異例の強さの米国株、来年の隠れた最大リスクか
多くの大手投資家は、先行きに不安な気持ちを抱えて来年を迎えようとしている。
これは一見驚くべき事態に思えるかもしれない。
世界経済は今のところハードランディングを回避しており、米国株は2年連続で20%かそれ以上の上昇率を達成する軌道にある。
一方で資産運用担当者が心配する理由としては、トランプ前大統領の復帰や根強いインフレ懸念が挙げられる。
だが最大のリスクは、投資家の米国株依存姿勢ではないだろうか。
2年にわたり世界の他地域の株式をしのぐリターンを生み出した米国株はさらに強さが増している。
先進国・途上国合計で上場2650社を含み、時価総額約80兆ドルに上るMSCIオールカントリー世界株指数における米国のウエートは現在67%で、次に大きい日本は5%弱に過ぎない。
世界の主要株価指数は中国株の存在感を過小評価しているとはいえ、米国株の支配的地位を無視することはできない。
しかもその地位は強まり続けている。
10年前、MSCIオールカントリー世界株指数で米国のウエートは約50%だった。
こうした流れは自己増殖的な性格も帯びる。
米国株が他の地域の株をアウトパフォームすることで世界の主要指数におけるウエートが自然と高まり、指数に連動したパッシブ運用をする投資家に米国株組み入れ拡大を事実上強制しているからだ。
企業にとってS&P総合500種の仲間入りは今や、黄金のチケットになっている。
ビッグデータ分析のパランティア・テクノロジーズは、9月のS&P総合500種採用が認められた翌日に14%値上がりした。
建材メーカーのホルシムなどの欧州企業がS&P総合500種に入りたいと熱望するのも無理はない。
]しかし、そうした米国株の「引力」は多くの大手投資家にとってジレンマをもたらしている。
専門的な資産運用担当者のほとんどは、分散投資を好む。
運用資金をさまざまな地域や資産クラスに拡散させることで、突然の値下がりに伴うリスクを減らし、より長期の持続的なリターンを確保できる。
ある大手年金基金の責任者は最近Breakingviewsに「われわれは米国(の配分比率)が大きくなり過ぎないよう注力している」と語った。
ただしそうした方針はこれまでのところ痛みを伴っていると認めている。
当然ながら上場企業株式というのは、債券やコモディティー、不動産、オルタナティブ資産を含めた幅広い投資商品の一角に過ぎない。
それでも米国株の非常に堅調な値動きが近く勢いを弱めると予想する向きは乏しい。
大半の大手銀行のストラテジストは、来年末のS&P総合500種の水準を6500―7000、つまり年間で7―15%上昇すると想定する。
バンク・オブ・アメリカのアナリストチームの予想では、米企業の増益率は来年、金利低下を追い風に13%と今年見込みの10%を上回る。
UBSのアナリストチームは、景気後退時以外で米連邦準備理事会(FRB)が利下げした現在のような局面で、利下げ開始からの12カ月で米国株は平均18%上昇していることが分かったと指摘している。
米国株の例外的な強さには、しっかりした歴史的な根拠も存在する。
データトレック・リサーチのニコラス・コラス氏によると、過去10年でS&P総合500種の年間リターンは13%と、日本株の6.1%、欧州株の5.3%、新興国株の3.4%をいずれも上回った。
そしてこれは最近だけの現象ではない。
エルロイ・ディムソン氏ら3人の研究者が1900年までさかのぼって調べたところ、米国株のドル建て実質平均リターンは6.6%で、外国株は4.5%だった。
だから投資家がそうしたトレンド、特に米巨大ハイテク企業が人工知能(AI)ブームのけん引役という地位を築いた今、それに逆らうポジショを築くには相当な勇気が必要だろう。
とはいえ警戒を要する理由も幾つかある。
まずは極端な集中という問題。
米国の最大手級企業は株式市場における存在感は異例なほど大きくなった。
S&P総合500種の時価総額を見ると、上位10銘柄が全体の約35%を占めている。
この比率は「ニフティ・フィフティ」と呼ばれた一握りの大型優良銘柄に投資が集まった1970年代以降で最大に達する。
それによって投資家は、ごく一部の好調な企業に命運を左右される状況に置かれている。
世界全体の株価指数にもこの集中が反映され、MSCIオールカントリー世界株指数ではアップルのウエート4.5%が、組み入れられた日本株全部のウエートとほぼ等しい。
このアップルとエヌビディア、マイクロソフト、アマゾン・ドット・コム、メタ・プラットフォームズ、テスラ、グーグル親会社アルファベットといった米国株の超大型7銘柄(マグニフィセント・セブン)の合計時価総額は16兆ドルで、世界株合計の2割強だ。
ほとんどの尺度に照らすと、米国株は割高でもある。
経済学者ロバート・シラー氏が考案した「景気循環調整後の株価収益率(PER)」を使うと、米国株のPERは1990年代終盤のドット・コム・バブル期以外でも史上最も高い。
外国の大型・中型株で構成するS&P世界株指数(米国以外)のPERは18倍前後で、S&P総合500種は28倍と外国株との比較でも割高化している。
こうしたかい離はハイテクセクターだけでなく、米国の大手銀行や製造業企業の株も外国の同業に対してプレミアムが乗せられている。
これらは米国株の上昇余地が限られるかもしれないと信じるのに十分な理由と言える。
S&P総合500種の年間上昇率が3年連続で20%を超えたのは過去1回だけで、それは1990年代終盤だった、とドイツ銀行のストラテジスト、ヘンリー・アレン氏は解説する。
ゴールドマン・サックスのアナリストチームは、向こう10年のS&P総合500種について、物価上昇率をかろうじてカバーする程度の名目ベースで3%程度の年間上昇率にとどまると見ている。
一定期間さえないリターンが続いたとしても、必ずしも米国株の例外的な強さの幕切れを意味するわけではないだろう。
米国の法規制は株式投資家にとって有利な環境を提供し続けるし、トランプ氏は株式の高いリターンを自らの政治的成功と考えているように見える。
それでも足元の米国株の存在の大きさや力からすると、世界中の投資家はかつてないほど米国株の値動きに影響されやすくなっていると分かる。
投資家にとっては来年、最も大きなリスクが日常的な風景の中に潜んでいることになる。
参照元:REUTERS(ロイター)