強めたり、西欧諸国がロシア産液化天然ガスの輸入をやめることもできる。

プーチン氏にとってさらに大きなリスクは、国際石油価格がさらに下落することだ。

現状でも、ウクライナ侵攻後に記録した最高値に比べ35%の下落である。

確実とは言いがたい情報だが、産油国カルテルであるOPECプラスによる供給抑制は、すでにグローバル需要の5.7%相当に達している。

一方、世界第2位の経済大国である中国では、景気の減速と、ガソリン・ディーゼル車から電気自動車への急速な転換を背景に、石油需要の成長がほぼ止まっている。

もし、トランプ政権が、中国からの輸入に対して60%、他国からの輸入に10-20%の追加関税を課すという脅しを実行に移せば、世界の貿易は打撃を受け、原油価格は急落し、ロシアの経常収支は赤字に転落しかねない。

ロシア中銀は6140億ドルの外貨準備があると報告しているが、その半分は西側諸国による凍結措置を受けている。

残り半分の3分の2は金であり、人民元の部分もある。

結果として、経常収支が危機に陥った場合、プーチン氏には頼るべき流動資産がほとんどないことになる。

もちろんプーチン氏には、経常収支を維持するために輸入を削減して帳尻を合わせることもできる。

だが、そうなれば戦争遂行に支障が出るし、軍事支出以外の経済がさらに打撃を受け、消費者は苦しむことになる。

こうしたシナリオに直面すれば、プーチン氏としても結局はウクライナとの妥当な停戦合意を受け入れることになるかもしれない。

いずれも西側諸国にとっては、凍結したロシア資産3000億ドルを兵器購入に充てるなどウクライナを支援し、石油価格の下落を期待する理由が増えることになるのだ。

参照元:REUTERS(ロイター)