「13日の金曜日」の科学、信じていない人も実は影響されている、“厄除け”には一定の効果

脳の働きについて研究している人

13日の金曜日がまたやってきた。

2022年には、暦の中で一番恐ろしいこの不吉な日は5月13日の1回だけだった。

2023年は2回、1月13日と10月13日。

そして2024年は2回、9月13日と12月13日だ。

寒い季節の中、この日はさらに震え上がる一日を過ごすことになるかもしれない。

グレゴリオ暦では、400年ごとに同じ日と曜日が繰り返される。

時折起きるこの偶然を恐れる理由など何もない。

とはいえ、13日の金曜日はかなりの影響力を持ち続けている。

米シカゴ大学ブース・スクール・オブ・ビジネスの行動科学者、ジェーン・ライセン氏は、迷信を信じない人であっても、その影響を受けうることを明らかにした。

同氏は2016年に学術誌「Psychological Review」に発表した研究で、迷信を信じる人も信じない人も、不吉なフラグが立つと悪い結果が起きやすくなると考えていることを報告した。

たとえば、「ぜったいに交通事故に遭わない」と言うと、交通事故に遭いやすくなるのではないかと不安になってしまう。

「一般論として、このように不安になるのは、不吉なフラグのあとに、悪い結果が心に浮かび、想像してしまうからです。想像することは簡単なので、それを起こりそうなことの手がかりにするんです」

このような考え方が、13日の金曜日に関してはより広く行きわたっているのかもしれない。

「たとえ積極的に信じていなかったとしても、13日の金曜日が、不吉な文化的要素として知られていること自体が、その可能性を受け入れることにつながります」とライセン氏は言う。

大したことがない出来事でも、その日に起きれば意識してしまいがちだ。

「それが直観を少しばかり後押しするので、ありえないと思っていても、少しだけもっともらしく感じられるのです」

悪い話ばかりではない。

2014年に学術誌「Journal of Experimental Psychology: General」に発表されたライセン氏の研究では、不運を避けるおまじない、つまり木を叩いたり塩をまいたりすることが、意外な結果をもたらす可能性が示されている。

この研究では、こうした厄除けを実際に行うと、迷信を信じている人と信じていない人のどちらもご利益があると感じたという。

「不吉なことをしてしまった人は、木を叩くことで、悪い結果が起きにくいと感じるようになります。つまり、こういったおまじないが不安に効くのです」

この例のように、単に迷信を意識するだけで、何が起こるかわからない制御不能な世界の中で秩序の感覚を得るのに役立つ可能性があると、米シンシナティ大学の英語学教授であるレベッカ・ボラー氏は言う。

ボラー氏はナショナル ジオグラフィックの取材に対し、「ルールがあり、そのルールに従うようにすれば、気分が楽になります」と話している。

そして13日の金曜日には、「リスクを避けたり、車にガソリンが入っていることを再確認したり、といった行動を取ります」と言う。

「家から出ないようにする人もいますが、統計的に言えば、ほとんどの事故は家の中で起きるので、最善策ではないかもしれません」

迷信の起源がどこにあり、それがどう進化してきたのかを突きとめるのは至難の業だ。

しかし、米国コネチカット州ニューロンドンのコネティカットカレッジで心理学教授を務めたのち、作家として活動しているスチュアート・ヴァイス氏は、ナショナル ジオグラフィックの取材に対し、イエス・キリストが十字架にかけられる前にとった「最後の晩餐」の13番目の客でありイエスを裏切ったとされる使徒ユダと、絞首刑の日として知られていた金曜日にイエスの磔刑が行われたことが由来となった可能性があると答えている。

こういった要素が組み合わさることで、「すでに不吉だった日に13という数字が重なり、いわばダブルパンチになったわけです」とヴァイス氏は言う。

聖書学者の中には、イブが禁断の果実でアダムを誘惑したのが金曜日で、アベルが兄のカインに殺されたのが13日の金曜日だったと考える人もいる。

おもしろいことに、スペインでは、この不吉な数字と曜日の組み合わせは気にされていないようだ。

ただし、13日の金曜日は何も警戒する必要がない代わりに、13日の火曜日がその年で一番危険な日とされる。

13日の金曜日を恐れるのは、「13恐怖症(triskaidekaphobia)」のひとつの形態だ。

この13恐怖症には、さらに古いルーツがあるという説もある。

米国デラウェア州ニューアークにあるデラウェア大学の数理教育リソースセンターの准政策研究員、トーマス・ファーンスラー氏は、13が問題なのは、12の次の数字だからだと言う。

数秘術においては、12は「完璧な」数字だ。

1年は12カ月、黄道は12宮、オリンポスの神々は12神。

ヘラクレスは12の功業を行い、イスラエルには12の部族がいて、イエス・キリストには12の使徒がいた。

「13が不吉なのは、完璧を少し超えているからです。決まりの悪い、落ち着かない数なのです」

イタリア人が恐れるのは、13日の金曜日ではなく17日だが、それも数秘術で説明できるかもしれない。

17はローマ数字でXVIIと書くが、これを並び替えると「VIXI」となる。

これはラテン語で「私の人生は終わる」という意味だ。

根拠がないにもかかわらず、ハシゴの下、黒猫、不吉な数といったものを恐れる迷信は驚くほど根強い。

「一度文化として定着したことは、ずっと続く傾向があります」。

米コーネル大学の心理学教授、トーマス・ギロビッチ氏はそう話す。

「迷信を無視すれば、運命を試すような気分になってしまうのです」

固い意志をもって、あるいは必要に迫られて、歯を食いしばりながらその日を耐える人もいるだろう。

13日の金曜日には、普段とは違う行動を取る人もいる。

たとえば、この日には決して旅行しない、家を買わない、有望株に飛びつかないという人もいる。

民俗歴史学者で、ストレス管理センター恐怖症研究所を設立した故ドナルド・ドッシーは、かつてナショナル ジオグラフィックの取材に応え、こういった行動の抑制で経済活動が大きく停滞する可能性もあると述べた。

ただし、行動を変える人がいる一方で、実際にトラブルが増えるわけではないとする研究も多い。

2011年にドイツで行われた研究によると、13日の金曜日に手術を恐れる理由は何もない。

手術の回数も結果も、ほかの日とまったく違いはないからだ。

2012年7月に学術誌「The American Journal of Emergency Medicine」に発表された別の研究によると、米国の緊急救命室の患者数も増えていない。

不合理な恐怖が現実の行動に影響することがある株式市場においても、13日の金曜日に何か悪いことが起きたことはない。

いずれにしろ、13日の金曜日はそう頻繁にあるわけではない。

2023年のように、ほとんどの年は2回だが、1回だけの年もある。

ただし、2026年のように、1年に3回ある不吉な年もある。

2024年の13日の金曜日はすぐに過ぎていくだろう。

そうすれば、どんなに迷信深い人でも安心できるはずだ。

少なくとも、次の13日の金曜日がやってくるまでは。

参照元:Yahoo!ニュース